第36話 私の異世界転生 ep.5

「次で最下層だ。最下層はこれまでと異なり、フロアは迷路状ではない。したがってこれまでのような不意討ちは出来ないから、そのつもりでいるように」


 なんやかんや次で最下層。道中のモンスターは全て先制攻撃で倒した。残るは最下層のボスのみ。それを倒せばダンジョンの入口までワープ出来るらしく、このまますんなりいけば結局今回の探索では一泊しかしていない事になる。アローレン曰く、これはぶっちぎりで最短踏破記録とのことだ。それもそのはず。戦闘に殆ど時間が掛かっていない上に、私の目には最初から次のフロアへの階段の場所が見えていた。邪魔な壁は分解すれば迂回することなく進める。


 途中でいくつか宝箱を開けたが、やはり初級ダンジョンのためか、アイギスのような装備はそうそう出てこなかった。だから私はもはやフロアボス討伐後のお宝にしか興味はなかった。


「さて。この扉を開けばその先にボスがいる。マチルダはここで待っていてくれ。ロコはどうする?まずは一人でやってみるか?」


「そうするの。もしもの時は助けてほしいの」


「もちろんだ。まぁ、そんな心配は不要だとは思うが。……行くぞ」


 私は扉を開ける。フロアは何の遮蔽物もない空間。1km程先。モンスターの姿が見える。なるほど。これは不意討ち出来ない。しても意味がない。相手も既にこちらを認識している。まずは鑑定で相手の情報を探る。……え?


「炎獄龍……。アローレンさん、これ……」


 何となく、初級ダンジョンにいて良いタイプのモンスターじゃない気がする。


「……そんなはずは。……いや、そうか。フロアボスは完全にランダムな訳ではない。ダンジョンのランクに加えて、冒険者のレベルや最下層への到達速度により変化する……。失念していた。通常、こんな速度で最下層まで至ることなどあり得んからな。あと何気にロコのレベルも99だしな」


 ちょっと失礼じゃない?


「なるほどなの……。じゃあ、どうしましょう?」


「……撤退しよう。倒せないこともないが、わざわざ危険を犯す理由もない」


 アローレンさんはそう言って引き返そうとした。扉に手を掛けようとする。


 ……私の目に不自然なマナの流れが見えた。


 「…………!?」

 

 私は咄嗟に、アローレンさんの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。


 ごぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!


 扉の前に、炎の柱が出現していた。


「……ロコ、すまん。助かった。しかしこれでは……。ロコ、消せるか?」


 私は試しに炎柱に手を伸ばす。炎を分解することは出来る。しかし、炎は際限なく立ち上ぼり続ける。これは、無理だ。


「ごめんなさいなの……」


「いや、謝ることはない。そもそもこの事態は私の落ち度だ。……仕方ない。倒すぞ」


 アローレンさんは私達の遥か先に悠然と構えるドラゴンに向けて歩き出す。私もその後に続く。


「…………えぇ!?」


 瞬きして目を開けたら、アローレンさんが目の前から消えていた。いや、いる。でも、既に彼はドラゴンの目と鼻の先まで迫っていた。


「ギュ、ギュォォォァァァアアアアア!!!」


 遠くでドラゴンが叫ぶ。急に現れた来訪者に、敵も驚いているようだった。


 ……アローレンさんの異名。【時を開闢する者】  beginning of times  


 初めて聞いた時は「良い年こいて何言ってるんだろう」と思っていたけど、なるほど。その意味するところ。全てを置き去りにする超スピード。実際に自分の目で見れば、厨二っぽいネーミングを付けたくなるのも分かる。


 遠目で彼を観察する。ドラゴンの攻撃は決して当たらない。アローレンさんの刃は龍の鱗の継ぎ目を的確に貫いていく。それは戦いとも呼べないような一方的な蹂躙だった。


「ロコ、ヘルプ」


 ビクゥッッッ!!!


「…………ひょ!?」


 アローレンさんはいつの間にか私の近くにいた。めっちゃ心臓に悪い。でもアレ……?なんかドラゴン戦ってない?うん?アローレンさんがもう一人???


「ああ、何か勘違いしてるな。安心しろ、私は一人だ」


「でもあれ……」


「残像だ」


 飛影……!?結構距離あるんだけど!?


