終わり\(^o^)/
「くけけ。いい様だぜ。聖女様よぉ」
ゴブリンが下卑た笑みを私に向ける。私はキッと奴を睨みつける。私にこんなことをしてタダでは済まさない。
「おお、怖い怖い」
ゴブリンは私の顔を足蹴にしてきた。泥だらけの靴が私の頬にこびりつく。
「汚い足をどけろ。下郎が」
「あぁ? んだとこら! 誰の! 足が! 汚いって!」
ゴブリンは私の顔面を執拗に蹴ってきた。痛い。とても痛い。口の中に鉄の匂いが広がる。ああ、口の中が切れたのかもしれない。
「げほ」
私は血が混じった涎を地面へと吐き捨てた。
「へ、きたねえ女だな」
民衆が私をあざ笑う。許せない。私が今まで誰のために命がけで戦ってきたと思っているんだ。私だって、常に命の危機に晒されて、必死に戦ってきた。それが、少し私に虐められたからって、私を悪者扱いして……許せない。人間を滅ぼしてやる。
「あ! 魔王様だ! おおお! 魔王様あああ!」
魔族と民衆が歓声をあげる。私の視界に入ってきたのは、銀髪で耳が尖っている黒マントの美青年だ。ハッキリ言って私のタイプだ。もし、私が万全な状態だったら手籠めにしていたかもしれない。
「こいつが聖女か」
「はい。魔王様。この聖女をどうしますか?」
「俺様の側室にする」
「は?」
「聞こえなかったのか? この女を側室にする。だから、解放しろ」
え? なに言ってるのこの人。私を側室にするだって、冗談じゃない。なんで私が魔族のハーレム要員にならなければならないのだ。
「いえ、しかし魔王様」
「それと……」
シャキンと鋭い音が聞こえた。そして、血飛沫が私の額に付着する。一体なにが起きたのか理解できなかった。
「へ?」
私の近くにゴブリンの首が転がってきた。頭が取れたゴブリンの首から下はドサっと地面に倒れる。
「俺様の女を傷つけた報いだ」
次の瞬間「イヤアー」と観衆が叫んだ。急な魔王の殺戮ショーに観衆は完全にビビってしまっている。慌てふためき逃げ惑う観衆。こいつら。相手は魔王だぞ。魔族の長たる奴が外道じゃないわけがない。仲間の首を平然と刈ることはするだろう。それを魔王が聖女を倒してくれる救世主扱いして。崇める対象が間違ってるっての。
魔王は私の近くに来て、私を縛り付けている道具をカチャカチャと動かして外してくれた。
「ありがとう」
一応相手が魔王でもお礼は言う。私は躾がよく行き届いた聖女なのだ。
「面白い女だ。魔力量が桁違いだ。どの人間、どの魔族よりも多い魔力量を持っている。正に俺様の子孫を宿すのに相応しい」
パチーンと渇いた音が響き渡る。私が魔王の頬をガチビンタしたのだ。魔王は一瞬なにが起きたのか理解できないと言った顔をする。だが、すぐに状況を飲み込んだのか私を睨みつける。
「貴様。なにをする」
「セクハラ」
「あ、それはごめん」
魔王は素直に謝った。最近はコンプライアンスとか色々煩いのである。女性は生む機械だのなんだの言ってはいけない。そんな発言をしたら、いくら魔王でも更迭は免れないだろう。
「まあ、でも面白い話ではありますね。最強の魔族の魔王様と、最強の人類である聖女の私。その子供が一体どこまで強くなるのか。興味あります」
「俺様とお前のガキだ。とんでもない悪党に育つだろうよ」
それは楽しみだ。私は、私を裏切った人類に復讐がしたい。親子3人で人類を制圧するというのも面白そうだ。
私は魔王と共にニヤリと笑い、彼と共に生きていくことを誓った。最強で最悪の外道の子供がどんな存在になるのか。今から楽しみだ。
◇
「あんぎゃー。おんぎゃー」
「はぁーい。いないいないばー」
魔王が私たちの赤ちゃんを必死であやしている。すっかりいいパパになったものだ。初めて息子を抱っこした時は、不安げな表情で「お、おい。こんな柔らかい生き物抱いたら壊れちゃわないか?」とか言っていたのに。
「はーい。ミルクの時間だよ」
私は息子にミルクをあげた。凄い勢いで哺乳瓶のミルクを吸う。こんなにいっぱい飲んだら早く大きくなるだろう。
魔王め。子供が生まれたら丸くなりおって。全く、魔族の長たるものがなんという腑抜けに。だけど、そんな彼が愛おしい。
私も人のこと言えないか。息子が生まれた後は、召使いにも優しくなってしまった。以前は、埃が1つでも落ちていようものなら、鞭で折檻していたというのに。
外道2人を変えてしまったこの赤ん坊は凄い。子供がこんなに可愛いものだなんて思いもしなかった。私は過去に外道な行いをしてきた人に謝りたい。彼らにもこんな子供のような時代があり、こんな天使みたいな子供を生み育てる存在だったのだ。決して軽視してはいけないものだったんだ。
そんなこんなで私たちは、親子3人で幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
この聖女が外道すぎるんですけど 下垣 @vasita
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