第28話 沖縄旅行

「ところでロコさん。実は頑張れば俺でも魔法使えたりしますか?」


 週末、リビング、夕食中。皆でテレビを見ながら俺は不意に思ったことを尋ねる。前のほむほむの話では、ロコさんは神に与えられたスキルのおかげで一度見た物は何でも魔法で再現できるらしいけど、そうじゃない人々だって魔法を使っている。知らないから出来ないだけで、素質自体は誰にでもあるんじゃないだろうか。でなければ元々こちらの世界の人間であるロコさんが魔法を使えるのはおかしい。


「そこに気付くとは流石なの……。耳を貸して。ここだけの話なの。本当は誰にも教えたくないんだけど。……実は良い商品があるの。この教材を使えば必ず魔法が使えるようになるの。おまけにお金も稼げる。蓮君に教材を買って貰ってね、友達に売るの。そうするとその友達は蓮君の子になるの。今度はその友達が誰かに教材を売るの。すると何もしなくてもその売上の10%が蓮君に入るの。更にその友達の友達の売上の5%、最大で曾孫の2.5%まで受け取れるの。これは、画期的なねずみ講なの」


「…………」


 もうね。おもいっきり自分でねずみ講って言ってるからね。配当は売上に対してで曾孫までだからマルチ商法だけど。まぁ違法でないけどあまり良い印象はない。


「蓮、安心して。その教材の効果は確かよ。私もそれで魔法が使えるようになったから」


 嘘付け!ほむほむは絶対最初から使えただろ!


「あの、普通に教えてもらえないですかね」


「もう!しょうがないんだから!今ならキャンペーンで入会金無料、初年度の月謝半額だから!蓮君だけの特別価格!早く印鑑持って来て?」


「……月謝はおいくらですか?」


「えっと、じゃあ2,500円で」


 良心的か!それで魔法覚えられるなら普通に払うわ。でも、それだと大して足しにならないのではなかろうか。バイトの時間増やした方が早くない?


「……何か欲しいものでもあるんですか?バイト代で買えないくらいの」


 ちなみにロコさんのバイトは週3で1勤務5時間くらいだから、一月で6万くらい稼げる。まだ一回しか給料貰ってないけど6万円で買えない物ってなんだろう。そりゃブランド物の服とかバックとか言い出したらキリがないけど、ロコさんってそういうのは自分で作ろうと思えば作れるから違う気はする。


「……あのね、蓮君、そろそろ夏休みじゃない?それでね、普段からのお礼がしたくて。皆でどこか旅行でも行きたいなって思ったの」


「……!?」


 マジで!?まさかロコさんからそんな提案があるなんて、完全に予想外だ。やばい。超嬉しいんだけど。なんなら学校があっても休んで行くわ。明日から行こうぜ。一週間くらい。


「ちなみに私はハワイに行きたい。安心して。私は子供料金で行けるから」


 ……それ前も聞いた。ああ、そう言えばなんやかんやテスト期間と被ってたからディズニーランド行けてないな。その時もほむほむは騒いでたけどロコさんは素直に聞いてくれた。もしかしたらロコさん、前から諸々の金銭的な問題を気にしてたのかもしれない。ほむほむも少しは見習って欲しい。


「えっとですね、パスポートを取得する方法が思い付かないので、海外はちょっと……。あと流石にそんなにお金ないです。せめて沖縄とか……」


「沖縄、楽しそうなの!でも、それだと飛行機乗らなきゃ行けないからいっぱいお金掛かりそう……」


 うーん。俺も高校でバイト始めてからそんなに経ってないからなぁ。彼女らの食費で使われてるのもあるしそんなに貯まってない。三泊四日の宿泊費6万の往復運賃6万で12万として。セットならもう少し安くて10万くらいだろうか。食事、観光、お土産やらで5万くらいは見ておくか。ざっくり15万円。なるほど。結構掛かるな……。


「……お困りのようね?こんな事もあろうかと、商店街の福引きで沖縄行きの往復チケットをゲットしておきました。ちなみに宿泊付きです。全員行けます。さて、ひれ伏してください」


「ほむちゃん……!だから好き!」


「でかした!!」


 いや、冷静に考えるとどうやって当てたんだろう……。魔法なんだろうけど……。


「蓮の思ってる通りよ。まず全知の魔眼でガラガラの中身を見ます。特賞の玉を手元に瞬間移動させます。自分のターンで玉が出る瞬間に特賞の玉をガラガラの出口に瞬間移動させます。簡単でしょ?」

 

「…………」


 全然簡単じゃないし「全知」って神からロコさんに与えられたスキルじゃなかったっけ……。ロコさんのアイデンティティ大丈夫だろうか。


「そ、その手があったの!ほむちゃん頭良い!」


 全然気にしてない。むしろ感心してる……。まぁそこまで悪用してる訳でもないし、俺も良いと思う。ちょっと助かったし。


「所で、さっき頭の中で私に対して生意気な事を思った蓮がいたのだけど、今はどう思ってるのかしら」


「……。さーせんした!」


 俺は迷わずほむほむにひれ伏した。


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