#6

それからミックスとジャズはアンティークショップへと入り、かざられていた電気でんき仕掛じかけの仔羊こひつじ購入こうにゅう


その後、二人はお茶でも飲むことにし、アンティークショップの近くにあったカフェへと入った。


「おぉッ! なんてやわららかくてフカフカなんだ! これは甲斐がいがあるな~!」


ジャズはカフェのせきにつくと、購入したばかりのニコを抱きしめ、その豊かな毛の感触かんしょくを楽しんでいる。


彼女は、注文ちゅうもんをとりに来たドローンが「ご注文は? ご注文は?」と、連呼れんこしても続けていた。


よろこんでいるのはいいんだけどさ。早く注文を決めようよぉ」


「あたしはなんでもいいから、あんたにまかせる。うわ~ニコだ! 本物ほんもののニコッ!」


「……あとで文句もんくいわないでね」


ミックスはあきれながらもドローンの身体にあるメニュー表パネルから、一番値段ねだんの低いホットコーヒーを選択せんたく


それから持っていたエレクトロフォンをそのメニュー表パネルへとかざし、料金りょうきん支払しはらった。


注文と支払いを終えた彼は、再びジャズへと目を向ける。


あと二~三週間は手持ちのお金でやりくりしなければならないのに。


すでに半分以上を使ってしまった。


どうせここの支払いも自分だったのだし、一番安いものをえらんだっていいよね。


――と、内心ないしんで思っていた。


(ああ……おれはなんてバカなことをしたんだろう……。お金もないのに、昨日きのう会ったばかりの女の子にプレゼントして、しかもお茶まで……)


「ふふ~ん。なるほど、こうなっているのか。なら、ここが起動きどうスイッチかな?」


それでも、子どもみたいよろこんでいるジャズの姿すがたを見て、やっぱり買ってあげてよかったと思い直す。


「ジャズって可愛かわいいものが好きなんだね」


「なにそれ? あたしがこういうの好きだとおかしいっていいたいわけ?」


先ほどの笑顔はどこへやら。


ジャズの顔がまるでおにのように強張こわばる。


「そんなこといってないじゃないか!?」


「いってなくてもあんたの顔に出てんのよ! ああ~似合にあわないなぁってさ!」


「そこまでは思ってないよ! まあ、意外いがいだとは思ったけど……」


「ほら見ろ! やっぱり思ってたんじゃん!」


その後ジャズによる言葉にょるあらしが続いた。


ミリタリールックの女が可愛いものを好きで悪いのか――。


もし悪いのなら説明せつめいしてみせろ――。


大体人を見た目で判断はんだんするな――。


と、彼女のしゃべりは止まらなかった。


だが、ミックスはただ合わせてあいづち返すだけで、けして言い返したりはしなかった。


それでもまわりにいた客たちは、ジャズのあまりのわめききっぷりにおどろいている。


「なんだ? 恋人同士のケンカか?」


「こんなところでしなくてもね」


「どうせ男が浮気うわきでもして女がキレてんだよ」


ヒソヒソと聞こえてくる声にいたたまれなくなったミックスは、まだ喚いているジャズの手をとってカフェから出た。


「ちょっと!? まだ話は終わってないんだけど!」


「わかってるって! 話は人目ひとめがないとこで聞くからともかくついてきて!」


「人目がないとこ……? あんたまさか……このヘンターイッ!」


「うぎゃあッ!」


ジャズは何か誤解ごかいしたようでミックスのひたいにヘッドバットをらわせた。


カフェの前でいたみにもだえるミックス。


それを見た道行く人たちが、ヒソヒソと話をし出している。


「なにあれ? 恋人同士のケンカ?」


「こんなところでするなよ」


「どうせ男が浮気でもして女がキレたんでしょ?」


そして、店の中にいたときとたよう言葉をぶつけられる。


さらに目の前にいるジャズは店内にいたときよりも喚き出していた。


「まあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


ミックスはうめききながら周りを見て、ガクッうつむくのだった。

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