#9

「ジャズ!? ジャズッ!?」


ミックスとニコはあわててたおれたジャズへとる。


ヘルキャットとアリアは、そんな彼へふたたじゅう照準しょうじゅんを合わせた。


好都合こうつごうだ。このまま始末しまつさせてもらう」


ヘルキャットがそういうとじゅうから電磁波でんじは発射はっしゃされた。


ニコがジャズをまもろうと、彼女をきかかえているミックスの前に立ったが――。


「いいから逃げるんだよッ!」


そのゆたかな毛でおおわれた身体からだを彼に持ち上げられ、その場かられて行かれる。


ジャズをかたに担ぎ、手にニコを持ったミックスが電磁波をけると、ヘルキャットとアリアはすぐに彼を追いかけ始めた。


「くッ!? 逃がすなアリアッ! ここで私たちの存在そんざいが知られたら計画けいかく支障ししょうが出てしまうぞ!」


「わかってます! でもあの子、とてつもなく足がはやいですよ!」


走るミックスの後ろからは小柄こがらとは思えぬヘルキャットの凛々りりしい声と、長身ちょうしんらしからぬアリアの可愛かわいらしい声が聞こえていた。


ミックスにはそんなことを気にしている余裕よゆうはなく、そんな彼女たちから逃げるために体育たいいく授業じゅぎょうでもしたことがない全力疾走ぜんりょくしっそうけていく。


さいわいだったことは、ここはミックスにとってよく知るまちだったことだ。


路地裏ろじうらへと入れば中は入り組んでおり、少しでも姿すがたが見えなくなれば追跡ついせきすることはむずかしくなる。


ミックスはそれをうまく利用りようし、二人から逃げきることに成功せいこうした。


「なんとか逃げきれたみたいだね」


人目ひとめのない公園こうえんのベンチへとジャズを寝かせ、周囲しゅうい警戒けいかいするミックス。


街からはこの共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしき――監視員バックミンスターくるまらすサイレンが聞こえていた。


ミックスは周囲しゅうい危険きけんがないことを判断はんだんすると、ジャズの状態じょうたいを見た。


電磁波をまとも受けたというのに、彼女に大きなケガはなさそうだったが、ミックスは一応いちおう病院びょういんへ行こうと考える。


「大したことない……。いいからほうっておいて」


「でも、あんな見たこともない銃の攻撃こうげきを喰らったんだよ!? ここは大事だいじをとって医者いしゃのところへ行かなきゃ!」


ジャズは顔を強張こわばらせながらも自分が持っていた銃剣に手をやった。


そして、心配しんぱいするミックスへ話を始める。


先ほどいた少女二人が持ってた銃の名はインストガンといい、電磁波を放出ほうしゅつする突撃とうげき銃だということ。


自分が持っている銃剣はそれと同じでタイプのものであること。


さらに今彼女が着ている服は、電磁波の威力いりょく軽減けいげんさせる素材そざいでできていると。


「でもさ……いくら軽減できるからって、ダメージがないわけじゃないんだろ? 」


ミックスはジャズを見ていて思ったことがあった。


彼女がいう電磁波をふせぐ服とはいっても、それは防弾ぼうだんチョッキと同じようなもので、その衝撃しょうげき完全かんぜん相殺そうさいするわけではない。


げんにジャズはくるしそうにしているのが、その証拠しょうこだ。


ニコもそんな彼女が心配なのだろう、ずっとそばって動かない。


「でも……病院はダメ……絶対ぜったいに、絶対にダメッ!」


「だけどちゃんと手当てあてしないと……」


頑固がんこなまでに病院へ行くのをいやがるジャズ。


それは、やはり彼女がほかの国から来たのが理由りゆうなのだろうと、ミックスは思っていた。


彼の住むこのバイオニクス共和国きょうわこくは、入国時にゅうこくじきびしい審査しんさがある。


その態度たいどを見ればわかるが、間違まちがいなくジャズは不法ふほう入国者。


彼女は、病院などの施設しせつを利用すると、そのことがバレてしまうので嫌がっているのだ。


それと、彼女はこの国へ友人に会いに来たと言っていたが。


おそらく先ほどの少女二人も、ジャズと同じで違法いほうなやり方で入国した者たちだろうと思われる。


「そうだ! 病院みたいな公共こうきょう機関きかんじゃなければいいんだよね?」


「いいからあたしのことは放っておいてッ! ……って、うわぁッ!? ちょっとあんた!? いきなりなにするのよッ!?」


何かを思い出したミックスは、嫌がるジャズなどおかまいなく彼女を背負せおって走り出す。


そして、ベンチに置いて行かれたニコは、彼の背中せなかを鳴きながら追いかけるのだった。

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