#21

にぎったその右手首みぎてくびには、金属きんぞく腕輪バングルが見えた。


そして、ブロードはその腕輪バングルに付いているスイッチをオンにする。


適合者てきごうしゃはたしかに強い。だが、同じようなちからさえ身に付ければ、お前のような子どもには負けんよ」


その言葉と共に――。


突然ブロードの右うで機械化きかいかした。


「そんなッ!? ブロード叔父おじさんも適合者だったのッ!?」


勘違かんちがいするな。これは効果装置エフェクトと呼ばれる適合者の力を再現さいげんするものだ」


それを見てジャズがさけぶと、ブロードは彼女をはなで笑いながら説明せつめいを始める。


この効果装置エフェクトと呼ばれる腕輪バングルは、エレクトロハーモニー社の製品せいひんだそうだ。


エレクトロハーモニー社とは、一般いっぱん家電かでん製品から子どもの玩具おもちゃ――。


さらには軍需ぐんじゅ産業さんぎょう分野まで乗り出している世界でもっと有名ゆうめいな会社である。


しかもただの会社ではない。


かのハザードクラスの一人であるフォクシーレディが経営けいえいしているのもあって、ストリング帝国ていこく以外すべての国が加盟かめい国であるバイオニクス共和国きょうわこくですら口が出せない企業きぎょうなのだ。


そのうえ報酬さえもらえば要人警護からボディーガードまでにも手を出し、争いがあればどちらにも武器を売るという社訓のためか。


社長であるフォクシーレディは死の商人デスマーチャントととも呼ばれていた。


「少々おしゃべりがぎたな。ともかくこいつさえあれば適合者だろうがハザードクラスだろうがおくれをとることはない」


ジャズはブロードの言葉に表情ひょうじょうゆがめるとインストガンから電磁波でんじは発射はっしゃ


無駄むだだ。今の私は適合者と同じようなちからていると言っただろう」


だが、ブロードの機械の腕がそれを弾き飛ばす。


マシーナリーウイルスが体内から人間を機械化させるのとは反対に、効果装置エフェクトは体外から機械化させる機器ききである。


いわば極薄ごくうすのパワードスーツを身に付けているようなものだ。


「今度はこちらから行くぞ」


さらに電動でんどうアクチュエーターや人工じんこう筋肉きんにくなどのプログラミングにより、適合者と同じく使用者の身体能力を向上こうじょうさせる。


ジャズが気づくと、いつのにかブロードが目の前にいた。


普通ふつうの人間では、今の彼の動きを目で追えないのだ。


だがジャズのそばには普通ではない人間がいた。


「やらせるかッ!」


そう、適合者である少年――ミックスだ。


ミックスにはブロードの動きが見えているようだ。


いつの間にかあらわれたブロードにおどろくことなく、彼を吹き飛ばそうとこぶしを振り抜く。


だがブロードはその拳を軽くかわし、まるで見下すような視線しせんでミックスのことを見ていた。


「こちらの動きに対応たいおうはできるようだな」


ミックスは続けて右、左と拳を振るうが、ブロードにはかすりもしない。


ジャズは二人の動きを見て割って入ることができずにいた。


それは、ミックスとブロードの動きを目で追うことさえできなかったからだった。


当然、それはヘルキャットとアリアにもいえた。


彼女たちもジャズと同じように唖然あぜんとしてその場に立っているだけだ。


「くそッ! なんで当たらないんだよッ!」


所詮しょせんは子ども。効果装置エフェクトによって適合者との差がなくってしまえば、こうも容易たやすくなるか」


「うるさいッ! 俺はあんたたちを止めるんだッ!」


「いくら止めると息巻いきまいたところで、路上ろじょうでやる喧嘩けんかのような攻撃では私をとらえることなど不可能ふかのうだ」


しばらく攻撃を避けていただけのブロードだったが、当然躱した瞬間しゅんかんにミックスのボディへアッパーを突き入れた。


「ぐはッ!」


「ミックスッ!?」


ミックスはジャズの叫び声を聞きながら、胃液いえきを吐いて吹き飛ばされていく。


そして鉄筋てっきんコンクリートへとその身をたたきつけられる。


ジャズがミックスのほうを見ると、き出しの鉄筋が彼の身体に突き刺さっていた。


「ふん、子ども相手にやり過ぎたか。だか、その怪我けがではもう戦えまい。もう貴様きさまに我々を止めることは無理だな」


倒れるミックスを見下ろし、ブロードは彼から離れるとジャズのほうへと歩き出すのだった。

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