#19

アリアは男とヘルキャットのいるほうへと下がった。


うつむいている彼女のかたをヘルキャットがやさしくでいる。


「ブロード大佐たいさ……。じつは……私……」


報告ほうこくは後だ。今はジャズの動きを止めることを優先ゆうせんする」


アリアはブロードと呼んだ男にそう言われ、ヘルキャットが持ってきていたインストガンを手ににぎる。


そして、三人はジャズへその照準しょうじゅんを合わせた。


そこから素早すばや三方向さんほうこうへと分かれ、げ道をふさぐような陣形じんけいをとる。


指揮しきをしているのはブロード。


この一瞬いっしゅんで動けたヘルキャットもアリアも優秀ゆうしゅうだが、それ以上いじょう指示しじを出したブロードの判断はんだん的確てきかくとしか言いようがない。


戦いれをしているのがわかる行動こうどうだった。


「ジャズ、両手りょうて我々われわれに見えるようにげろ」


「ブロード叔父おじさん……。まさかあなたまで共和国きょうわこくに来ていたなんて……」


ジャズは、ブロードに言われたとおりにしながらつぶやくように言った。


銃口じゅうこうを向けながら、ジリジリと彼女へとちかづいて行くブロード。


そして、ヘルキャットとアリアに左右さゆうからねらいをつけさせたまま、自分はインストガンを下ろした。


「お前こそ、ノピア将軍しょうぐんに言われて来たのか?」


ちがいます! あたしの独断どくだんです! そこの二人を……ヘルキャットとアリアを止めたくって……」


「それはあきらめろ。もはや彼女たちは止められん。我々はだれかの命令めいれいで動いているわけではないんだ」


「なら叔父さんが二人をそそのかしたんですかッ!?」


声をあらげたジャズに、ヘルキャットがしずかにこたえる。


「違う。私とアリアは自分の意思いしで大佐についてきた」


「ヘルキャット……。話ならさっきアリアが話していたのを聞いたよ! おねがい! 自爆じばくテロなんてやめてッ! 二人が死んじゃったら……あたし……いやだよ……」


ジャズの言葉にヘルキャットの手がふるえる。


それはアリアも同じで、二人はここへ来て彼女の気持ちにもうわけなさを感じているようだった。


ジャズはそんな二人とブロードへ言葉をかけ続けた。


一緒いっしょに国へ帰ろう。


こんな方法ほうほうじゃない、もっと平和的へいわてきな戦い方を見つけよう。


ジャズは、今ストリング帝国ていこく内部ないぶにある強硬派きょうこうは慎重派しんちょうはたがいの妥協点だきょうてんを見つけ合うことをうったえ続けた。


だが、ブロードは突然とつぜん彼女の胸倉むなぐらつかんでにらみつける。


「お前は、なぜわからんのだ。そんなあまいことをいう人間がいるから国がまとまらんのだ!」


「でも叔父さんは、そもそも戦争そのものに反対はんたいしていたじゃないですか!?」


一歩いっぽも引かず、はげしく睨み返すジャズ。


先ほどからのジャズの発言はつげんでわかるが、この二人は従妹いとこ――叔父とめい関係かんけいである。


「それはもう七年も前の話だ。今やバイオニクス共和国きょうわこくはストリング帝国を食い物している……。それをお前は……このままだまって見ていろと言うんだな」


「そんなこと言っていないッ! あたしはやり方が間違まちがっていると言ってるんだ!」


「変わったな、ジャズ。お前も弟の奴も……。アン·テネシーグレッチを見てからか……。だが、あの女がとなえた理想りそう主義しゅぎが帝国をここまで追いつめたのだぞ」


「アン·テネシーグレッチは関係ない! あたしはもう叔父さんの知っているころのあたしじゃないんだ! 自分がしんじた道を進んでいくって、ずっと前に決めたんだからッ!」


「そうか……」


ブロードはそう呟くと、ジャズの胸倉から手をはなした。


そして、右手をあげてそれを下ろす。


彼はヘルキャットとアリアへ、てと指示しじを出したのだ。


安心あんしんしろ。お前のことを殺しはしない。インストガンの出力は最大まで落としてある。ただ我々が自爆した後、かならず共和国の捜査そうさが始まる。そしてその犯人がストリング帝国の人間だとしれば、再び戦争が起こるだろう。ジャズ、お前は国のために戦ってくれ」


ジャズへ背を向け、そう言ったブロード。


ヘルキャットとアリアは、表情ひょうじょうゆがめながらもインストガンのトリガーを引いた。


放出ほうしゅつされた電磁波でんじはがジャズへとおそい掛かったそのとき――。


「うおぉぉぉッ! ジャズゥゥゥッ!」


放たれた電磁波が、突然飛び出してきたミックスによってはじかれ、あらぬ方向へと飛ばされていった。


その場にいた誰もが目をうたがった。


バカな、あり得ない――と、まもられたジャズでさえ驚愕きょうがくしている。


「女の子に銃口を向けてえらそうにするなんて……最悪さいあくだよッ!」


その理由りゆうとは、電磁波を弾いたミックスのうで機械化きかいかしていたからだった。

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