第5話 女勇者は料理が得意

「お買い物も終わったことだし、帰ってご飯作らないと!」


「ですね。それにしても買い過ぎましたね。マンションから近いとはいえ、ちょっと重いです」


 そうなのだ。食材もそうだが、衣類も買ったので中々に重い。自転車で来れば良かった。ちょっと後悔。え?勿論、荷物は俺が持ってますよ?レディファースト的なね。


「蓮君、私に任せて!」


「いえ、流石にここは男の俺が持ちますよ」


「ううん!そうじゃなくてね、私、瞬間移動使えるから!」


 ……マジで?


「勇者にとっては必須技術なの。ほら、前の町でしか買えないアイテムとか、後で鍵が手に入った時にね、いちいち引き返すの大変でしょ?」


 鑑定の時と言い、めっちゃユーザーフレンドリーな世界だな……。分かるけども。それが出来ないRPGって正直ダルいもん。


「分かりました。一応、人目の付かない所でやりましょうか」


「うんうん!」


 少しだけ歩く。人気のない場所に来た所で、ロコさんは俺の右肩に触れる。で、右手の中指と人差し指を自分の額に当てる。え?瞬間移動ってそういう感じ?ドラゴンボール仕様?


「バイバイ、みんな……」


 何が!?もしかしてそれが呪文なの!?


 ビッ!


「…………!」


 気付けば自分の部屋にいた。素直に凄い。特に玄関に着地している所が良い。土足禁止だからね。


「ちなみに超スピードで誤魔化した訳じゃないからね」


「ベジータじゃないんだから……」


 もしそうなら俺死んでるし、鍵開けてないのに部屋にいるからね。それにしても凄い。


 俺達はキッチンに進む。夕御飯のために必要な食材だけロコさんに分けてもらって、残りは冷蔵庫にしまう。料理の事は彼女に任せて俺は今日買った衣類の洗濯に入る。買ったまま着るのってなんか嫌じゃん?ちなみにうちの洗濯機には乾燥機能もついてるから、この量だったら三時間もあれば乾くだろう。

 あ。そうだ。彼女に調味料の場所とか教えないと。


「ロコさん、何か分からないことあったら……」


「あ。蓮君、そろそろできるからね!」


 うん、早過ぎるし、俺の知ってる調理風景となんか違う……。


 俺の目の前で起きている光景。スーパーで買ったブロック肉と野菜とが彼女の手のひらの上で切り刻まれながら、球状の火炎の中で高速回転してる……。異世界の猫コック絶対そんな作り方してないだろ……。うん?これどこかで見たことあるぞ。あ、分かった。螺旋丸だ。もはや魔法ですらないじゃん。


「……あの、それも魔法なんですか?」


「そうだよ?火遁魔法っていうの」


「忍術なのか魔法なのかどっちなんですかね……」


 出来上がったのか、彼女はお皿の上でその術?を解いて盛り付ける。油多め、高い火力でさっと火を通したそれは食欲をそそる。普通に美味しそうな中華風野菜炒めの完成だ。


「隠し味に水龍の卵巣の塩漬けを振り掛けて、っと」


 四次元ポケット魔法で取り出したと思われる小瓶からなにやら振り掛けている。さらっと言ってるけど水龍の卵巣ってなに?


「カラスミ的な感じですか?」


「私、カラスミって食べたことないから分からないけど、ウェイパーみたいな感じかな?水龍って凄いんだよ?経験値いっぱい入るし、牙や鱗は装備の素材にもなるの。肉も美味しくてね。一頭狩れば村の皆が半年は暮らしに困らない。それはもう、お祭り騒ぎなの!」


 なんかめっちゃ楽しそう……。ロコさん、お前さては陽キャだな?


「さて、おあがりよ!」


 いや、誰やねん。だがしかし……。


 ……ゴクリ。俺はテーブルの上に置かれた野菜炒めを前に、思わず唾を飲む。箸で一掴み。口に運ぶ。咀嚼する。ん?あれ?さっきまで噛んでた筈なのに、どこに行った?俺は思わずロコさんを見る。魔法を疑ったのだ。彼女はただニコニコ笑っている。いや、見方を変えればニヤニヤ笑っているようにも……。だがそんな事をして一体何の意味が?

 迷うな。食べれば分かる。俺は再び料理を口に運ぶ。咀嚼する。……また消えた。彼女を見る。やっぱりニコニコ笑っている。クソッ!さっきから何なのだ!俺は食べる!消える!食べる!消える!食べる!消える!うわぁぁぁぁぁあああああああ!


「……ご馳走さまです。こんなに美味しい野菜炒めを食べたのは、生まれて初めてです」


 気付けば俺は涙を流しながら、彼女に感謝の意を述べていた。何故か上半身が裸になってた。


「御粗末!」


 スッゲー凛々しい顔で台詞を決めるロコさん。


 いや、だから誰やねん。



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