第22話 たまには真面目な話

「あ、そう言えば、ロコさんの二つ名ってあるんですか?ほらあれ、【光の届かぬ丘】  the empty  みたいな感じの」


「え~?知りたいの~?どうしよっかなぁ。ホムラ困っちゃう~」


 え?なんか知らんけどウザキャラになってる……。


 今日は休日。ロコさんは先程バイトに行ってしまった。今はほむほむと二人仲良くテレビを見ている所だ。俺達はインドア派なのだ。やってト~ライ!


「まぁ、いいわ。蓮には世話になってることだし。身長、体重、スリーサイズからスマホの暗証番号、住所まで、何でも答えちゃう」


「それは普通に不味くないですかね……」


 おもいっきり個人情報だし。ストーカーかな?というか住所はどちらかと言えば俺の個人情報では……。


「で、二つ名よね?もちろんあるよ。ロコのそれはね」


【魔法の王様】  know all  


「…………」


 ……裸の王様的な?略したら魔王なんですけど。


「いや、なんというかですね。もうちょっとこう、なんとかならなかったんですか?こんなに格好付かない異名初めて聞いたんですけど」


「本当はね、もっと厳ついヤツもあるんだけどさ。皆、ロコの事を怖がるのよね。それが嫌で、ロコが自分で広めたのが魔法の王様って訳なのよ」


 うん?どういうこと?全然ロコさんのイメージと結び付かない。俺の怪訝そうな顔を見て、ほむほむは更に説明を続ける。


「ロコってさ、色々魔法使えるでしょ?あれ、向こうの世界の人達は出来ないから」


「そうなの!?」


「もちろん炎とか水を出したり、達人になると空を飛べたりまでは出来るんだけどね。瞬間移動とか、いくら私がいるからって伝説の剣を複製するなんて出来るわけないじゃん?変な名前が付いてる魔法は全部ロコしか使えないよ」


「へぇ……。常々凄いとは思ってましたけど……」


 確かに良く「これは私のオリジナルだから!」って言ってたけど。元ネタはともかくとして本当に自分で作ってたんだなぁ。


「それでさ、戦闘になるとこれがまたえげつないのよね。ロコは疲れるのが嫌だし見栄えの問題もあって良くサラマンダーを使ってたけど、実際の所、ロコが本気を出せばサラマンダーを使うまでもない」


 サラマンダーってかなりド派手な火柱上げてた気がするけど……。


「それで、異世界で生まれた訳でもないロコが何でそんな事が出来るのかと言うとね、いわゆるチートスキルを持ってるからなのよね」


「おお……。そういう事ですか。賢者とかですか?」


 転生すると大体賢者だよね。


「惜しい!正解は~。【全知】でした」


「え。ロコさん、全知なのに商人に騙されてたんですか……」


「あー。ロコの全知ってね、自分で見た物体の構成が分かるっていう感じなのよね。だから、怪しい壺を見た時に分かるのは、その壺が何から出来ているかってこと。価値までは分からない」


「なるほど。危うく俺の中でロコさんがかなりヤバいヤツ認定される所でした」


 ちなみに既に少しヤバいヤツだと思ってる。だけど可愛いから許す。


「……向こうの世界の魔法は、こっちの世界で例えると数学と化学を組み合わせたようなものなのね。魔法って突き詰めると世界の最小単位であるマナを使って、何を形作るかという話なの。そのためには、本当なら魔法で再現したい対象が何で出来ているかを理解しないといけない。普通はそんなの分からないじゃない?だから魔法ってのはね、とにかく色々試して、たまたま望む形になったら、そこをまた起点にして色々試して。そういう泥臭い積み重ねの集大成なのよ。最も一般的な炎や水の魔法でさえ、何百年という時間を掛けて実用に至ってるの」


「……つまりロコさんは、見た物全てを魔法で再現できるって事ですか?」


「そういう事になるわね。反対に、バラバラに壊す事も出来る。魔力抵抗の弱いモンスターなんて一発よ。ちょっと頭や心臓の一部をバラせばそれでお陀仏。ロコには魔法も物理も効かない。触れる前に分解される。まぁ、端から見たら怖いわよね」


「…………」


「もしかして、蓮も怖くなった?」


「……いや、便利だなって。今度、皆でグルメ番組とか見て、美味しそうな料理を魔法で作って貰いましょうよ。ミシュラン5つ星魔法とか言うんですかね?」


「……カッカッカッカッカ!いや本当に、拾われたのが蓮で良かった!そうだね!そうしよう!それじゃあ私は日本刀でも作って貰おうかな!」


 ……しかしどうなのだろう。例えばロコさんに世界を滅ぼせるような力があるとしてだ。それがイコール彼女が怖い事にはならない気がするのだ。彼女はああ見えて実は頭が良いし、何より優しいのだ。


 結局の所、力なんてものは使い方次第なのだから。


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