異世界帰りの年上彼女

てんこ

第1話 その年でコスプレとかキツいっす

 俺の名前は神楽蓮。学校から帰ってきて冷蔵庫開けたら食材が切れている事に気が付いた。親の仕事の都合で高校生にして一人暮らしをしているのだけど、家事って面倒だよね。家政婦欲しい。

 仕方ないのでスーパーに買い出しに行くことにする。目的地は住んでいるアパートから徒歩10分程度の所に有る。季節は初夏。心地の良い風が吹いているので歩くことにする。

 団地を抜けて閑静な住宅街に差し掛かったところで目の前におかしな光景が。時期的にまだ日は落ちていないが、一瞬何か光ったような。そして、先程まで誰も居なかった筈の通りに現れる人影。

 ……気のせい?まぁ良いか。早くスーパーに行こう。お腹すいたし。


 俺は進む。人影に近付いた事で正体が分かる。女性だ。背は高くも低くもない。童顔なので年齢は良く分からないが、学生という感じではない。特におかしな事も……、ある。

 服装がね。なんというか、RPGのラスボス直前の装備的な?状態異常無視とかHP自動回復とか付いてそうな感じ。意味分からん?俺も俺も。いや、なんかうっすら光ってるのよ。加護的な?

 あ。剣も持ってるわ。すっげ。刀身が赤黒くて、重量感が……。服装といい、ガチり過ぎでは無かろうか。その年でコスプレはちょっと……。


 とか思いながらも普通に通り過ぎようとした俺にお声が掛かる。


「あ、あの!すみません、今は西暦何年でしょうか?」


 えー。その服装で未来人設定?文明が滅びた世界から来たの?滅びたのにどうやって来んねん。……明らかに怪しいし出来れば話したくはないけど、困ってそうだし仕方ない。


「2021年です。ちなみにここは群馬県高崎市。大丈夫ですか?コミケ帰りに記憶喪失とか?」


「2021年……。そう、そんなに経っていたのね……」


 タイムトラベラー継続中。というか小ボケスルーしないで?


「良く分かりませんが、とりあえず親とか友達に連絡して迎えに来てもらった方が良いですよ。その格好、かなり目立つので、警察に職質されるかもしれません」


「……ぐす」


 コスプレ女は泣き始めた!何でやねん。早くスーパーに行きたい。


「あのね。信じられないだろうけど私、勇者やってたの。ちゃんと魔王は倒したんだけどね。この世界に帰ってくるときにね、ちょっと記憶が曖昧になってる部分があるというか……」


 ええ……。マジでヤバい奴じゃん……。アル中かドラッグか?これは関わってはいけないやつだ。そろそろお暇しよう。


「なるほど。きっとそのうち思い出せますよ。とりあえず警察はこの通りを暫く歩けば右手側に見えてきますから。そこに助けを求めたら良いと思います。それでは」


 ふぅ……。危なかった。リアル変質者に初めて会った。顔が可愛いのが逆にガチッぽいというか、関わったら録な事にならなさそう。知らない大人に付いていってはいけないのだ。


「……待って」


 俺は逃げることが出来なかった。もう一度逃げるコマンドを押したい。だが周りに人はいない。下手に刺激しない方が良いだろう。


「警察は嫌よ。記憶が戻るまでの少しの間で良いから、助けて欲しいの」


 ……助けてくれと言われたら、まぁ助けるわな。嫌だけど。俺は少しだけ悩む素振りを見せてから、目の前の女性に合意の言葉を投げ掛けようとした。のだが。


「……ぐす。本当はこんな事したくないのよ。でも聞いてくれないなら、こうするしか……」


 なんかブツブツ言ってる。うん?悠久の時を越えし?火霊の舞をここに顕現する?


「……サラマンダー」


 と同時に、俺と彼女の間に火柱が出現する。直径は5m程で道幅ギリギリ。地面から天空に向けて火炎が立ち上がりすぐに消える。いや、消したのか? 


「い、今のは……」


「今のはメラよ」


「サラマンダーじゃないんかい!」


 ボケをかます余裕があるなら助けは必要ないんじゃ……。でも、信じられないが勇者であるという話が嘘でないことは否応にも理解できた。


「ね?そういうことだから、お願いっ!」


 どういう事?断ったらまる焦げにされるの?


「……はい」


 こうして俺は、野良女勇者を拾うのであった。


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