第19話 機動戦士ロコダム

「あのね蓮君、私、そろそろ働いた方が良い気がしてきたの。アレよね。仕事してる時は休みが有難いんだけど、何もないとそれはそれで時間を持て余すと言うか。仕事一筋だった職人気質のオジ様が定年退職した時の気持ちが分かったと言うか」


「……なるほど」


 あれ。この人異世界では遊び人やってなかったっけ……?


 平日。学校が終わって夕飯後、三人でだらだらテレビを見ていたらおもむろにロコさんが相談してきた。ほむほむはチラッとこちらを見て、直ぐにテレビに戻った。一瞬見えたその顔は「え?ロコお前、仕事とか出来るの?」って感じだった。俺も少しだけ心配だ。


 しかしどうしたものか。彼女には戸籍だったりの個人情報が無い。でも良く考えたら履歴書なんて適当書いても大丈夫な気がする。住所はここを書けば良いんだし、後はスマホだけ用意してあげれば行けるだろう。何故ならロコさんはルックスが良い。どこの学校を出ているのかなんて事よりよっぽど武器になるだろう。うん。世の中は理不尽だね。


「ロコさんは何かしたい事はありますか?」


「あのね、私、声優がやりたいの」


「…………」


 夢がでかい。


「蓮君が学校行ってる時ね、プライムビデオを見てたの。主人公の男の子がね、鬼になった妹を人間に戻すために、鬼と戦いながら旅をするの」


 ……鬼滅の刃じゃん。うん。面白いからね。見ちゃうよね。


「それでね、妹は人間を襲わないように竹で口を塞いでるの。だからね、んーとか、むーとかしか言わないの。これなら私にも出来るかなって」


「…………」


 ……多分だけど、むしろ難しいんじゃないかな。だって台詞無しで感情表現するんだよ?とりあえず声優に謝ろう?


「あとね、ピカチュウとか、サザエさんに出てくる猫も出来そう」


「いや、タマは普通に難しそうじゃないですか?」


 知ってる?タマってクレジットで声優名出ないんだぜ?効果音との説もあるみたい。


「それでね、声優になるにはオーディションを受けないといけないの。そこではきっと、お題が出されたり、得意な台詞とか披露する事になると思うの。……エントリーNo1番!ロコ・ロエンディ!行きまぁーす!!!」


「……!?」


 え?なにこれ。なんか始まったと思ったら、めっちゃ似てるんだけど……。オーディションでそんなんやられた日にはもう、名前とルックスも相まって掴みバッチリじゃん。


「えっと、他にも何か出来ますか?」


「うん!じゃあ次行くね!……再びジオンの理想を掲げるために!星の屑成就のために!ソロモンよ、私は帰ってきたぁ!!!」


「……凄いです。再現度高い!心も入ってますよ!他には!?」


「……知れば誰もが望むだろう! 君の様になりたいと! 君の様でありたいとっ!!!」


「良いよ良いよ!それでそれで!?」


 やば。めっちゃテンション上がってきた。


「止まるんじゃねぇぞ……」


「ネタ感のあるヤツはちょっと」


 それにしても凄い。なんでガンダムばっかりなのかは良く分からないけど。本当に似ている。うん?似過ぎているというか、何なら本物が再生されているような違和感が……。


「……ロコさんあの、実はそれ、魔法だったりします?」


「聞きたいかね?昨日までの時点では、99,822人だ」


「き……、貴様ぁ!!!」


 ……思わず乗っちゃったけど。いや名言なんだけどね。全然答えになってないんだよなぁ。


「蓮君、流石なの!良く見破ったの!私のこの、山寺宏一魔法を!!!」


「…………」


 七色の声だからね。そりゃ何でもできる訳ですわ。って馬鹿!


 思わず脳内一人ノリ突っ込みをしてしまったけど、その魔法を開発した経緯が知りたい。


「まぁでも、その魔法だったらいくら使っても周りにバレる事もないだろうし、本当に声優行けるんじゃないですかね」


 ちょっと、というかかなりズルい気もするけど。それも異世界を救った報酬ってことで。


「というか、それだったら鳴き声とかじゃなくて普通に声優やれるじゃないですか」


「……イヤーワーム」


「え?」


「頭の中で同じ音楽が繰り返される現象のことなの。実はね、さっきの魔法って私の声を変えてる訳じゃないの。相手の記憶の中から、特定の台詞を呼び起こす魔法なの。私はそれっぽく口パクしてただけなの……」


「…………」


 いや、普通に考えてそっちの方が遥かに高度な事をしている気がするんだけど……。


 しかし……。


「今度一緒に、花屋さんとか、ケーキ屋さんの求人探しましょうか……」


「うん!そうするの!」


 それらの店先でバイトをする彼女の姿を想像する。とても似合うと思いました。


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