#5

ミックスは気持ちを切りえ、銀行ぎんこうへと向かう。


昨日きのうがってしまったキャッシュカードを再発行さいはっこうしてもらうためだ。


ミックスがかよう学校の帰り道には、そこらじゅう色々いろいろなショップがならんでいる。


その店やビルのほとんどに太陽たいようこう発電はつでんシステム――ソーラーパネルが設置せっちされていた。


そして街中には、警備用けいびよう掃除そうじ用などドローンがおり、バイオニクス共和国きょうわこく科学かがく技術ぎじゅつがいかにすすんでいるのかがわかる。


「えーと、たしかこのへんだった気が」


普段ふだんはあまり銀行など利用りようしないせいか。


ミックスは散々さんざん道にまよったが、なんとか辿たどり着いた。


だが――。


「えぇぇぇッ!? すぐに再発行してもらえないんですか!?」


彼の目的もくてきたされなかった。


ミックスは再発行に必要ひつようなものはすべてそろえていったのだが、手続てつづきからやく二~三週間後しゅうかんご自宅じたくへと郵送ゆうそうするため、この場では受け取れないからだった。


受付うけつけをやっていた人工じんこう知能ちのう――AIが丁寧ていねい説明せつめいをしてくれたが。


ミックスはガックリとかたを落として銀行を出る。


そしてトボトボとおも足取あしどりで歩きながら、着ている学校指定してい作業さぎょう用ジャケットからエレクトロフォンという携帯用電話を取り出す。


のこりは五千かぁ……」


ミックスは、端末たんまつからかび上がって来る映像えいぞうゆび操作そうさしながら、大きくためいきをついた。


家にある食材しょくざいは昨日使いたしてしまった。


あとやく二~三週間は、この金額きんがくごさねばならない。


元々もともと自炊じすいしかしていないが、これでミックスの唯一ゆいいつの楽しみである創作料理も、しばらく我慢がまんしなくてはいけなくなった。


「まあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


そして、いつものかわいたみを浮かべるのであった。


ミックスがそんな様子ようすで歩いていると――。


見覚みおぼえのあるミリタリールックの少女が、アンティークショップのグラスウィンドウにり付いていた。


昨日ミックスの家の中をらかしたサイドテールの少女――ジャズ·スクワイアだ。


持っていた銃剣じゅうけんにはぬのき付けてあり、見た目ではわからないようにはしているが、あきらかに目立めだっている。


「なんか昨日はずいぶんと深刻しんこくな感じだったのに。あんなところでなにしてんだろう?」


ミックスは少しのあいだなやんだが、結局けっきょく彼女へ声をかけることにする。


「お~いジャズ。なにしてるの?」


「はッ!? お、お前がなんでこんなところにいるんだッ!?」


ミックスの姿すがたを見たジャズはおどろきのあまり飛びあがった。


そして、顔を真っ赤にしながら、なにやらよくわからないことをわめいている。


ミックスはそんなジャズを無視むしし、一体何を見ていたのかとグラスウィンドウへ目を向ける。


そこには、ゆたかなおおくされた仔羊こひつじがたのロボットがかざられていた。


「ああ、これが欲しいんだね。ちょっと意外いがいだな」


勝手かってなことを言うなッ! あ、あたしはただ見ていただけだし……」


ジャスはそういうと、プイっとミックスから顔をそらした。


その仔羊は、電気仕掛でんきじかけのニコと呼ばれるロボットだ。


今から七年前に、アフタークロエと呼ばれるバイオニクス共和国とストリング帝国ていこく戦争せんそうこる少し前――。


コンピューターの暴走ぼうそうによる世界壊滅かいめつ危機ききがあった。


そのコンピューターの暴走を止めたのはアン·テネシーグレッチという女性で、電気仕掛けのニコとは彼女が連れていたペットだ。


世界の救世主きゅせいしゅであるアン·テネシーグレッチの人気もあり、彼女にあやかってもうけけようとニコシリーズは量産りょうさんされた。


だが、現在げんざいではすっかり廃棄はいきされ、おそらくこのアンティークショップにあるものが、現行げんこうである最後さいご一体いったいといっても過言かごんではないだろう。


ミックスは、顔を真っ赤にしているジャズへ目を向け、次にニコのことも見る。


むかし流行はやっただけのロボットだというのに――。


ミックスはこの電気仕掛け仔羊の姿に、何故かなつかしさを感じていた。


「よかったら買ってあげようか?」


「えッ……? ホ、ホントにッ!?」


「うん。なんだかこの仔羊をこのままにしておけないって、思ったからさ」

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