#20

「その機械きかいうで……まさかお前は……マシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃなのかッ!?」


みながミックスの腕――メタリックな白い金属きんぞく装甲そうこうを見て言葉をうしなっている中――。


ブロードがさけび声をあげた。


マシーナリーウイルスとは――。


数年前にストリング帝国ていこく科学者かがくしゃたちが開発かいはつした、人体じんたい侵食しんしょくする細菌さいきん


このウイルスは、体内で一定の濃度のうどまで上がると成長せいちょうし、宿主しゅくしゅ身体からだを機械する。


機械化した者は、人体をえたちから速度そくどで動けるようになるが、宿主は自我じがを失い、ストリング帝国の完全なる機械人形にんぎょうへと変わってしまう。


――のだが。


かつてコンピューターの暴走ぼうそうで世界がほろぼされようとしていたとき。


それをすくったアン·テネシーグレッチも、かつてのストリング帝国によってマシーナリーウイルスを体内に埋め込まれていた者だった。


しかし彼女はその機械化を完全にコントロールしてみせ、そのすさまじいちからを自分の意思いしあやつった。


今はきストリング帝国の皇帝こうてい――レコ―ディ―·ストリングは、マシーナリーウイルスにおかされても人形にならない者のことを“適合者”と呼ぶ。


そして、完全にコントロールされたはマシーナリーウイルスは、もはや侵食しんしょくではなく装甲アーマード認識にんしきされた。


「あの人と……アン·テネシーグレッチと同じ力……」


ジャズが、ミックスの機械化された腕を見てうめくように言った。


ヘルキャットとアリアも突然の出来事できごとに口を開いたままだった。


それもしょうがない。


現在この世界で確認かくにんされている適合者は、アン·テネシーグレッチ、ローズ·テネシーグレッチ、ノピア·ラシックの三人だけだ。


その三人は先ほど出たコンピューターの暴走と止めた救世主きゅうせいしゅとして知られ、人々は彼女たちのこと“ヴィンテージ”と呼ぶようになった。


そのまさかの四人目が、ストリング帝国とは関係かんけいのないバイオニクス共和国きょうわこくに住んでいるただの十代じゅうだいの少年とは誰も思わないだろう。


「ジャズ、ジャズッ! しっかりしてよ!」


「あ……ああ。 いやでもあんた……その腕……?」


「そんなことはいいから下がってて!」


「ふざけないでよ! あたしも戦う、三人はあたしが止めるんだ!」


ジャズも銃剣じゅうけんタイプのインストガンをかまえてミックスにならぶ。


ミックスは、そんな彼女を見て笑みを浮かべていた。


「本当に頑固がんこだなぁ……」


「なにか言ったッ!?」


「いえ、何も言ってないです……」


そして、二人は臨戦りんせん態勢たいせいへと入り、ブロードたち三人をにらみつける。


「くッ!? アリアッ! あなた、あいつとやりあっていてわからなかったのッ!?」


「彼の動きは間違まちがいなく素人しろうとでした。……ですが、まさか手の内をかくしていたとは」


ヘルキャットとアリアは、インストガンの照準しょうじゅんをミックスに合わせてはいたが、彼が適合者だったことにおどろき、冷静れいせいさを失っていた。


だが、そんな二人へブロードが言う。


狼狽うろたえるな二人とも! たとえ相手が適合者だろうが。我々われわれのやることは変わらぬッ!」


その一言で、ヘルキャットとアリアは落ち着きを取り戻した。


そうだ。


相手が誰だろうが自分たちのやることは変わらない。


こちらは最初さいしょから死ぬつもりでこの国へ来たのだ。


邪魔じゃまをするなら親友しんゆうだろうが適合者だろうが、打ちたおすだけだ。


二人はそう思うと電磁波でんじは発射はっっしゃ


轟音ごうおんひびき、閃光せんこうほとばしる。


ジャズはそれをインストガンをって相殺そうさつ


ミックスのほうは機械化した腕で、先ほどと同じように弾き飛ばす。


即席そくせきで組んだにしてはいきが合っているな。どうやらお前らは相性あいしょうがいいらしい」


「ちょっとッ! そんな誤解ごかいされるような言い方しないでよッ! あたしはこいつのことなんかなんとも思ってないんだからねッ!」


ブロードがそういうとジャズが激しく否定ひていした。


そんな彼女を見たミックスは、大きくため息ををついてあきれている。


すると、ブロードがヘルキャットとアリア二人を下がらせ、一人前に出てきた。


「それにしてもまさか適合者が出てくるとはな。ハザードクラスの対策たいさくとして、こちらも準備じゅんびしていておいてよかったというところか」


ブロードはそうつぶやくと、左腕で自分の右手首をにぎった。

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