#2

「コホン。まずは勘違かんちがいして悪かったわ」


目覚めざめた後――。


どういう状況じょうきょうだったのかを理解りかいしたサイドテールの少女は、すわっているミックスを見下ろしていた。


だが、それでもまだ少女は警戒けいかいしていそうだ。


表情ひょうじょう強張こわばらせたまま、彼のことを見ている。


「……それはいいけど。どうしてうちのベランダでたおれてたの?」


一応いちおう自己じこ紹介しょうかいをしておく。あたしはジャズ、ジャズ·スクワイア」


「いや……あのさ……」


「ほら、あたしも名乗なのったんだからあんたも名乗りなさいよ」


「……おれの名前は、ミックスです……」


ミックスは思った。


このミリタリールックの少女は人の話を聞いていないのだろうか。


どうして他人たにんの家にいたのかをたずねたのに、いきなり自分の名を名乗り出したのだ。


礼儀知れいぎしらずというかなんというか。


だが、彼女に言い返せないミックスは、そのするどいつり目を見れずにそらしてしまう。


(ずいぶんマイぺースな子だなぁ……。まあ、相手の名前をおぼえるのって大事だけど……)


そう、とおい目をしているミックスのことなど気にせずに、ジャズと名乗った少女は言葉を続ける。


「あまりくわしいことは話せないけど。とある事情じじょうがあって、とある問題もんだい解決かいけつするために、とある目的もくてきがあってあんたの家にいたんだ」


「うん……。詳しく話せないだけあってとあるが多いね……」


「しょ、しょうがないじゃない!? 話せないことなんだから!」


あわてて言い返すジャズ。


それを見たミックスがあきれていると、突然とつぜん彼女がゆかにヘナヘナとへたりむ。


心配しんぱいしたミックスがると、彼女の身体からグゥ~という音がった。


その音を聞かれたジャズは、へたり込んだまま顔を真っ赤にしていた。


「なんだ、おなかがすいてたんだ」


ミックスはそんな彼女にニッコリと微笑ほほえんだ。


それから台所へ行くと冷蔵庫れいぞうこを開け、中に入れてあった食材しょくざいを出し始める。


ジャズはミックスが一体何をしようとしているかわからないようで、ほうけた顔をして彼のことを見ていた。


「なにしてんの、あんた?」


「見てわかんないの? これからキミのご飯を作るんだよ」


ミックスはまず電子レンジに用意していたソースを入れ、なぜに水を入れ沸騰ふっとうさせる。


そして、次にまな板を出して野菜やさいを切り、かしていた水がボコボコと鳴り出すとパスタをで始めた。


ミックスの動作はあきらかにやりれている。


しかも実に楽しそうに料理をする彼に、ジャズは思わず見惚みとれてしまっていた。


「はい完成。のオリジナルのソースを使ったパスタとサラダだよ」


ミックスは料理をテーブルへと置くと、ジャズに差し出した。


出来立できたてのパスタから湯気ゆげが上がっていて、さらにチーズのにおいが食欲しょくよく刺激しげきしてくる。


「こんな簡単なものしか作れないけど、よかったら食べて」


「食べちゃっていいの? あんたのぶんでしょ、この料理?」


ジャズがそう訊ねるとミックスはコップに水をそそぎ始めた。


「いいよいいよ。だってジャズはお腹っているんでしょ? 俺はいまこまるほど空腹くうふくじゃないし」


「だけど……」


「いいからいいから。それともパスタはきらいだった?」


笑顔のミックスに訊かれ、何も言い返せなくなったジャズ。


彼女はフォークを手に取ると、もうわけなさそうパスタに手をつけだした。


「うぅんッ!? なにこれ……美味おいしい……」


「でしょ? このパスタソースは兄さんと姉さんが長年かけて完成させたものなんだよ。そこらへんのパスタソースと同じにしてもらっちゃ困るね」


「あんたのお兄さんとお姉さんって、パスタソースを作る仕事をしてるの?」


「いや、ちがうよ。二人とも、料理は趣味しゅみだって言ってた」


趣味にしてはずいぶんと本格的ほんかくてきあじのソースだ。


ジャズは料理や食べ物にうといが、このパスタソースが、とても普通ふつうの家庭に出てくるようなものではないと思っていた。


「美味しいならよかった。それじゃ、める前に食べちゃいなよ」


「う、うん……。では、あらためていただきます」


ミックスにそう言われたジャズは、ひとまず空腹をたすことにするのだった。

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