第11話 超火力圧力釜

 トントントン……。


 一人暮らしを初めてから暫く聞いてなかった音に目が覚める。アラームの時間よりまだ少し早いが俺は起きることにする。音の正体が気になったからだ。ロコさんが作ってくれているのだろうか。


 俺は襖を開ける。リビングを確認する。ロコさんは昨日と同じ位置で寝ている。ちょっとヨダレ垂らしてる。可愛い。


 と言うことは……。俺の予想通り、キッチンにはほむほむの姿が。今は浴衣じゃなくて割烹着だ。良く似合っている。いや、お前の方なんかい!


「……おはようございます」


「起こしちゃった?ごめんね。ちゃちゃっと作るから、顔でも洗ってて」


「はい。皆の分も作ろうと思ってたんですけど、先を越されましたね」


「気にしないで。一宿一飯の恩義よ。それに、こういったことは慣れてるから。向こうの世界では料理に使われることも多かったし。切れ味の落ちないただひとつの包丁ってね。加熱も出来るからとても便利だっていつも褒められて、悪い気はしなかったの。そのうち自分でも作るようになった」


 確かに便利なんだろうけど、使われ方として思うところはないのだろうか……。まぁロコさんとしても、料理の度に火遁魔法使うのも疲れるんだろうな。


 俺は顔を洗い、服を着替える。戻ってきた頃には食事の準備も終わっていた。ご飯に味噌汁。焼き魚に漬物。日本の古き良き朝食って感じだ。ちなみにロコさんはまだ寝ている。起きる気配、無し!


「う、うまい。特にご飯。なにこれ。え?マジでどうやったのこれ」


「カッカッカッ!そうでしょ?ご飯が簡単に炊けるというのはロコの知識で知ってたんだけどね。使い方が良く分からなかったし、いつも通り作るのが一番かなって」


「なるほど。土鍋で炊くのが一番的な?」


「違うわよ?」


「違うの?」


「あら、もうご飯無くなりそうじゃない。それじゃ、おかわりがてら実演するね」


 そういうとほむほむはキッチンに向かい、米を一掴み分持って戻ってくる。あれ?ここで作るの?ああ、サラマンダー使えばコンロ無くてもいけるのか。とか思っていたら、おもむろに米を口に含む。


「…………」


 口をゆすぐ要領でぐちゅぐちゅしている。米を研いでいるのだろうか。お、飲み込んだ。


「すぐ出来るから待っててね」


「…………」


 俺は無言で朝食を食べ続ける。良く分からない。何が起きているのか全く分からない。


 そして、その時が来てしまう。


「お茶碗貸して?……う。うっぷ。うえぇぇ」


 ほむほむは先程飲み込んだ米を、茶碗に向けて吐き出す。なるほど。俺の目の前に、これ以上無く完璧に炊き上がったご飯が現れた。


「……」


「出来たわよ?冷めない内にお食べなさい」


「……あの。マジすか」


「ロコの知識で言うところの圧力釜みたいな物かしら。火力も圧力も段違いだけどね」


 フンス!って感じにめっちゃ得意気なほむほむ。ごめん。論点はそこじゃないんだよなぁ。もうさ、口に入れた時点でなんとなく分かってたけどさ?せめて口の中だけで完結させて欲しかったわ。


「食べないの?」


 すっげー悲しそうな顔をするほむほむ。


「…………いえ」


 ええい、ままよ!うん。もう一回食べてるしね……。


「うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!」


「そんな泣きながら食べなくても。照れるじゃない。……ところで、さっきから一体どこを見てるの?」


 もう無心だよね。余計な感情は全て捨て去る。今の俺は、ただご飯を食べる。それだけの存在なのだ。


 ……俺はご飯を食べ終わる。そろそろ学校行かないと。ロコさんはやっぱりまだ寝ている。これは昼まで起きないやつだな。


「じゃあ、学校行ってきます」


「うん。行ってらっしゃい。ロコの事は心配しないで良いから。適当に家事もやっておくね」


 ……なんて出来た女の子なんだろう。ご飯の作り方には若干の難があるものの、なんならロコさんよりもヒロインしてるまである。


 ……まぁ、剣なんだけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る