第48話 俺の異世界転生
「さて……。ようやくここまで来れた。エルトさん、始めましょうか」
「うむ。いつでも良いぞ」
魔王城前。エルトさんと二人(ほむほむもいるけど剣モード)。エルトさんにとっては二回目の到達であり、一度命を喰われた忌々しい場所でもある。
本来であれば魔王城に踏み入れた時点で既に倒した八人の魔王が復活する。それらを倒さなければ大魔王への扉は開かれない。だがより正確に言えば、各魔王を復活させている魔方陣を破壊する事で道は開かれる。情報元はもちろんほむほむ。従って、実のところ一体一体を倒す必要はない。というか、大魔王へと続く扉が開いている必要もない。城ごと壊せば良い。
やり方は簡単。まずはエルトさんが魔王城を真空防壁で球に囲む。その真空防壁の外側を更に鏡面反射膜で包む。まぁこんな神業、エルトさんしかできないけど。こうすることで、これから内部で発生する熱が外部に漏れる事はない。
それから俺は魔法で可燃性のガスを生成し、エルトさんが作ってくれた完全断熱壁の内側を満たす。魔王城に入らなければ魔王は復活しないし、大魔王はそもそも外に出てこない。ガスで空間を満たすための時間は幾らでもある。と言って、俺もこの世界に来てから遊んでいたわけではない。下準備はすぐに終わる。
「……サラマンダー」
ほむほむでサラマンダーを放ちつつ、魔法によるガスの供給を続ける。空間は際限なく加熱されていく。閉ざされた系の中でどこかからガスを供給するのかって?別に何でも良い。城でも良いし土でも良い。サラマンダーによる超過熱で蒸発状態にあるからマナに変換するのも簡単だ。
目の前に巨大な太陽が現れる。と言っても完全断熱を行っているからこちらに熱は届かない。球の中では全ての物質が溶けて、気体になって、それすら維持できずにマナになる。ほどなく作業は終了する。中では尋常でないエネルギーを蓄えたマナが暴れていて危ないので、球の天井を宇宙へと伸ばし、外へ解放する。系の中と外のエネルギーが等価になった所で球の維持を止める。魔王城があった場所には塵一つ残っていない。作り物みたいに地面が綺麗に抉れている。
「終わったのか?」
「だと良いんですけど」
しかし、俺の淡い希望は叶わない。先程まで何もなかった筈の大地に、ポツンと黒い影が現れる。城という呪縛が無くなり制限が解除されたのか、かの魔王はこちらへと歩みを進める。
「どうする?手伝うか?」
「いえ。万が一があったら困りますから。神への願い事は決まっているので、生き返らせられません。そしたらロコさんが悲しむ」
「……分かった。死ぬなよ」
「死にませんよ。俺は勇者だ」
「……ああ。もう、会うこともないだろうが、ロコによろしく言っておいてくれ」
「はい。色々、お世話になりました」
軽く別れの挨拶を済ませ、俺も大魔王に向かって歩き始める。ただの火力で再生の魔王が殺せない事は先程証明された。結末は分かっている。だから今から行おうとしている事はそう、ただの八つ当たりだ。
【蓮、気を付けて!】
「…………」
魔王との距離、およそ20m。目の前が暗くなる。棺に閉じ込められたのだろう。ロコさんの時はサラマンダーで焼き払ったらしい。俺はあえてホムラを離す。
【蓮!!!なにしてるの!?これじゃあサラマンダーが使えない!】
「いらないよ」
棺は俺を圧迫する。かつて幾人もの英雄を葬ってきた魔王の必殺。
俺はそれを、力で引きちぎる。
「……馬鹿な。先程の攻撃といい、お前は一体……」
スゥ。
言い切る前に、魔王の首をはねる。何が起きているのか魔王は理解できていないだろう。
切断された首は粉になって消え、胴体から新たな頭が再生する。へぇ。そっちから復活するのか。細切れにしたらどうなるのだろう?
「貴様ァ……」
次の瞬間にはバラバラ。辺り一面血の海だ。
「ほむほむ……。魔王のHPは……」
【……ゼロよ】
だがしかし……。
散らばった肉片と血液は徐々に集まり、人の形を形成していく。
【そんな……。それじゃあ……】
「ガホッ!!!ウグゥ……。貴様、この私にこれほどの屈辱を!!どうやってそれほどの力を!!!」
「……大した話じゃない。ただ俺が、レベル99の勇者というだけの話だ」
「あり得ない……!!」
そう。あり得ない。本来ならば。この世界では大魔王とそれ以外とのレベル差があり過ぎる。だからいくらレベリングをしても、一定以上に上げることが実質不可能だ。例外は遊び人としてレベル99になった後で勇者に転職する方法。だがこの方法ではステータスの上がり値が低く、単独で大魔王を倒すには至らない。かつてのロコさんがそうだったように。それなら、どうすれば良いか。
「……魔法で自分の分身を作って、それと殺し合った。生き残った方がまた分身を作り、殺し合う。それを繰り返した」
「……正気じゃない。そんな事をして自我が保てるわけが……」
魔王の首を掴み、握り潰す。クソ。なんでだ。なんで死なない。
魔王は仰向けに地面に倒れ、数秒後に息を吹き返す。
魔王は既に戦意を喪失していた。立ち上がることもせず口を開く。
「……何故だ。何故そこまでして力を求めた」
「どうしても、失いたくない想いがあった」
【蓮……】
気付けば俺は泣いていた。薄々分かっていた。大魔王戦は、RPGでいう所のイベント戦だ。通常の戦い方では決して勝利することは出来ない。大魔王だけが別格であり、そもそも普通のレベリングをしても勝てないこと。他の七大罪装備にもホムラの
「頼む。頼むよ。頼むから、死んでくれ……」
俺は全力でサラマンダーを放つ。横たわる魔王は一瞬で蒸発し跡形もなく消える。ホムラで使用するサラマンダーは使用者の正の感情がエネルギー源だ。これだけの威力が出せると言うことはつまり、それが俺のロコさんへの想いの強さなのだ。今まで生きてきてこんな気持ちを感じた事はなかった。異世界に来てから時間が経つが、一瞬だって忘れた事はなかった。
そしてそれを、俺は手放さなければならない。
その想いを無くした後で、地球に帰り何も知らない状態でロコさんと出会う。どうだろう。時間を掛ければ元通りになるのだろうか。……本当に?
この旅を経て、俺も変わってしまった。そうせざるを得ない理由があったにせよ、時間を掛けるべきではなかった。自分が変われば変わるほど、ロコさんと再び出会った時に、同じ気持ちを抱く可能性は低くなる。
魔王は再生する。もはや何も言わず。ただ立ち尽くしこちらに視線を向ける。そこには憐れみすら含まれているように感じた。
【蓮……】
「……いや。良いんだ。これで良い。元からそうするつもりで俺はこの世界に来た。俺はロコさんが好きだ。そしてその俺がロコさんを救う。俺が望めば、ロコさんはそれに応えてくれるだろうさ。でも、それじゃあ駄目なんだ。それじゃあ、折角記憶が戻っても、彼女が真の意味で自由になることはない。だから、これで良い。余計な物は、全てこの世界に置いていく」
俺はホムラを握り締める。
「
魔王は浄火される。
音もなく、色とりどりの火炎が揺らめいて。
その進行に比例して、心の穴が広がっていく。
「ロコさん。待たせてすみません。やっと、貴女に会える……」
さよなら。●●さん。
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