第12話 学校における神楽蓮の日常

 昨日起きたことが嘘のように学校は極めていつも通りだ。いつも通り、俺は黒板の内容をノートに写しながら隠れて内職をする。全国展開しているとある塾の模試の採点をするという、文字通りの内職だ。元々は母がやっていたのだけど、父の転勤に付いていく時に辞めるか迷っていたので引き継ぐことにした。仕送りとは別に好きな事にお金が使いたかったし、ついでに自分の勉強にもなるしで一石二鳥だなと。あ、ここ内職ゼミで出たところだ!なんつって。


「蓮君、そろそろ指されるよ」


 隣の席からひそひそ声で俺に注意してくれるのは、中学でも同じクラスだった良縁寺美紅だ。


「ん」


 と返事をして、その時の授業内容を少し振り返って答える準備をする。2分後に指されるが問題なく答える。いつも思うんだけど、良縁寺さんには未来でも見えているんだろうか。俺が授業聞いてないだけ?


 昼休み。いつものグループで昼食を食べる。俺、良縁寺美紅、北畑碧斗、田中緑の四人だ。高校が始まった時に席が隣同士だった事もあり早々に打ち解けた。学校帰りにファミレスやカラオケに行くような仲だ。


「あれ?蓮君、今日のお弁当いつもと違くない?」


 緑ちゃんに指摘される。目ざといな。探偵かよ。


「あー。今、親戚が遊びに来ててね。泊まらせてくれているお礼にって、ご飯を作ってくれてる」


 あながち嘘でもない。朝すっかり忘れていて家を出る時に渡された時には感動を覚えたものだ。剣のくせに無駄に女子力高い。弁当は二段重ねで、まだ上しか見てないけど内容としてはお握り、ウインナー、卵焼き、漬物が入ってる。悪くない。悪くないけど……。お握り、きっと超火力圧力釜使ったんだろうなぁ……。


「親戚って、女の子?蓮ってここが地元じゃないよな。親戚だってそうだろ。一体、群馬に何をしに?旅行目的、じゃないよなぁ。怪しいなぁ」


 碧斗よ、お前も探偵か。何も考えてなかった俺も悪いが。


「え。女の子なの?蓮君、一人暮らしでしょ?そういうの、良くないと思う!ズルい!」


 いや、ズルいってなに? 


「うーん。なんというか、彼女は都内で働いていたんだけど、都会の荒波に耐えることが出来なかったんだ。で、ここからなら東京までそこまで遠くないし、家賃の節約がてら、心の休憩をしているという訳。とてもデリケートな問題なんだ」


 もう、嘘。めっちゃ嘘。だけど下手に詮索されるのも面倒だったし、こう言っておけば突っ込まれる恐れもないだろう。我ながらナイスだ。


「あ……。そうなんだ。騒いじゃってごめんね?」


「まぁ、頑張れ」


「モグモグ」


 美紅だけ食べ続けているけど誰も気にしない。通常運転だからだ。


「モグモグ、ゴクン。蓮君、そのお握り、とても美味しそう。私のと交換、しよ?」


「うん、良いよ。このお握りめっちゃ美味いから」


 ナイスだ美紅。俺もウィンナーと漬物を食べながらどうしようかと思っていた所だ。美味いのは本当だし、俺も女子の作ったの弁当が食える。正しくwin-winだろう。


「モグ……!?モグモグ、モグモグ!」


 ちなみに美紅のお握りは鮭握りだった。普通にうまい。


「蓮君……、なにこれ。ただの塩握りなのに、美味し過ぎる……」


「そうなのか?羨ましいぞ蓮!」


「え?美紅ちゃん良いなぁ。私にも頂戴?」


「もう、食べ終わった」


 そうなんですよねぇ。美味いんですよ。作り方さえ気にしなければだけど。良し!そろそろ二段目行ってみるか!何が出るかな、何が出るかな!


「…………」


 嘘やん。


「蓮君、どうしたの?あれ……?さっきと同じ……?」


 同じです。一段目と同じですよ。ウィンナーと卵焼きと漬物。そして、お握り。え?どういう事?ちょっと何起きてるか分からない。


「……緑ちゃん、お握り食べる?」


「うち、お米もう食べ終わっちゃったからなぁ。実はダイエットしてるの。時代はロカボよ」


「俺も同じく」


 碧斗もダイエットしてるの!?


「そっすか……」


 俺は食べる。あ、実はウィンナーも卵焼きも漬物も若干違う。ウィンナーはハーブ入ってるやつだし、卵焼きは甘い、漬物は大根じゃなくてカブだ。……お握りは?


 俺は意を決してお握りを食べる。


 うん。ちょ~~、美味い。だが……。


 これだけ一段目と同じく純度100%の塩握り。いや、なんでやねん。



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