第35話 私の異世界転生 ep.4
シュージィ師匠と体術の修行を始めてから早1年。私は普通に戦えるようになっていた。腐ってもLv99なのはやはり大きい。それに運全振りも全くの無駄という訳ではなかった。なんというか、私の攻撃は当たりやすいし、相手の攻撃は当たりにくいのだ。体術にももちろん色々な理論背景が存在する。加えて達人になるにつれて読み合いの戦いに傾倒していくらしいのだが、一通りの型を覚えてから実戦形式の組手を始めて間もなく、師匠から「ロコよ。お前は下手に頭を使わずに適当に動け。獣のように感覚で戦え。その方が強い」と言われた。……うん。それはそれで難しくない?と思ったがやってみると案外そうでもなかった。私はスキル「不惑」を手に入れた。要するに何も考えてないだけですはい。
そんな折、久し振りに王様から召集が掛かった。そこそこ戦えるようになったと判断された私は、実戦経験の取得を兼ねてダンジョン探索の命を出された。探索部隊は私とアローレン、荷物持ちのマチルダの三人で、一週間程度潜る予定だ。魔法で水とかお湯は出せるし、土の魔法を使えば簡易的に休憩ルームみたいなのも作れる。でもやだなぁ。一人だけなら良いんだけどさ、ほら、トイレとかお風呂とか、ね?私の安全のためには仕方ないけどアローレンがね?男の人じゃん?という感じの目を何となく王様に向けたら「アローレンはほら、紳士だから大丈夫。多分」という自信のなさげなフォローが入った。
で、何だかんだダンジョン探索開始。ああは言ったものの、私は内心ワクワクしていた。体術の修行も少し飽きていたし、魔法も使えるようになった私がどれだけやれるのか試したかった。あとお宝一杯拾いまくってレア装備が欲しかった。
アローレンから軽くダンジョンの説明があった。
「このダンジョンは初級だ。しかしダンジョンは通常、フロアが変わる毎にその内装が変わるので地図が意味を持たない。したがって食料には常に気を配りつつ、余裕を持って帰還する必要がある。最悪、モンスターを食べるという選択肢もあるがな」
「モンスターって美味しいの?」
「うむ……。うむ」
いや、絶対美味しくないでしょ。
「その他の注意点としては、ダンジョン内は薄暗く視界が狭いことが多い。出現するモンスターは強くないとは言え、奇襲を受ければ致命傷を負うこともある。油断するなよ」
「はいなの」
「最後にだが、ダンジョンの最下層にはフロアボスが存在する。ボスを倒す事でレアアイテムを手に入れる事が出来る。可能性は低いが、過去の記録では初級ダンジョンでもアーティファクトの存在が確認されている。なるべく手に入れて帰ろう」
そんなこんなでダンジョン攻略が始まった。陣形は私、マチルダ、アローレンの順番だ。マチルダも一応訓練を積んだ兵士だけど女の子だし、何より荷物を沢山抱えているので基本的に戦闘には参加しない。メインは私。アローレンは後ろからの攻撃に気を配りつつ、私が危なくなったら助ける算段だ。
歩き始めて数分のところで私はモンスターを感知した。ゴブリン的な魔物だ。少し離れた位置の壁越しにいる。私には全知の魔眼と鑑定Lv10の合わせ技で見えているが、おそらく相手は気付いていない。え?もしかしてこれ不意討ちしたら簡単に倒せるんじゃない?アローレンに小声で相談してみる。
「ほう。やはり便利なスキルだな。分かった。やり方は任せる。まずは思う通りやってみろ」
私は考える。敵は壁を挟んだ向こう側いるのだ。一番楽で安全な方法は、このまま壁越しに倒す事。なにか壁を貫通するような魔法ないかな……。壁邪魔だな……。そういえば、私は前に宝剣アマテラス折っている。あれと同じ要領で壁を向こう側まで小さく分解。出来た穴を通して魔法で攻撃。うん。完璧。仮に一撃で倒せなくても、壁が邪魔をして向こうの攻撃はこちらに届かない。
私は目の前の壁に指で触れる。触れた部分は分解されてマナになり、やがて小さな穴が貫通する。詠唱する。折角なので、分解したマナをそのまま使う。
「ノウマンアビャラダ、ウンブリア、ラハタラヤソヤタ」
壁の向こう、モンスターに超高温の熱線が放たれる。デスビームみたいな感じ。熱線は未だこちらに気付いていない敵に直撃。爆散。いやなんで?体液で水蒸気爆発したのかな。
「……ロコ、今の魔法は」
「炎系の魔法を圧縮して放つ魔法なの!魔法の先生と一緒に開発したの!」
「そうか。……あの、あとで詠唱教えてくれない?」
「もちろんなの!」
その後も壁越し魔法で次々とモンスターを倒しながら先に進んでく。これ体術とか要らないんじゃね?と思っていたら目の前に宝箱が現れる。キター!私のテンション爆上がり。一応、アローレンに確認する。彼は何も言わず頷いてくれた。よし!開封……。
「!?ロコ、それはミミックだ!」
アローレンの叫び声が聞こえるが、その時にはもう、モンスターの鋭い牙は私の目前に迫っていた。私、絶体絶命!
