第25話 女心は難しい

「お帰りなさい蓮君!お風呂にする?ご飯にする?それとも、わたし?」


「…………わたしで」


 良く分からないけど、俺は決してチャンスを逃さないのだ。


「もう、蓮君えっちなんだから!はい!タワシなの!」


 トテテテテテー!リビングに走り去るロコさん。俺の手に残される普通のタワシ……。なんだ?どういうことだ。状況を整理しろ。家に帰る。新婚三択を迫られる。タワシを渡される。分からない。全然分からない。


「私が解説しましょう」


「うぉ……!ほむほむさん、どっから出てきたんですか?」


「伝説の剣の一つに、蜃気楼っていう魔剣があるのよね。実体が有るような無いような。今日持ってきてたっけ?家に忘れたような……。あ。家出る時鍵閉めたっけ?っていう感じの剣なんだけどね。身を隠したい時に変身するの」


 どんな剣だ。まぁ言わんとしてる事は分かるけど、それ、実運用できないよね。


「それはそれして、ロコの事なんだけどね。この間ほら、蓮の同級生が家に来たじゃない。ロコはね、焦っているんだよ。蓮が他の誰かに取られやしないかってね」


「いや、この間の緑ちゃんのどこからそんな脅威を感じ取るんですかね……」


「かぁー!このにぶちん!良い?女の子が一人暮らしの男の家に単身で来る。そりゃもう、いつでもやっちゃってOKって事でしょう!?私には見えたよ。ロコと緑の間で繰り広げられる闘いが。お互い、隙あらば殺そうとしてたね」


 ええ……?そんなに殺伐としてた?ストファイに夢中で気付かなかっただけ?


「蓮、あなたももう少しその辺の女心を理解すると良いよ。ロコの気持ちも、緑の気持ちもね」


「……はい」


 ……いや、お前剣じゃん。というツッコミは野暮なのだろう。


「というか蓮に彼女が出来たら、この家に居辛いじゃない」


「…………」


 もうさ、絶対そっちじゃん。一瞬、嫉妬なの?とか期待しちゃったじゃん。恥ずかし!


「ところで、ロコさんは何でタワシを渡してきたんですかね」


「それは私にも分からないわ」


 分からんのかい!


 まぁ分からない物は分からない。きっとロコさん本人に聞いた所で明確な答えは出ないのだ。いやしかしだ。ロコさんはタワシを用意していた。と言うことは彼女はあの選択肢の中で自分が選ばれる事を予想していた事になる。そしてもしそれが嫌なのであれば、そもそもあの質問自体してこないはずだ。つまり、答えは一つ。ほむほむ風に言うなら、いつでもやっちゃってOKって事なんじゃないか?ふむ。そう考えるとアレだな。ほむほむめっちゃ邪魔……。


「ほむほむさん、お金上げるから買い物でも行っておいで?」


「本当?最近、気になってる金属があってね。ベアリングの鋼球なんだけど、多分アレ人間的に言えば堅あげポテトみたいな?食感が良さそうなのよね。ステンレスボールならなおよし。それで?おいくら万円くれるのかしら?」


 えぇ……。諭吉をご所望とか。どんだけ量買う気なんですかね……。


「えっとですね……。じゃあ、2万円でどうですか?」


「はぁ……。私も舐められたものね。場末のソープじゃないのよ?」


「さっ、3万円でどうでしょう……」


「だが断る」


「……!?」


「この炎龍獄剣ホムラが最も好きな事のひとつは、人の恋路を邪魔する事よ」


「…………」


 それただの嫌なヤツじゃねぇか!そう言えば異世界でもエルトの邪魔してたんだよなぁ。


「……蓮に責任を取る覚悟があるならその限りではないけど」


「いや、冗談ですよ」


 冗談っていうか、具体的な事は何も言ってないけど。まだ高校生の俺に責任なんて取れない。俺にとってそれは遥か未来の話なのだ。そしてその先の未来に、ロコさんがいるとは思えない。


「たまに思うんだけど、ほむほむさんって魔法か何かでこっちの思考読んでません?」


「ええ。無能なナナ魔法っていうの」


 いやそれ、本当は読めてないやつなんじゃ……。 


「実は蓮が頭の中では私の事を呼び捨てにしている事も知っているわ。それはまぁ、むしろ呼び捨てで良いんだけど」


 読まれてた。

 

「…………あの。ごめんちゃい。今度包丁でも何でも買ってあげるから、何卒、今日の愚考については秘密にして頂けるよう……」


 ははぁー!って感じで土下座する。


「しょうがないわね~。貸し一つだから」


 ふぅ。良かった。いや、別に本当にそう言う気持ちだった訳じゃないよ?だけどさ、ちょっと気まずいじゃん?


 と言うか実は、ロコさんにも思考読まれてたりするのかな。


 …………。


 ふっ。……聞かないでおこ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る