第2話 チャーム
「……え。蓮君、一人暮らしなの?高校生でしょ?今はそれが普通なの?」
仕方なく連れ帰っての第一声がそれ。ちなみにここに来るまでの間に最低限の自己紹介は済ませている。と言っても殆どは俺側の説明で彼女の事は分からなかった。どうやら異世界に行く前の日本での事は覚えていないらしい。困ったのは名前まで分からない事だ。向こうにいた時には「ロコ・ロエンディ」と呼ばれていたそうなので俺もそう呼ぶ事にした。
「いや、あまり普通じゃないですね。家庭の事情って奴です。別に家族仲が悪いとかじゃないんですけど。むしろ両親が仲良すぎるがゆえに生じている状況です」
親の転勤で家族が離れる事になるとして、普通は父親が単身赴任するよな。母がそれを嫌がったのだ。かといって転勤のタイミングが悪くて、今さら俺の高校変えるのもしんどかった。折角良い進学校に入ったのに勿体ない。それに、どうせ大学に入ったら一人暮らしなのだから、それが三年早まっただけだと考えれば大した話じゃない。
「でも、逆に良かったんじゃないですかね。そうでなければ、結局は警察行きだったと思います。さ、入ってください。まずはその目立つ鎧をなんとかしないと」
それからさっさとスーパーに行きたい。
「……お邪魔しまーす」
先行する俺の後に付いて、恐る恐る部屋に入ってくるロコさん。
「何をそんなに警戒してるんですか?」
「いや、あのね、私、男の子の部屋に入るの初めてだし。トラップとかね、何が起きるか分からないでしょう?」
ダンジョンかな?そんなもんないし魔王倒した勇者が今さら何を恐れてるのか……。とりあえず彼女をリビングに座らせる。俺は適当に服を探す。と言っても勿論女物の衣服などない。うーん。面倒だしジャージで良いかな。
「ロコさん、勇者なんでしょう?魔王倒してるくらいだし、身に危険が及ぶことはまずないんじゃ……」
「……鎧」
「え?」
「鎧、脱ぐんでしょう?」
「……ええ、まぁ。邪魔でしょう?」
「私、鎧脱いだら防御力89しかないの。状態異常も防げないし、HPも回復出来ない……」
やっぱりその鎧、そういう効果付いてるんだ……。防御力89がどれくらいなのか良く分からないけど。
「いや……。でもほら、魔法使えるじゃないですか。仮に俺に襲われても簡単に撃退出来るでしょう?」
「……炎龍獄剣、ホムラ」
「……なんて?」
「炎龍獄剣ホムラ、装備外すんでしょう?」
装備外すってなんやねん。っていうか名前ゴツいな!
「……ええ、まぁ。銃刀法違反ですし」
「私、ホムラがなかったら攻撃力107しかないの。サラマンダーも使えない……」
「……えっと。わざわざ言わなければ良かったんじゃ……」
「あ……」
「……えっと、じゃあこれ、着替えです。下着は流石にないので、この後スーパーに買いに行きましょう。着替えたら呼んでください。隣の部屋にいますから」
色々突っ込みたい所もあるけど、まずは外出できるようにならなければ始まらない。ちなみにこのアパートは1LDKなのでリビングの他に寝室があるのだ。親の財力に感謝です。
……ふぅ。なんか疲れたな。スーパーに買い出しに行く必要はあるけど、二人分作るのも考えるのもキツい。そうだ、回転寿司に行こう。なぁにお金ならある。バイトも始めた所だし、例によって親からの仕送りも無駄に多い。
「蓮くーん。着替え終わったよ!」
よし。じゃあ行くか。俺はリビングに戻る。そしてジャージに着替え終わった彼女を見る。しばし硬直。
「……」
「蓮君?どうしたの?」
さっきまで鎧や兜だったからね。彼女のスタイルとか良く分からなかったんだけど。
黒くて艶のある長髪。可愛らしい童顔。……に似つかわしくない我儘ばでい。
情けないことに、男子高校生である所の俺は、一発で魅了に掛かってしまいました。
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