第8話 魔法の錬金術師
前回までのあらすじ。ロコさんはお風呂中、急に出てきた水にビックリしてシャワー周りを破壊。なんやかんや魔法で直すらしい。
「蓮君、それじゃあ今からシャワー直すから!凄いんだから!」
そう言うと彼女は、神に祈るように合掌した。
パァン!
それから膝を折り、両手をお風呂場の床に付ける。
「……ちょっと待ってください」
「んもう!良い所なのに!一体どうしたの?」
もはや毎度のことになりつつあるんだけどね。めっちゃ見たことある。
「……あの、その魔法、何て言うんですか」
「等価交換魔法っていうの。私のオリジナルよ?」
ほらねー!いや、絶対オリジナルじゃないじゃん。錬金術じゃん。
「じゃあ気を取り直して……。一は全!全は一!」
完全に確信犯じゃん。おまけに多分だけど意味分からずに言ってるよね。俺も良く分かってないけど。
彼女は再び、神に祈るように以下略。するとお風呂場の隅に片付けていたシャワー部品の断片がグニグニと動き出し、破損部に向けて進行を始める。やがて全ての破片は一つとなり、元と全く同じシャワーに復元された。なんなら新品状態でピカピカ。得した気分である。天晴れだ。…………。うん。
「なんか、思ってたのと違う……」
ショボ……。もっとこう、バチバチ火花が散る的なさ。あるじゃん?
「んもう!蓮君、我儘なんだから!あのね、カッコいいエフェクトを出すには、一杯魔力使うんだから!」
既に無駄遣いしてるからね。しょうがないね。
俺は元栓を開けに行き、一応シャワーが直ったことを確認する。良かった。ちゃんと直ってる。冷静に考えるとえげつないな。
「あ。ちなみにね、余談だけど瞬間移動もこの魔法の応用なの。自分の体をね、目標地点に再構築するの」
「人体錬成有りなの!?」
こわっ!!今の自分が今までの自分と同一かとか、色々考えちゃうんですけど!?全部持ってかれちゃうよ!?
「心配しないで!あなたは死なないわ!私が守るもの!」
「……」
いやそれ、そんな元気一杯に言う台詞じゃないし。というかロコさんが犯人だし。
まぁ悩んでも仕方ないので俺はお風呂に入る事にする。心無しかシャワーの勢いが直る前よりも強い。このマンションもそれなりの築年数だから、詰まりが生じてたのかもしれない。それにしても。
「ふぅーーーーーーー」
俺は少しだけ先の事を考える。これから彼女との生活が始まる。それが例えば一ヶ月とか、長くても一年とか、それくらいなら別に何の問題もない。彼女の記憶がもし戻らなかったら?戸籍とかどうするんだろう。身分証明も出来ない。履歴書も書けない。それはとても不自由な事に思える。きっと彼女がこの場所に戻ってきたのは意味があることで、普通に考えたら元々この周辺に住んでいたのだ。だから、休日に彼女と外をぶらつけば案外知人が見つけてくれるかもしれない。群馬は田舎で車社会だ。人が集まる所は多くない。それとも手掛かりを探すべきか?彼女の親が警察に届け出をしていれば、行方不明者のリストみたいな物を調べれば簡単に見つかるかもしれない。うん。悪くない。
「それでもなぁ……」
それでもだ。彼女が異世界で過ごした空白は埋まらない。今から高校に通ったり大学に進学しても、その先に道はあるのだろうか。あの魔法を使って上手いこと働けるのか?いや、アレはバレたら不味いだろうなぁ。誰かに利用されたり、最悪命を狙われるなんて事もあるかもしれない。
俺は風呂から上がる。考え事をしていたせいか、いつもの癖で全裸でリビングへ。
全裸でリビングへ。
「あ、蓮君、やっと上がった、のね……?」
ロコさんと目が合う。彼女の視線はすぐに下に向かう。
「……あ」
俺は自分のミスに気付く。っべー。まじやっべー。
「…………」
「…………」
「きゃー。ロコ太さんのエッチー」
「え!?私なの!?」
俺は回れ右して脱衣所に逃げ出す。
危ない危ない。何とか凌げたぜ。
うん。全然凌げてないし、どんな顔してリビングに行けば良いか分からないんですけど……。誰か助けて?
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