第16話 魔法と手品は紙一重

「ただいま帰りましたよ、ってなもんで」


「…………」


 ほむほむのテンションが良く分からない。飲み会帰りの親父みたい。包丁買ってあげたからだろうか……。


 買い物を済ませた俺達はアパートに帰宅した。ロコさんもそろそろ起きるだろうし、夕飯の支度をしないと。と思っていたらロコさんは既に起きていた。仲間になりたそうにこちらを見ている。


「夕飯、牛肉とレバーの青椒肉絲風にしようと思ってますけど、それで良いですか?」


「……」


 あれ。反応がない。


「え。駄目ですか?どうしようかな。何かリクエストあれば作りますけど」


「……ぷい」


 口で言った!?一体なんだというのだ!?どうすれば良いか分からず俺が狼狽えていると、ほむほむがツンツンしてくる。


「多分だけど、ロコは怒っているよ」


 うん。それは分かる。


「ロコだけおいて買い物に行ったからだと思うよ。私はね、それは良くないんじゃないかなぁって、そう思ってたよ」


「……あの、そういう事は先に言ってくれません?あと何ですかその喋り方」


「あー。買い物楽しかったなぁ。美味しそうな包丁も買ってくれたしなぁ」


 いや、何でそこで煽るの?


「……ズルい」


「え?」


「ズルいズルいズルいズルい!ズルい……!あのね!これはもう完全に激おこのファーストブリッドなの!!!」


 ……ふぅ。完全に怒ってないみたいで良かった。ラストブリッドだったら死んでた。


「起きたらまだ蓮君帰ってないなぁ遅いなぁって思って周りを見たら散らかってた服が綺麗に片付いててあれ?ほむちゃんがやってくれたのかなって思ったけどほむちゃんもいないしこれ絶対蓮君と買い物行ったやつじゃん私だけ仲間外れでズルいし良く考えたら私も高い包丁買って欲しかったしもう少し帰ってくるのが遅かったらパーティーから追放されたけど実は最強の女勇者でした状態になる所だったの!!!」


 めっちゃ早口で言ってそう。でもそうか、もう少しで壮大なストーリーが始まりそうなくらい怒ってるのか。勇者が追放されるとか本末転倒だと思うけど。あと別に高い包丁はいらないと思う。


 ……やれやれ。アレを出すときが来たようだな。


「赤い宝石」


「え?」


「お土産にさくらんぼ買ってきました。化粧箱入りのやつ」


「……まじ卍?」


 初めてロコさんから今時のワード聞いた。勉強したのかな。いやね、ほむほむにだけ買って上げるのも悪いかなって思って。


「んもう!蓮君たらもう!勿論信じてたの!え?嘘。何これ、凄くない?流石やわぁ。赤い宝石の異名は伊達やないわぁ。くぅーー!今夜はこれで熱燗をくいっとね、ってなもんで」


 ロコさんも変なテンションになった。っていうか酒のつまみにするの?普通に食べよ?


「じゃあ夕飯作りますから、ゲームでもして待っててください」


「はーい。ほむちゃん、それじゃあ桃鉄やろっか」


「良いよ。私、めっちゃ得意だから」


 いや、やったことあるんですかね……。それに、ロコさんってステータスを運に全部振りしてなかったっけ……。


 俺はキッチンに向かう。買ってきた食材を取り出して料理に取り掛かる。 


「ああ、そうだ。先にご飯炊かないと……」


「私に任せて」


「うぉっ!?」


 いや、任せたくないんだけど……。あと何で毎回気配消して来るの?


「クセになってんだ、音殺して歩くの」


 ……完全に本家じゃん。


「あのね、ほむちゃんの作るご飯凄いんだから!本当に美味しいんだよ?」


 ロコさんも来た。何なの?もう桃鉄飽きちゃったの?まだ一年も経ってなくない?


「それは知ってるんですけどね。なんというか作り方がその、アレじゃないですか?」


「え?作り方?極め炊きふっくら御膳炊きたて備長炭炭炊釜魔法のこと?」


 何その最新炊飯器盛り合わせみたいな魔法。


「あのね、ほむちゃんの炊飯器魔法は特別なの!パンも焼けるんだから!」


 面倒だから普通に炊飯器って言ってるじゃん。あと何でそこだけ一昔前の新機能なの?


「えっへん」


 ほむほむ、スッゲー得意気なんだけど。


「いや何て言うかほら、口から出すじゃないですか」


「……ああ!もしかして、ふじいあきら魔法のこと?私も初めて見た時は驚いたんだけど、少し考えたらおかしいなって直ぐに気付いたよ?」


「…………」


 え?嘘やろ?マジでショックなんだけど……。っていうかそれただの手品だろうが!!!


 ほむほむがニヤニヤ笑いながら勝ち誇った顔をしている。


「イッツア、異世界ジョーク」


「…………」


 ……いや、異世界ジョークってなんやねん。


 しかしその日の夕飯、ほむほむが作ったご飯はやっぱり美味しかったのでした。


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