第34話 私の異世界転生 ep.3

「るんるんるーん」


 王様やアローレンは魔王討伐に向けた重要な会議があるとのことで、私は暫く自由にして良いと言われた。お金がないと言ったら、王様がいっぱいお小遣いをくれた。だから私は散歩がてら街中を散策している。ここに来る道中で見ていたから分かっていたけど、街は中世ヨーロッパ風だ。うん。中世ヨーロッパ見たこと無いけど。多分ベネチアとかが近いんじゃないかな。

 街には中央広場みたいな所があって、様々な物が露店で売られていた。食べ物があったり武器が売っていたり魔法書なんかもあった。なんと幸せになれる壺なるアイテムが売っていて、只でさえ運に全振りの私が買ったらヤバいんじゃない?と思っていっぱい買って帰ったら怒られた。でも代わりに鑑定Lv10のスキルをゲットした旨を報告したら皆驚いていた。そしてまたすぐさま作戦会議が開かれた。私は直接参加していなかったけど、会議の中身は要するに全知の魔眼を如何に有効活用するかというものだと思う。


 次の日の朝起きた私は、朝御飯も程々に会議室に呼ばれた。会議室には王様とアローレンの他、いかにも偉そうなオジさんやお爺ちゃん達が揃っていた。王様が口を開く。


「ロコよ、魔王討伐に向けた作戦が決まった。まずお前には全知の魔眼の使い方を学んで貰う必要がある。そもそもが神話の能力であり実のところ詳細は分かっていない。しかし最古の記録によれば、全知の魔眼の真価は魔法の行使により発揮されるとある。したがって、ロコにはまず既存の魔法のイロハを学んでもらう」


 へぇー。とりあえず魔法の練習すれば良いのね。楽しそうだし全然OK。エクスペクト・パトローナムとか使えるようになるんだろうか。


「そしてその後で、各地に存在するダンジョンを探索し神々の遺産を手に入れてもらう。現状、ロコはこれ以上レベルアップによる能力向上が望めないからな。装備で補うより他ない。なに、お前には全知の魔眼と鑑定Lv10がある。もちろん護衛には国の精鋭を付ける。探索が難航することはないだろう」


 うんうん。しかも私、運がカンストしてるからね。ハクスラ系RPGでSSSランク装備が出まくる感じになるのかな。やっべ。今から脳汁出まくり。


「それらを基本とし、平行して体術や剣術といった武術全般、及び兵法を学んでもらう。安心しろロコ。我が国の総力をもって、お前を一流の勇者にする。何か質問は?」


 うんうん。うーん。ちょっとやりたくない感じのやつが出てきた。どのくらいで一流の勇者になれるんだろう?


「あの、スケジュール感というか、どのくらいで魔王を倒す予定なのか教えてほしいの」


「おお……。思いの外まともな質問が来て私は驚いているぞ。うむ。そうだな……。ロコがどこまでやれるかにもよるが、少なく見積もっても5年といったところか」


「……もう少し短くなりません?」


 思わず素で答えてしまった。だってそんなに長い期間訓練するのとか嫌だし。


 しかし王の決定は絶対だ。何故なら私には宝剣アマテラスを弁償するお金がないし、元の世界に帰るためにはいずれにしても魔王を倒す必要がある。よくよく考えてみれば5年という歳月は短いのではないか。魔王という存在がどれくらい強いのか私には分からないが、例えばだが那須川天心くらい強いとして、それを素人の私が5年で倒せるようにすると言うのだ。いや、むしろ無理じゃない?


 訓練はすぐに始まった。予定通り魔法の基礎から習うことになった。座学から始まり、実際に先生の手から炎が出た時にはテンションが上がった。全知の魔眼の真価が魔法に表れるという意味はすぐに分かった。目を凝らせば、魔法がどのように成り立っているのかが見えたのだ。例えるならそれは白眼で相手の体内のチャクラの流れが見える的な、そういう感じだった。

 魔法では最初に特定の文言を唱えることにより、空気だったり自分の体内の脂肪なんかを分解している。あれは、中性子とか電子?いや素粒子か?先生はそれをマナと呼んでいた。取り出したマナに対して更に呪文を唱える事で、その呪文に応じてマナは形を変えた。それは炎になったり、水になったり、土になったり、風になったりした。


 暫くの間、先生の真似をして魔法の練習をした。呪文自体は決まっているので誰が唱えても同じだ。子供だろうが呪文を覚えてさえいればいきなりメラゾーマが放てる。後は呪文のイントネーションだったり、抑揚の付け方によって呪文の威力が変わっていくらしい。私は全知の力によってマナの流れが見えたから、どのように呪文を唱えれば求める最善な形が得られるのかが分かった。時には呪文その物を変えることもあった。ちなみにこんな感じ。


先生「オンギャラハラ、ミーヒンテプソン、ナハラタラヤ、アンウンサトエリ」

⇒ベキラゴン的な魔法が放たれる。熱い。


私「オンミハラ、ミーヒンテオン、ナハラタラヤウン、アンサトエリヤ」

⇒ファイナルフラッシュ的な光線が放たれる。つおい。


 なんか途中からいかに強力な魔法を唱えるかを先生と研究する感じになった。先生はとても博識だったから魔法の歴史についても造詣が深くて色々教えてくれた。先生独自の見解によれば、最初の魔法は神の使者によりもたらされた。この世界において書を残す文化が始まったのは比較的最近であり、それまでの間全ての呪文は口伝されていた。したがって、今現在各地で使われている魔法はいずれも始まりの魔法から歪に派生したものであり、先生の夢は神代の魔法を一つでも再現する事みたいだった。


 魔法の勉強を始めて三ヶ月後には、私は先生の使える魔法の全てを二段階くらい強くした魔法が使えるようになっていた。先生との魔法の研究はとても楽しかったのでもう少しこのままでも良かったけど、目ざとい王様が「よし。凄いぞロコ。想定よりも遥かに早い。この調子で次は体術だな」と言うから、褒められて満更でもない私はそれに従うことにした。


 すぐに後悔した。私の体術の先生はシュージィという30手前の男性だった。兎に角熱く、厳しい先生だった。始めて会ったときの台詞は今でも覚えている。先生は開口一番こう言ったのだ。


「……お前に足りないもの、それは。情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ。だが案ずるな。俺の信じる俺を信じろ。……狙い撃つぜ」


 いや、最後の取って付けた台詞なに?何を撃つの?


 なんか、古今東西の兄貴が色々合体してるなと思いました。名前は師匠だけど。


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