第31話 いつかの終わりに向けた話
「やっと到着したの!早くパスポート買わなきゃ!」
「ロコ、大人2枚と小人1枚だからね」
「うん!先に行って並んでくるから!二人も直ぐに来てね!」
そう言うとロコさんはぴゅーっと走って行き、やがて見えなくなる。
土曜日、早朝、舞浜駅。今日は前にロコさんと約束していたディズニーランドに来ている。最寄り駅だけあって早朝にも関わらず人は多い。なのだけど、ロコさんは誰にもぶつかる事なく上手いこと抜けていった。アイシールドかな?
「……蓮、実はあれも魔法よ。ほら、RPGで良くあるエンカウント率を下げる魔法」
あれって物理的に避ける感じなの!?
「……ちなみに魔法名は何です?」
「ミラージュコロイド魔法よ」
「…………」
それは光学迷彩では?
俺はほむほむと並んで歩く。駅からランドまでは少し距離がある。大丈夫。入ってからの動きは完全に頭に入れてある。今日は何個アトラクションに乗れるだろうか。
「……ああ、そう言えばですけど、ほむほむって何でこの世界に付いてきたんですか?多分ですけど、魔王を倒していきなり来たって訳でもないですよね」
道中暇だったので聞いてみる。以前も考えた事だ。ロコさんと初めて会った時、彼女は戦闘直後という感じではなかった。ほむほむには選択する時間があった筈だ。
「……話しても良いけど、それを聞いたら今の私達の関係性は崩れる。正直私は、今のままでも良いんじゃないかと思ってる。……いえ。でも本当の意味でロコが幸せになるためには必要なのかもしれない。あるいは、蓮にとっても……」
「…………」
なんだろう。らしくない。まさかこんなに真面目なトーンで話始めると思ってなかった。
「……それは、未だにロコさんの記憶が全く戻らない事と関係してますか?」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
いや、真面目なトーンのままだけど絶対ふざけてるよね。
「冗談はさておき。さっきも言ったけど、聞いたら引き返せない。今の生活に不満がないなら別にこのままでも良いじゃない。知らない方が良い事なんて、世の中いくらでもあるでしょ」
「…………」
そうかもしれない。このまま日々が続く。ロコさんの記憶は戻らない。彼女を知る人も見つからない。どこかで諦めて、彼女が普通に生きられるように諸々の手続きを行う。だとしても今と生活は変わらないだろう。少なくとも、俺が高校生でいる内は。その先は?彼女には魔法がある。上手くやれば普通に生きていく事は難しくない。別に、俺の所にいる必要性はないのだ。そして俺に彼女を縛り付ける権利もない。平穏な日々が戻る。何も問題はない。イレギュラーが消える。それだけ。……それだけ?
「……ロコさんの記憶が戻るまでの間、彼女の事を助ける。確かそういう約束でしたよね。もし戻らないであれば、俺はずっとロコさんの面倒を見る事になります。そんなのは御免です」
「そんな理由じゃあ、教えられない。ごめんね。蓮の気持ちは分かってるけど、私はそれを、言葉で確認したい」
「…………」
その通りだ。あやふやな言葉で逃げるべきではない。そんな男に、話せる事では無いのだろう。俺は反省する。ほむほむは真剣なのだ。
「……魔王を倒した後で、向こうの世界に残るという選択が出来たのか知りませんが、もしそうだとしたら、ロコさんはこちらの世界に戻ることを選択した事になります」
「正解よ。続けて」
「だとすればそれは、こちらの世界にロコさんにとって大切な何かがあるという事でしょう。それは家族だったり、あるいは恋人かもしれない。それが無くても幸せになれるとしても、あった方が良いに決まってる」
「もう一押し!」
あれ?ちょっとふざけ始めた?
「……俺はロコさんが好きだ。彼女に幸せになって欲しい。だから話して下さい。俺の出来る最善を尽くします」
「良いわね。とても青春してる。思わず邪魔したくなってくるわね……」
「…………」
え?ここまで言わせておいて?
「……さて。どこから話そうかしら。まず最初の疑問に対する答えだけど、私がこの世界に付いてきた理由はロコを守るためよ。記憶が戻ることのない、星から存在自体をなかった事にされているあの子のために……」
「……は?」
それは開始早々、心が折れそうになる話だった。
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