#4

――バイオニクス共和国きょうわこく


ミックスが住んでいるのはその本国ほんごくであり、世界のほぼすべてが共和国の加盟国である。


ここには、彼がかよ戦災せんそう孤児こじのための学校や、生体せいたい工学こうがく研究所けんきゅうじょかず多くあった。


広さでいえば、約五百万人の人間が余裕で住めるくらいで、実際じっさいの人口は三百万人。


おも住民じゅうみんは、ひとりらしの学生と、研究所へつとめる科学者かがくしゃたちである。


以前いぜんはストリング帝国という国と戦争せんそう(その戦争はアフタークロエと呼ばれている)していたが、それも今や七年前。


今では両国りょうこくあいだ和平わへい協定きょうていむすばれ、今日も共和国は平和へいわそのものだった。


「ういーす。どうしたミックス? 朝からむずかしい顔して」


「おはよう。別に、なんでもないよ」


ミックスに声をかけてきた男の名はジャガー。


ミックスのクラスメイトであり、入学当初とうしょから特に仲良なかよくしている友人でもある。


返事を聞いたジャガーは、ボサボサでろくに手入れもしてないかみきながら大あくびをする。


「なんでもないのにそんな顔するかねぇ」


「ホントになんでもないったら。それよりも授業じゅぎょうが始まるよ」


すでに教室には、ミックスたちの教師きょうし教卓きょうたくについていた。


それから挨拶あいさつ出席しゅっせきといつもの流れで授業が始まる。


だが、ミックスはまったくく集中できていなかった。


席につきながら教師が操作そうさする電子黒板を見ながら、心ここにあらずといった様子だ。


それは、昨日家に現れたミリタリールックの少女――ジャズ·スクワイアのことを考えてしまっていたからだった。


(あの子……ジャズっていったけ……今頃どうしてるんだろ……?)


けた顔で授業を受けているミックス。


そんな彼にジャガーが声をかけてくる。


「やっぱなんか変だぞ。いつものお前ならいくら成績せいせきが上がらなくても授業は真面目に受けてるのに。まあ、いくら頑張がんばっても成績は上がらないけど」


「ジャガーはさ……。ただ俺の頭が悪いって言いたいだけじゃないのかな?」


二回も同じことを言われ、少し苛立いらだったミックスが小声で返事をした。


だがジャガーは彼など気にせず、別のことに気がついたようで、その手をポンッと打ちらす。


「そうか、わかったぞ。女、女だな、ミックス」


「うッ!? い、いきなり何を言い出すんだよ!?」


「その反応はんのう、マジで女か。いや~当てずっぽうで言ってみるもんだねぇ」


ジャガーに言い当てられたミックスは、彼を無視むししで再び電子黒板へと顔を向ける。


ミックスは今までとはちがい、授業に集中しようと気を引きめていた。


「それにしても、ミックスに女かぁ~。いやいや、先をされたオレはかなしいぞ、友よ」


ミックスはジャガーを無視し続けた。


いくら声をかけても反応はしない。


それを面白くないと思ったジャガーは、あることを実行する。


「アミノ先生~。ミックスくんが昨日女と会っていたせいで、どうも授業どころじゃないみたいで~す」


突然席から立ち上がったジャガーは、手をげて教師へうったえた。


あわてて否定ひていしたミックスだったが、アミノと呼ばれた女教師は、彼のことをはげしくにらみつけている。


「ア、アミノ先生……?」


ミックスがそういうと――。


アミノはいきなり泣き出してしまった。


教卓に顔をつけ、うわんうわんとまるで子どもようにわめいている。


「ミックスくんは私がきらいなんですね……。私の授業を受けたくないんですね……」


「先生! そんなことないッ! ……って……あら、みんなどうしたのかな……?」


アミノの誤解ごかいを解こうとしたミックス。


だが、そうしていると、教室中から冷たい視線しせんを感じ出す。


そして周囲しゅうい見渡みわたしてみると、クラスメイト全員がミックスのことを睨み付けていた。


「あーアミノ先生を泣かせたー」


「ミックス、マジ最悪さいあく……」


「先生かわいそー」


続いて一斉いっせい批難ひなんの言葉をぶつけられた。


ミックスは席から立ち上がり、必死ひっしになって自己弁護じこべんごした。


だが、アミノが泣き止むことはなく、その日は一日中クラスメイト全員から冷たい態度たいどを取られるのであった。


「まあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


それから学校からの帰り道で、彼はかわいた笑みをかべてそうつぶやいていた。

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