第33話 私の異世界転生 ep.2
「ちょ、ちょま。待ってくださいなの!」
「待たぬ。大抵の無能どもはここで話を聞くから失敗するのだ。私は違う。死刑と言ったら死刑だ。アローレン。処理しろ」
「……分かりました」
王様の隣に立っていた、アローレンと呼ばれた聡明そうな若者がこちらに近付いてくる。彼は剣を抜く。殺気はまるで無かったが、数瞬後に自分の首が落ちている模様が容易にイメージされた。嫌だ。私は死にたくない。どうすれば……。
「……悪く思わないでくれ。これも仕事だ」
「あ……」
彼は剣を振り上げる。逃げなければならないのに、私の脚は動かなかった。振り下ろされる刃。しかし恐怖で動けないはずの私の目は閉じることなくその軌跡を追う。引き伸ばされる時間。その瞬間、私の脳裏に浮かぶのは走馬灯ではなく……。
……キィン!
「……馬鹿な」
アローレンの剣は、私の手刀に折られた。より正確に言えば、私の手が触れた部分が分解され、刀身の半分が重力に引かれて落下した。
「…………!?」
見える。全てが。物質の構成、この世の理が。同時に自身の体に薄い膜のような物が張っている事に気付いた。その膜を薄く延ばして、要素同士の繋がりを断てばあらゆる物質を分解できる。その事実を、私は自然と理解出来ていた。
……頭が割れそうに痛い。でも倒れる訳には行かない。倒れたら、殺されてしまう。武器を無力化できたところで状況は打開されていない。何故なら、もしもアローレンが本気を出せば、戦闘経験のない私は付いていけない。仮に付いていけたとして、私には人を殺すことなんて出来ない。どうしよう……。ゲボ吐きそう。誰か助けて……。
「……王よ、いかがなさいますか?命令を続行すべきでしょうか」
「いや、暫し待たれよ。……今のは、全知の魔眼、なのか?そんな、お伽噺の代物が……。しかし今起きた光景はそれ以外で説明できぬ。それ以外の方法で、宝剣アマテラスを折ることなど……」
助け船は意外なところから出された。先程までこちらの言葉に聞く耳を持たなかった王様だ。そしてどうやら私は、物凄く高価そうな剣を壊してしまったらしい。ヤバい。
「……時に娘よ。名はなんと申す」
「稜子、良縁寺なの」
未だに激しい頭痛に教われている私は、何故だか名前、名字の順で自己紹介してしまう。
「ふむ……。ロコ・ロエンディか。魔族界隈でも聞き慣れぬ響きだな。……ロコよ、お前は何故あの森に居たのだ?」
「あの、私は実は別の世界から来たの。三年くらい前に。目が覚めたらあの森に居て、別にスライムで悪いことを企んでた訳じゃないの。ただ遊んでただけなの……」
シーン……。一瞬静まった後、周りからやはり魔王の差し金なのではないか、殺すべきなのではないかという声が挙がる。本当の事を言ってはいるが、普通に考えれば意味が分からないだろう。しかし、王様とアローレンだけは何やら神妙な顔をしている。
「王よ。三年前という話が本当なら……」
「うむ。……勇者召喚。失敗したものと諦めていたが。しかしこれで状況は変わった。今現在、勇者不在であったからこそ、アローレンを筆頭に魔族と渡り合えるだけの粒が育っている。加えて全知の魔眼持ちの勇者という最強のジョーカー。フハ……。フハハハハハ!良い!実に良いぞ!」
なんか王様めっちゃテンション上がってる。良かった。ひとまずこれで殺されることは無さそうだ。魔王の討伐についてはどちらにせよしなければならなかったのだから、利害は完全に一致している。
「鑑定士を呼べ!此度の勇者がどれ程の物か、見てみようではないか!」
なんだろう。ゲームで言う所のステータスが見れる人でもいるのだろうか。だったら最初から見てくれたら良かったのに!
……鑑定士は直ぐに来た。数秒間じっとこちらを睨み、何やら複雑な顔をしている。
「どうした?鑑定結果を報告せよ」
「……畏まりました。では、報告致します。まず第一にですが、神のスキルである全知の魔眼を持っています」
「ふむふむ、やはりそうか」
「そして職業ですが……。遊び人です」
そう言えば、この世界に来てから一ヶ月くらい経ったある日、頭の中にそんなアナウンスが流れた気が……。
「…………は?いや、まぁ良い。勇者に転職してからレベルを上げれば……」
「レベル99です」
遊び人になったからかな。遊ぶだけでレベルアップしてた。
「…………。そこまで上げていれば例え遊び人だろうが……」
「ボーナスステータスは全て運に振っているようです」
運も実力のうちって言うし?あといつかこの世界のカジノに行ったときに荒稼ぎしたいなって。あ!ほら!カジノって伝説の武器とか置いてあるし!?絶対終盤まで使えるから!
「……ロコよ。何か申し開きたいことはあるか?」
ガタガタガタガタッ!!!体が勝手に震え出す。もうね、殺気が凄いんだもん。人ってこんなに怒れるんだなって。草。おしっこ漏らしそう。
「えっと……、あの……。そ、そうなの!もしも運が悪かったら、私はアローレンの剣を折ることも出来ずに死んでいたの!運が良かったから、上手いことタイミングがあったの!折った剣先も私を避けるように逸れていったの!あ、あと全知の使い方が分かったのもついさっきなの!私って本当に運がいいなぁ!?」
「……私の知っている範囲で最もレベルが高い兵士がそこにいるアローレンなのだが、それでもレベル43だ。ロコよ、もしもお前が満遍なくボーナスステータスを振っていたならば、遊び人とはいえ対等にアローレンと渡り合えたはずだ。ちなみにだが、勇者の場合、レベルアップによるボーナスはそれ以外の職業の3倍貰えていた。もう一度聞く。何か申し開きたいことはあるか?」
「あ、あの……。あ、う、うう……!ご、ごべんだざいだの……!わぁぁぁぁああ……!わぁぁああああああああん……!!!」
私は泣いた。これまでの人生の中でも圧倒的第一位に泣いた。おそらくこれ以上泣くことはもうないだろうというくらいの勢いで泣いた。理路整然と問い詰めてくる王様が恐かったのもあったし、耐えられずに少し漏らしてしまった自分が情けないのもあった。ここに来る前にちゃんとトイレ行っておけば良かった。
「え、ちょ。泣くとかズルくない?皆のもの!私は悪くないだろう!?」
「…………」
なんかもう完全に王様が悪い雰囲気になっていた。そのあと私はメイドに慰められながら客室に案内され、下着を着替えて、美味しい物を食べさせて貰った。ぐっすり寝て起きたら元気100倍で復活した。
とりあえず死刑は免れたようで安心したのだった。
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