なんてね。まぁ、開ける前にただの宝箱じゃないって分かってた。
私はミミックの攻撃をサイドステップで交わしながら、横薙ぎに手刀を放つ。ミミックは真っ二つに切断される。相手は死ぬ。
「……ロコ、今の技は」
「極・会心の一撃なの!即死効果付きなの!」
「そうか。……あの、間違っても混乱とか魅了とか掛からないでね?普通に全滅するから」
「運が高いから大丈夫なの!……多分」
全知の魔眼、運全振り、シュージィ師匠の体術の合わせ技。とてもつおい。でもシュージィ師匠には敵わない。殆ど攻撃が当たらないし、当たってもウィークポイントをずらされるから。……普通にやるとこうなるのね。体術の先生が師匠で良かった……。
「……ん?」
倒したミミックを見ると、分断された下半分が宝箱な事に気付く。二重底?変な形をしている。やり方を間違えたらバラバラになりそう。
「……アローレンさん。倒したミミックからお宝って取れるの?」
「いや、そんな話は聞いたことがないが……。何か気になることがあるのか?」
「うーん。上手いことやれば、宝箱になる気がするの」
「なるほど。ロコには何か見えているのだな。試しにやってみろ」
私はミミックの分解に入る。どうすれば良いのかは全知と鑑定が教えてくれる。技術の足りなさは運がカバーしてくれる。私は熟練の板前の如く、ミミックを捌いていく。なんかフグの調理みたい。やったことないけど。
「これは……」
私の思っていた通りミミックは宝箱になった。しかも、金箱。これ、レアアイテム確定のやつじゃん。私ははやる気持ちを抑えながら、ゆっくり宝箱を開ける。中身は。
「……鎧だ。可愛い」
最低限の箇所しか守っておらず、謎のフリルが沢山付いた鎧。何となくワルキューレが装備している感じのやつを想像して欲しい。動きやすいだろうし可愛いけど、防御力低そう……。
「ロコ、鑑定してみろ」
「はいなの」
私は鑑定する。色々と目を疑った。
装備名:アイギス
ランク:sss
防御力:200
敏速 :150
効果 :状態異常無効、HP再生、次元障壁(1枚/hr、最大ストック10)
説明 :女神アテナの装備品。親の過保護っぷりが良く分かる一品。
……強い(確信)。ちなみに今私が着ている鎧は王国で一番の鍛冶師に作られた特級品だ。それでも防御力は120で敏速は上がらないし(むしろ下がる)、追加効果なんてものもない。
「……ロコ、この鎧は」
「神様の作った鎧みたいなの!」
「そうか。……あの、ダメ元で聞いてみるけど、私にくれたりしないか?」
「嫌なの!どう見ても女物の鎧だから、アローレンさんには似合わないの!」
私は早速鎧を着てみた。うん。何故かサイズはぴったり。体も滅茶苦茶軽い!
私は思った。……というか、もう帰っても良くない?
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