第43話 私の異世界転生 ep.9
……状況は絶望的だ。私には、魔王を確実に倒す術はない。今更遅いけど、思えばもう少しやれたのでは無いかという気はした。私のMPは殆ど残っている。自身による攻撃魔法を併用すればあるいは……。要するに私には戦闘経験がないのだ。いつだって皆が守ってくれた。苦戦する敵もいなかった。それも魔王の作戦の内かもしれないが……。ほむちゃんを手に入れてからは、殆どサラマンダーだけで戦ってきた。皆にはそれで良いと言われていた。MPは、もしもの時のために残しておけば良いと。逃げるために使えと。
「はぁぁぁああああああああ!!!」
「……無駄な事を。いい加減、現実を受け入れろ。面倒だ」
私は未だに戦闘を続けている。魔王は倒せない。一方で、サラマンダーを受けながら私の攻撃を回避する魔王も、私に致命打を与える事が出来ない。多少のダメージは鎧の回復効果で打ち消す事が出来る。もはや意味のない戦い。
何故逃げないのか。
私のせいで皆が死んだ。だから私だけが逃げる訳には行かない?それはそうだけど、本当の意味で仇を取るならばむしろ、今は逃げて、また仲間を集めて再戦するべきだ。
そうしない理由。
一つは、この世界で再びパーティを募ってもおそらく今回以上の戦力は望めないから。再生の魔王だけが桁違いに強過ぎる。いくら鍛練を積んでも、倒せるだけのレベリングが出来ない。遊び人だけは唯一レベル99に達する事が出来るが、勇者に転職しない限り戦力として見込めないし、世界に勇者は二人存在できない。なにより……。エルトのような天才がそう都合良く現れる事なんてないのだ。
「ぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
「……ふぅ。まぁ良い。私にとっては一瞬に等しい時間だ。お前が死ぬまで付き合ってやろう。…………ん?」
もう一つの理由。私は、諦めていない。私はレベル99の勇者だ。全知の魔眼というチートスキル。神の七大罪装備であるほむちゃん。HP自動回復&状態異常無効化の鎧まで身に付けている。客観的見てこの世界最強の戦力。
「……これは」
私の剣が、久方ぶりに魔王に触れる。私と魔王の距離が離れる。
「私は絶対に、貴方を倒してみせる」
私には戦闘経験がない。
違う。魔王を倒すために、思考を巡らせろ。
経験だけじゃまだ足りない。
私が力尽きる前に、魔王のHPを削りきるだけの手数が必要。
私の思い付きは、剣を通じてほむちゃんにも伝わっている。【ロコ、止めろ。間違ってはいないが、チャンスは今回だけじゃない!】
ごめんねほむちゃん。私も、合理的じゃない事は分かってる。でもやっぱり、皆が死んじゃって、私は魔王を許せない。それと同じくらい、自分も許せないの。だから……。
「……なんの真似だ。今更、そんな小細工をして何になる」
「…………」
「…………」
私は、私を魔法で作り出す
装備も含めた完全コピー。だけどほむちゃんに関してはレプリカだ。人格やサラマンダー機能を持たせるには、私のMPでは全然足りない。それでも一人分を作るのでやっと。MPはほぼゼロ。もう、逃げることは出来ない。これで良い。単純に戦力は二倍。なにより、本当に死ぬかもしれないというこの状況そのものが、私の戦闘経験を飛躍的に上昇させる。
私は。
私達は、魔王への攻撃を再開する。
魔王もすぐにこれがただの小細工でないことに気付く。
「馬鹿な。ありえない。なんだ、その魔法は。それに先程から動きが……」
ありえない?そんな事はない。理論上は可能だ。全知の魔眼さえあれば。全てが見えているのだから。後はその通りにマナを組み立てれば良いのだ。魔法で炎を作ることも、人間を作ることも、本質的には同じこと。
ああ……。なんで。なんで、もっと早く思い付かなかったのか。死んでしまった仲間を生き返らせる事は無理だ。だって、覚えてない。実物を見ながらのコピーは出来ても、何もない所から一から作る事は出来ない。
「…………!」
「…………!」
「うぐっ!うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
魔王はもう、私の攻撃を避ける事は叶わない。魔王が私の動きに慣れたように、私もまた魔王の動きに付いていけるようになっていた。その上で、私は私の分身を作り出したのだ。波状攻撃。焼かれ、切り刻まれては再生する魔王。
このまま押し続ければ倒せる。魔王が、この戦法の弱点にさえ気付かなければ……。
私と私の息はピッタリだ。何故なら、分身する前にこれからやる事について散々頭の中でシミュレートしていたのだから。どちらも完全に私なのだから。
魔王のHPは、これまでになく劇的に減り続けている。しかし余裕はない。タイムリミットはすぐに来てしまう。何故なら……。
コピーは、その瞬間の自分しか作り出せない。私は、装備よりも本体のコピーを先に作った。それにより、コピーのMPは、満タン状態からコピーの生成に必要なMPを差し引いた分だけ保有して出現する。そのMP使って、コピーは自分でサラマンダーを放っている。
「はぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「はぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「がぁぁぁぁあああぁぁぁあああああ!!!」
間に合え。あと少し。あと少しだから!
……何故コピーにもサラマンダーを使わせているか。勿論、魔王は自動回復の能力を持っているのだから、一気にライフを削る方が効率的だから。でもそれよりも重要な事は、そうすることで、コピーの持つ炎龍獄剣ホムラにもMPなしでサラマンダーを打つ機能があると魔王に誤認させること。
「ぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
「ぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」
削れ。削れ削れ削れ削れ削れ削れ削れ削れ削れ削れ削れ!!!
削…………!!!
「…………!?」
コピーのMPが、切れた。あと少し。もう少しという所で。
不意にサラマンダーの火力が半分になったことに訝しげな表情を浮かべたのも束の間、次の瞬間には魔王は邪悪な笑みを浮かべる。
「……そうか。ふは。ふはははははは!私としたことがまんまと!人間風情に!神の七大罪装備が作り出せるはずもない!」
私達は無視して攻撃を続ける。サラマンダーの火力が半分になったとしても、まだこちらの勢いは魔王の再生を上回っている。やれる。まだ…………!!!
「ならば答えは簡単だ。そうだろう?」
「…………!」
「やだ…………」
私は、黒い箱に閉じ込められる。恐れていた事が現実に。
初回と同じく、私はほむちゃんのサラマンダーで脱出する。
……しかし。
脱出した私の目の前には、また一つ棺が増えていた。
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