#28

ブロードは、片耳かたみみに付けていたインナーイヤーヘッドホンタイプの通信つうしんデバイスに手をやった。


「ラムズヘッドか? こちらの準備じゅんびととのった」


誰かと連絡れんらくを取っているブロードの姿すがたに、ヘルキャットとアリアは両眉りょうまゆを下げていぶかしげな表情ひょうじょうをする。


ストリング帝国ていこくにいる同胞どうほう連絡れんらくでもしているのか。


それとも自分たち以外いがいにも、このバイオニクス共和国きょうわこくへ来ていた者がいたのか。


どちらにしても、そんな話を二人はブロードから聞いていなかった。


それにラムズヘッドというのは、たしか共和国からハザードクラスに認定にんていされているフォクシーレディの会社――エレクトロハーモニー社の科学者かがくしゃの名前だが――。


「あの、ブロード大佐たいさ? 何か作戦さくせん変更へんこうがあったのですか?」


「それにラムズヘッドって……。まさかエレクトロハーモニー社が協力きょうりょくしてくれるという話なのですか?」


ヘルキャットとアリアがたずねると、ブロードは通信を切った。


そして、二人と向かい合ってその口を開く。


「協力とは少しちがうな。ラムズヘッドのやつは、おれ効果装置エフェクトを買ったときに、追加ついか商品しょうひんをサービスしてくれただけだ」


「追加の商品……?」


「それはなんなのでしょう……?」


ヘルキャットとアリアがふたたびブロードに質問しつもんした瞬間しゅんかん――。


広場にあった木々きぎから人型ひとがたのドローンが集団しゅうだんあらわれ、二人の身体からだ拘束こうそくした。


その無骨ぶこつ金属きんぞくうでつかまれ、ヘルキャットとアリアがさけんでいる。


「これは一体いったいッ!? まさか共和国きょうわこく兵器へいきかッ!?」


「くッ!? ブロード大佐たいさだけでも作戦を続行ぞっこうしてくださいッ!」


「ああ、最初さいしょからそのつもりだ」


あわてている彼女たちへブロードが言う。


今ヘルキャットとアリアをつかまえているドローンは、エレクトロハーモニー社の製品せいひん


その名を『ナノクローン』というラムズヘッドが発明はつめいした人型ひとがた戦闘せんとうようドローンである。


全高ぜんこう3.5m 重量じゅうりょう2.2t。


その金属きんぞく装甲そうこうには、ブルーのカラーリングがほどこされている。


さらにスモールコーラスというビーム兵器へいき搭載とうさいし、通信装置そうちもある。


「奴が何を考えてこいつらをくれたのかはわからんが、せいぜい使わせてもらう」


ナノクローンのことを説明せつめいしたブロードは、そのまま言葉を続ける。


ブロードははじめからヘルキャットとアリアを死なせるつもりはなかった。


二人が、今回のストリング帝国の強硬派きょうこうはくわだてたテロ行為こういのことを知ったのはあくまで偶然ぐうぜんであり、無理に止めてさわがれるよりは作戦に同行どうこうさせたほうがいいと彼は考えたのだ。


「戦場でこまとなって死ぬよりは、共和国の象徴しょうちょうであるアーティフィシャルタワーを破壊はかいしたかったのだろうが、お前たちをここで死なせるわけにはいかん」


「私たちをだましていたのですか……?」


アリアがつぶやくように訊くと、ヘルキャットが怒鳴どなり始めた。


その小柄こがらな体をふるわせ、必死ひっしにナノクローンの手からのがれようとしている。


「ふざけるなッ! 大佐は私たちの覚悟かくごみにじるつもりですかッ!? 早くこの拘束を解いてくださいッ! 私はここへ死に来たんですよッ! このまま国へ帰れるかッ!」


「悪いな、ヘルキャット。いくら俺でもめいの数少ない友人を道連みちづれにはできんよ。せいぜい腕を上げてこの後の戦争で活躍かつやくしてくれ」


「大佐ッ! そんなのって……ないですよぉぉぉッ!」


ヘルキャットが大声を出すと、ブロードはナノクローンへ指示しじし、彼女とアリアの気をうしなわせた。


それをたおれながら見ていたジャズが、ふるえながらも顔を上げる。


「最初から一人で死ぬつもりだったなんて……。ブロード叔父おじさんらしい……」


「まあ、聞いてのとおりだ。これでお前の友人は助かり、この後はナノクローンに帝国へはこばせるようにしている。もちろんジャズ、お前も一緒いっしょにな」


「そう……。なんか安心あんしんしちゃった……」


ジャズはそう言いながら笑みをかべると、ふるえながらも立ち上がった。


そして、落ちていたインストガンをひろい、銃口じゅうこうをブロードへと向ける。


「でも……それでもあたしは……あなたを止めるッ!」

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