第29話 魔法学概論
「ところで、結局、俺でも魔法使えるんでしたっけ?」
旅行の話で盛り上がった結果、肝心な事が分からないまま終わる。そんなのは嫌だ。
「使える、と思うよ?まずは私と契約して魔法少年になってよ!」
若干垣間見える自信のなさと、この上なく怪しい誘い文句……。いや、魔法少年って何?
「2,500円でしたっけ。良いですよ」
「ううん!旅行は行けることになったからお金は別に良いの!」
「そうなんですか?じゃあ契約って何するんです?」
他に何か欲しいものでもあるのだろうか。
「魔法を教える代わりに、寿命の半分を頂くの!」
「悪魔か」
「人生の半分を貰うの!」
「プロポーズか」
「世界の半分をあげるの!」
「魔王か。というか、くれるの?」
何でやねん。
「はい!ということで早速ロコちゃんの魔法講座の時間です!講師はいつもお馴染みミステリアス美少女のロコちゃんと!」
「助手のほむほむです。剣です」
なんか知らんけど授業が始まった……。講師と助手のテンションの差が激しい……。
「魔法についての概要はほむちゃんから聞いてるとのことなので省略します!一応さらっとおさらいすると、まずは物質を分解してマナを取り出します!取り出したマナを使って望む物質を作ります!以上、これだけ!」
うんうん。それは前に聞いた。もう最初から出来ない。
「まず、物質の分解ってどうやるんですか?」
「あのね、ぐーっと眼を凝らすの。そうすると物質同士を繋いでる線が見えるの。その線を指だったり、音や視線で切るの。お気付きのように、指で切るのがいわゆる印、音で切るのが詠唱、視線で切るのが無詠唱なの」
うん。全然お気付きでない。そもそも眼を凝らしても見えない。
「あの、ロコ先生、多分ですけど、眼を凝らすことでそれが見えるのはロコさんとほむほむだけだと思います。っていうか、視線でどうやって切るんですか?」
「慌てないの!大丈夫!先生に任せてなの!ちなみに視線でどう切るかだけど、眼から発せられる放射熱で切るの。だから、無詠唱を行うには眼球部の体温を上げる鍛練が必要なの。そのせいで無詠唱の術者は常にドライアイに悩まされているの……」
「そうなの!?」
「それで、物質の分解の話に戻るの。ぶっちゃけた話、適当に腕を振るだけでも、こうして話しているだけでも空気の線は切れてマナは溢れているの。放っておくと元に戻るけど」
「へぇ……。じゃあ原材料には困らない訳ですね」
「ただし!空気から得られるマナはあまり多くないの。水と空気って密度が800倍くらい違うじゃない?だから高出力の魔法を使おうと思ったら、MPを消費することになるの!」
……MPって。急にRPGっぽくなったんですけど。
「あの、MPって具体的に何なんですかね」
「mass point あるいはmental pointなの。まずmass pointだけど、これは要するに自分の体重なの。一時期向こうの世界では魔法ダイエットがとても流行ったのだけど、これは素人が手を出すととても危険なの。体重と言っても実際に使うのは脂肪なんだけど、素人が下手をやると筋肉とか体の水分なんかを分解しちゃうから気を付けてね。ちなみに分解する方法は詠唱になるの。シャドーイングが習得への近道なの」
英会話か。え?MPってそんな感じなの?
「次にmental pointだけど、これには感情を使うの。例えば何か嫌な事があって凄く怒ってる状態を想像してね。何とかして無理矢理平常心を保とうとすると、余計に怒りが自覚されて浮き彫りになるの。その状態で感情に合わせた詠唱を行うことで、通常時との差分をエネルギーとして取り出す事が出来るの。これはマインドコントロール術としても優秀で、向こうの世界のエリートサラリーマンの間では必須スキルになりつつあるの」
さっきからちょいちょい流行の情報みたいなの入れてくるけど、それ必要?というか向こうの世界のエリートサラリーマンって何?王属騎士団的な?
「なるほど。今の話だと一先ずmental pointを使うための詠唱を教わる必要がありそうですね」
「うーん。それなんだけどね……?」
「難しいと思うわよ?だって、蓮って感情の起伏が殆ど無いもの。もう、綾波レイかっていうくらい無い。たまに突っ込みでテンション上がるけど、突っ込みに対しての詠唱は流石にないわね。誰も戦闘中にボケないし、平時に突っ込み役がいなくなったら収拾が付かなくなるでしょ?」
「…………」
前半は納得してしまったけど、後半はなんか違くない?
「大丈夫なの!社会に出ればきっとムカつくことなんて山ほどあるから、すぐに極大魔法も使えるようになるの!嫌なことは全て魔法で吹き飛ばせば良いの!」
「いや、駄目だと思います」
とりあえずマナを取り出すための詠唱を一通り教えて貰って、ロコさんによる第一回魔法講座は幕を閉じたのだった。
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