第21話 ロコ&ほむ劇場
「緑さん、ようこそ神楽家へ。歓迎致しますわ。初めましてですね。私、蓮の妻のロコと申します」
「え?蓮君、どういうこと?」
「……アレじゃないかな。ロコさん、学生時代に海外に行った事あるみたいだから。メリケンジョークだと思う。気にしないで」
「あ、そうなんだ。面白い人ね。こちらこそ初めまして。蓮君のクラスメイトの緑です」
……これも異世界ジョークなんだろうか。いや、事前にみっちり打ち合わせしたじゃん!頼むから合わせてくれよ!なんかウィンクして来てるけど全然上手い事ないからね?
週末。金曜。学校帰り……。先日の約束通り、俺は緑ちゃんをアパートに招く事にした。もちろん、事前に色々準備をしたのだ。した筈なのだ。
「もう一人家族がいるんですよ。神楽家のペットのほむ猫です。血統書付きの由緒正しいどら猫ですのよ」
「よろしくだにゃ」
ロコさんの後ろに隠れていたほむほむ(幼女ver猫耳付き)が顔を出す。いや、由緒正しいどら猫って何?
「え?ペット?蓮君、どうしよう。凄い可愛いんだけど、ちょっと意味が分からない」
「……アレじゃないかな。理解できる方がおかしいから。気にしないで」
剣になって押し入れで大人しくしてるって約束したじゃん!なんで出てきてんの?おまけに訳分からん設定付けるんじゃないよ!
「……ニャーが喋れるようになったのには深い理由があるにゃ。ニャーには当時好きだったボーイフレンドがいたにゃ。彼はお金持ちの人間に飼われていたにゃ。ニャーが意を決して彼に告白したら、お前は人間と同じように高級なエサや服を用意できるのか?と言われてフラれたのにゃ。ニャーは決心したにゃ。だったら人間になってやる、と。それから一杯練習したら喋れるようになったにゃ」
「…………」
聞いてないのに小話挟んできた。というかそれ、殆どニャースの物語じゃねぇか!もう良いからさ、大人しくしてて?
「う……。ぐぅ……。そうなのね、可哀想なほむ猫ちゃん……」
しくしく泣き出すロコさん。
……いや、そんな重要なエピソードを飼い主が初めて聞くのが、なんでこんなタイミングなの?
「ぐす。本当に、可哀想ですね……」
つられて泣き出す緑ちゃん。……馬鹿か!
「さて、お互い自己紹介も終わった所で、どうぞ上がって下さいな!出来立てのぶぶ漬けを用意したの!」
ウェルカムと見せ掛けて返す気マンマンじゃねぇか!
「あ、はい。お邪魔します……」
素直に従う緑ちゃん。皆でリビングに向かう。もちろんロコさんがあちらの世界にいた時の装備品は片付けたし、その他整理整頓や掃除もバッチリだ。もう、リビングにはなんもないのだ。ミニマリストなのだ。
「あ……。なんというか、芸術的なお部屋ですね……?」
俺の前で緑ちゃんが何とも言えない反応をしている。
「ちょ、ロコさん、マジで……?」
リビングは色々とりどりのLEDでサイケデリックに光っていた。ゲーミングルームである。加えて甘ったるいお香の匂いに、川のせせらぎや鳥の鳴き声といったヒーリングミュージックが空間を包む。完全に異次元。そして中央のテーブルには苺のホールケーキ。
「今日はね、ほむ猫ちゃんの聖誕祭なの」
「え?……そ、そうだにゃ!とっても嬉しいにゃ!」
せめてお前らの間でくらい話付けとけや!
「……バタフライ、今日は、今までの、どんな、時より素晴らしい~♪」
「それ、ウェディングソングじゃ……」
なんなんだ?なんで今日はいつにも増してラリってるんだ?
「……蓮君、ごめんね。私にはまだ少し早かったみたい。出直す事にするね……」
「み、緑ちゃん……!」
そう言って玄関に向かって走り出す緑ちゃん。追い掛ける気力の湧かない俺。
「…………」
「……ごめんね、蓮君。あのね、蓮君の友達が来るっていうから、もてなさなきゃって思ったの。それでね、蓮君がいない時にほむちゃんと話して、即興で演劇をしようってなったの。ほら、女の子って宝塚とか好きじゃない?」
一体どこに宝塚要素があったのだろうか……。
いやしかし、何事も前向きに考えることは出来る。今日の茶番劇のお陰で、俺のアパートに行こうという話は暫く挙がらないだろう。来週学校に行くのはとても憂鬱極まりないけど……。
「あとね。女の子は甘いもの好きだから。このケーキもほむちゃんと一緒に作ったの」
「契約農家から仕入れた絞りたての生乳と、有機小麦粉を使用していますにゃ」
なにその無駄なこだわり。
「……まぁ折角だし、皆でケーキ食べましょうか」
「蓮君……!そうこなくっちゃ!だから好き!」
「流石はニャーの見込んだ男だにゃ!」
ロコさん、童貞が勘違いしちゃうからそういうのは止めてほしい。あとほむほむはいつまでニャースやってるの?
ちなみに彼女達が一生懸命作ったであろうケーキは、めちゃくちゃ美味かった。
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