第30話 何気にモテる
感情の起伏が殆ど無い。ほむほむに言われた言葉。そうかもしれない。それは昔から。子供の頃から。物心が付いてからずっと。
多分、俺は人より少しだけ賢いのだ。そして絶望的に欲がない。だから俺は、子供の頃から自分の置かれている状況に満足していた。普通で良いのだ。それ以上、望むことはない。目立つ必要もない。普通に遊んで。普通に勉強して。普通に良い学校に入って。普通に大きな会社に入って。普通に彼女と結婚して。普通に子供に恵まれて。普通に寿命で死ぬ。きっとそうなる。確信があった。
普通にやれば、大抵は思った通りに事が運ぶ。仮に思い通りに行かなくても何とも思わない。だから感情が動かない。山もなければ谷もない人生。真剣に生きてると思う。でも同時に、明日命が終わっても構わない。悟り世代?それ、誉め言葉ね。
だから、魔法という超常を目の当たりにしても別にそれを利用しようとは思わなかった。する必要がない。俺は今で幸せだ。それは要らぬ争いを生むだけ。そういう意味では、ロコさんという存在は俺にとってリスク以外の何者でもない。早く記憶を取り戻して、別々の道を歩む。それが最善だ。
「神楽君、入試で隣の席になった貴方を、一目見た時から気になってました。好きです。私と付き合ってください!」
「……ごめんね。俺、好きな子がいるんだ」
碧斗の言うように、俺はモテない訳ではない。それでも今まで女子と付き合ったことはない。それは何故かと言えば、今のままで十分だから。少なくとも、今はまだ。もちろん、彼女がいる事によるメリットもあるだろう。端的に言えばセックスが出来る。それが結婚なら、自分の代わりに家事を任せることも出来る。でも同時にデメリットもある。自分の時間が取られる。価値観が合わなければストレスを感じる。俺はメリットを取る事よりも、デメリットを取らない事に重きを置く。ノーリスク、ノーリターン。それはきっと、つまらない生き方なのだろう。
でも、今回のそれはいつもと同じなのだろうか。この間碧斗に彼女を作ることに対して善処すると約束したばかりだ。さっきの子だって可愛かった。別に付き合ったって良かった。でも、俺はそうしなかった。
フッた理由。他に好きな子がいるから。まさか。ロコさんとは、そんなんじゃない。ほむほむ?それはない。剣だし。
「ただいま」
ドタドタドタドタ!
リビングから騒がしい足音が聞こえる。俺は、自分でも気付かない内に笑みを浮かべる。
「蓮君、ただいまなの!……あれ?どうしたの?まさか女の子から告白されて振っちゃったとか?ごめんなさいなの!こんな美人なお姉さんと生活してたら、それは仕方ないというものなの!」
「そうですね。責任取ってください」
……やっぱりロコさんも俺の考えている事が分かってるのだろうか。いや、正確には全知で見えている。見えてしまうとか?俺は試しに考えてみる。俺はロコさんが好きだ。
「……な。ななな!?お、大人をからかわないの!」
「…………」
これ、やっぱり考えてる事バレてね?
「バレてないから大丈夫なの!」
……めっちゃバレとるやん。
「そ、そんな事より、今日の夕飯は蓮君の好きなイースンパァチィなの!」
全然聞いたこと無い……。中華料理、なのか?
「いや、イースンパーチって何ですか?」
「違うの!イー↑スン↓パァ↑チィ↓なの!」
何その謎のネイティブ感……。
「ここからは私が説明するわ」
「……ほむちゃん!後は任せたの!」
「あのね蓮、向こうの世界に、こちらの世界の鶏に良く似た鳥がいるのよ。その鳥の卵のことをイースンというの。パァチィは焼き物全般を意味するわ。メジャーな家庭料理ね。ちなみに私はソース派」
それただの目玉焼きじゃねぇか!いや好きだけども!
「私は印象派なの!」
「西洋絵画か」
「じゃあ、やっぱり私はルター派で」
「プロテスタントか」
「……蓮君は何派?」
……!?まずい。予想外だ。まさか振られることになるとは。……怖い。なんか面白い事言わないといけない雰囲気が何より怖い。
「え、えっと、はぐれ刑事純情派……?」
「…………」
「…………」
「せめて聞いた本人はリアクションしろや!」
……感情の起伏が殆ど無い。
君たちのおかげで、近頃はそうでもないんだ。
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