「……本題に入ろう。生憎だが今日の私はアレに有効打を与えられる装備を持ってきていない。また水系の魔法も得意ではない。したがって、倒せない事はないが時間が掛かってしょうがない。しかしドラゴンはあの通り私に翻弄されているから、ロコへの警戒は非常に薄くなっている。警戒範囲ギリギリまで近付き、一撃で仕留めろ。お前なら出来る」


 フッ。そう言い残しアローレンさんは消える。


 私はアローレンさんの指示に従い、焦らずゆっくりドラゴンとの距離を詰めていく。大概の動物は早く動くものに敏感で、遅いものは目に入らない。これ、トンボを捕まえる時のコツね。……距離にして約100m。この辺で良いかな。詠唱が聞こえてしまったら元も子もないし。

 

 このドラゴンの弱点は水。一撃で仕留めるなら頭部か心臓。頭の方が装甲は薄いだろうけど、良く動くから当てづらい。狙撃経験のない私には無理だろう。であれば心臓。とにかく圧縮して威力を高める。水を作るだけなら簡単。それを土系の魔法で閉じ込めて圧縮しまくる。限界まで来たところでドラゴンに向けて放つ。やることは単純だ。


「ノウマンダ、サマイクアビラ、タヤウンタラ、サトバン、ノウマンダ、サマイクアビラ、タヤウンタラ、サトバン、ノウマンダ、サマイクアビラ、タヤウンタラ、サトバン、ノウマンダ、サマイクアビラ、タヤウンタラ、サトバン……」


 ……まだだ。まだまだ足りない。もっとイメージしろ。圧縮、圧縮、圧縮、圧縮……。そうだ。放つ瞬間、ドラゴンまでの道筋を真空にしよう。出来るだけ減衰を抑えて。水を回転させて。ドリルのように。風穴を開ける。……よし。


「マカロシャ、ハドマウン、タライヤソワタ……!!!」


 ピィィィイイイイイン!!!


 極限まで圧縮された水は瞬時にドラゴンの元に届く。それは容易に胸部の装甲を貫き、断末魔を上げる間もなくドラゴンは爆散した。……いや、だからなんで?爆風半端ない。次元障壁一つ減ってるし……。ああ、ドラゴン自体が超高熱だから、貫いた瞬間に水蒸気爆発したのかな。あ、アローレンさん大丈夫かな……。


「良くやったロコ。……それにしてもオーバーキル感が凄いな。というか全然実践の練習になってないな。いやしかし、別に人間同士の戦いではないのだから、むしろ効率的で良いかもしれない」


「…………ひぇ!?」


 アローレンさん生きてた。なんなら無傷。良かった……。


 とまぁそれはそれとして、今私の興味は全てお宝に向いている。私達は、始めにドラゴンがいた辺りまで移動する。通常であればそこに台座があって宝箱が置かれているらしい。


「…………」


 ……ない。ない。ない!!!宝箱というか、台座もない。何もない。ドラゴンの爆発に巻き込まれて、辺りに一帯に大きなクレーターが出来ていた。えぇ?マジでぇ?


「まぁ、なんだ。その、残念だったな。次からはそう、もう少し丁度良く倒そう。ぶっちゃけ私じゃなかったら爆発に巻き込まれて死んでるレベルだ」


「そ、そんなぁ……」


 私は諦めきれず辺りを探す。もしかしたらほら、レア度の高い盾とか剣だったら無事かも知れないし?そうだ、全知と鑑定で良く見たら瓦礫の下に埋もれてるかも!!!……ん?


 とか思いながら悪足掻きをしていたら、祭壇の下に空洞があるのが分かった。


 私は瓦礫を分解しながら下へ下へ掘り進めていく。やがて、空洞の手前に如何にも封印されてるチックな魔方陣が現れた。


「アローレンさん、これ……」


「……私も初めて見るが、かなり強力な結界だな。これを破るのは事だぞ。聖女様か、あるいはエルトのやつがいれば何とかなりそうだが……」


 でもダンジョンはランダムなのだ。次に来た時に同じものはない。それに、何か運命じみたものを感じる。私は絶対にこれを手に入れなければならない。そんな気がする。


「えいっ、なの」


「え?解けたのか?」


 普通に分解できた。手順が複雑で少し面倒だったけど。全知の魔眼、万能過ぎぃ。


 封印が解けた先には、虹色に輝く宝箱が鎮座していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る