第10話 ホムラさんは兄貴肌
「ZZZ……」
日が変わり少し経った所でロコさんは寝てしまった。テーブルに突っ伏している状態で寝づらそうだったので、俺は少しだけ持ち上げてから横に寝かせる。買ってきたクッションを枕代りに。朝は冷えるかも知れないからタオルケットを掛けておく。
さてと。俺も寝ようか。明日は少しだけ眠いかもしれない。授業中、頑張って起きていなければ。
俺は寝室への襖に手を掛ける。
「感心感心!据え膳食わねばなんとやらとは言うものの、己の欲を律する事もできぬ男はやはり見苦しいものがあるからのぉ。蓮と言ったか。お主は合格じゃ」
「……!?」
声に驚き、俺は振り返る。彼女は先程と同じまま。それではこの声の主は……?
「こっちじゃよ。ふぅ……。世界が違うと勝手が違うのぉ。ようやく人型になれたわい。少々体が小さいがのぅ」
声のする方を見る。リビングの隅に、赤黒い長髪のポニーテールが目立つ、浴衣の女の子が座っていた。
「……君はその、トランスフォーム魔法的な何か?」
まずいな。早くもロコさんのネーミングセンスに毒されてるぞ……。それはさておき、俺がそう思った理由は単純だ。彼女がいる場所にあったロコさんの剣、炎龍獄剣ホムラが消えている。
「まぁ、大体合っとるのぉ。ロコの魔法と言うよりは、最初からそういう存在じゃがの。いわゆる剣という概念そのものじゃ」
「……」
ごめん。それ、この世界では全然一般論じゃない。
「ふむ。少し難しいかの。じゃあ九十九神で。九十九神のオーバーソウルってことで」
「……なるほど。とても分かりやすいです」
急に喋り方フランクになったし、何でシャーマンキングなのかは良く分からないけど。
「あ。あと、あたしのことはほむほむって呼んでね」
「……あ、はい」
いや、さっきからこの人の知識はどこから来てるんだろう……。
「うん。当然の疑問だよね。あたしが剣として力を振るう時は使用者と一体化するの。その時に記憶だったりの情報を共有する。そうすることで剣としての力を最大限に引き上げると共に、固有魔法を使う際のエネルギーになったりもする。ギブアンドテイクなの。あたしは力を貸す代りに、ロコの楽しい思い出を見せてもらっている。便利でしょ?MP無しでサラマンダーを使えるのは、世界広しと言えどあたしだけよ」
ほえー。なんかそれっぽい説明が出てきた。おかげで疑問も解消された。それは有り難いんだけど、サラっと俺の心を読まないで?
「えっと、あの、まだお話があるのかも知れないですけど、今日の所は勘弁してもらえませんか?明日も学校なんです」
「真面目ねぇ。もちろん構わないよ。今日はただ、蓮に感謝したかっただけだから。ロコじゃないけど、この世界で最初に会ったのがあなたで良かった。これからも優しくしてやって欲しいの。残念ながら向こうの世界では、あまり良い事がなかったから」
全力で商人が騙してくるくらいだからね。治安が良いわけでもないだろう。それに彼女は美人だ。面倒事が多かったであろうことは想像に難くない。
「……出来る範囲で頑張ります」
少なくとも当面はそうするつもりでいる。まぁ魔法とか見ていて飽きないしロコさんも可愛いし。あとロコさんが可愛い。
「うん!……そうだ。一つだけ忠告があるの。別にロコとまぐわうのは構わないけど、その場合は覚悟を決めてね。もしロコを泣かせるような事があったら、あなたの立派な一物が股の下から消えるから」
周囲の空気が、重くなる。
と見せ掛けて見た目が見た目なのでそうでもない。ビジュアルって大事だよね。……いやいや、この子にも見られてたの?完全に事案じゃん。
「大丈夫ですよ。童貞だからやり方が分かりません」
Q.E.D.証明終了っと。自分で言ってて虚しいけど……。よし。寝よう。っていうかこの子攻撃的で怖いんですけど。初めて会った時にロコさんが脅してきたのもこの子の入れ知恵っぽいな。
「カッカッカッカッカ!面白い言い訳だね!それじゃ、あたしも剣に戻るよ。この世界はマナが少なくて疲れる。満月の夜に、また会おうか!」
……今日は満月じゃないしマニアック過ぎて誰も分からないと思うんだよねぇ。
「はーい。おやすみなさーい」
ポムッ!とかいってほむほむは剣に戻った。
……今日は色々あったな。ぐっすり寝れそうだ。ああ、そうだ。明日は二人、いや三人分の朝御飯を作らないとだから、少し早く起きないと……。剣って何食べるんだろ……。
そんな下らない事を考えながら、俺は眠りに落ちた。
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