得体のしれない飲み物には注意しよう(´・ω・`)

 折角のパンを見ず知らずの少年に与えた心優しき聖女の私。夕食時になったので領主様の用いしたディナーを食べようと思う。


 領主様の館はとても綺麗で、なんかよくわからない磨かれた白い石が床に敷き詰められている。


 食卓に座るとメイドが私の傍に近寄ってきた。そして、私の眼前に香辛料を使った料理が提供してくれた。食べる前から独特の匂いが鼻孔をくすぐる。なんだか虫除け香水の匂いに似ているな。


「ささ。ポーラ様。どうぞお召し上がりください」


「では、いただきます」


 私はスープを飲み、ナイフとフォークで肉を切り分け口に運ぶ。まあまあ、美味しい。そこそこですね。


「さて、ポーラ様。貴女様をお呼びしたのは他でもない。私が所有する鉱山にモンスターが出現したのです。それの討伐を貴女にお願いしたいのです」


「ふふ。わかりましたわ。領主様。ただ、私の噂、領主様も知っているでしょ?」


「ええ……貴女はモンスターの討伐に依頼すると莫大な報酬を要求される。要求が果たされなければ、どんな目に遭わされるかわからない」


「あらら。大袈裟ですね。ただ一例をあげるとすると、報酬が払えなかった村の、村長の一人娘の婚約者を寝取らせて頂きました。彼はいい男でしたわね。今でも私のハーレムにいます。若くていい男も用意すらできない村を焼き払ったりもしました。それと、村最強の男気溢れる戦士に女装させて可愛がったりもしましたね。彼の穴という穴を――」


「おっと、その話はまた別の機会にお聞きしましょう」


「ふふふ。領主様は私好みのいい男ですから、報酬を渋られた時が楽しみですね」


 私は領主様に向かってニッコリと笑った。領主様は唾をゴクリと飲み込んで青い顔をしている。ああ、いい気分。私の提示する報酬次第では、領主様をいいように出来るんだ。楽しみだなあ。


「ポーラ様。それで報酬のお話なんですが……」


「おっと。私は仕事前には報酬の取り決めはしない主義なんです。その仕事がどれだけ大変か経験してみないとわからないですからね。私が苦労したらした分だけ搾り取れるように事前に報酬額は決めないのです。それを了承しなければ、依頼は引き受けられませんね」


「うぐ……わかった。それで構いません」


 このせいで報酬を払えなくて詰んでしまう依頼主が多いんですけどね。


「領主様。ここに男性の召使いはいませんの?」


「ええ。うちの召使いは全てメイドです」


「なーんだ。つまんない。じゃあ女でいいや。私のサンドバッグにしてもいいメイドがいたらよろしく。どの組織にもいるでしょ? 役に立たない無能で不出来な奴。そいつでいいから、夜中私の寝室に向かわせて」


 性欲が満たせないなら、暴力で心を満たすしかない。溜まった鬱憤を股間で晴らすか、拳で晴らすかの違いでしかない。


「わ、わかりました。後で手配しましょう」


「よろしくー」


 メイドが私の目の前に紅茶を給仕した。私はそれを何の疑いもなく飲んだ。すると私の視界がぐるぐると変化していき、目が回ってきた。


「こ、これは……き、貴様! 盛ったな!」


「ははは。残念だったな聖女様よぉ! アンタを恨んでいる人間なんてゴマンといる。アンタの首には多額の懸賞金がかかっているんだよ」


 領主様……いや、領主のクソ野郎が勝ち誇った顔で私を見てきた。くそ……あいつ、いつか殺す。


 ああ、ダメだ。眠くなってきた。体が重くて動かない。私、なにされちゃうんだろう。無理矢理やるのは好きだけど、やられるのは嫌だなあ……



 ピタ……ピタ……という水音で私は目を覚ました。私が起き上がると、床と壁がゴツゴツとした岩肌の場所だった。明かりは私の目前にある松明だけ。そして、私の目前には鉄格子がかけられていた。


「な、ここはどこ! 私にこんなことしてただで済むと思ってるの!」


 私は鉄格子を掴みガチャガチャを揺らした。すると私の体がビリビリと痺れた。


「あぎゃああ!」


 私はその場にうずくまってしまった。な、なにこの電流。


「やっと目を覚ましたか」


 鉄格子越しに現れたのは、土気色した肌の人型モンスター、ゴブリンだった。ゴブリンは私の目の前で鍵束をジャラジャラと鳴らして、見せつける。


「私をどうするつもりなの?」


「さあな。それは民衆が決めることだ」


「民衆?」


「ああ。貴様は明日、刑が執行される。執行人は貴様に恨みを抱いている人物。心当たりがあるだろ? 彼らが貴様の体を好きに蹂躙じゅうりんする。いわゆる私刑リンチだ。それが魔王様が貴様に下した刑だ」


「はん……私は聖女なのよ。クソザコ人間の攻撃なんか効くわけないじゃない。それにこんな牢屋だってすぐに抜け出して見せるんだから」


 私は魔法を使って鉄格子を破壊しようとした。しかし、どれだけ魔力を練り上げても魔法は出なかった。


「んな!」


「諦めろ。貴様は既に魔王様によって魔力を封印されている。魔力のない貴様など、人間のメスと変わらない。腕力も耐久力もないし、魔法も使えない」


「そ、そんな……」


「民衆に裁かれるのを覚悟しろ」


「そ、そんな! 私を殺したら人類は終わりなのに! だって、魔族に対抗できる力を持つ唯一の聖女の私が死んだら……」


「残念だったな。魔族と人間の戦争はもう終わったんだ。人間側が聖女を差し出す代わりに同盟を結ぼうと提案してきた。我らが魔王様はそれを受け入れた。聖女さえいなければ、人間など恐れるに足らん。対抗手段を持たない人間となら良き隣人関係を結べる。魔王様はそうおっしゃられた。全く甘いお方だ。人間など皆殺しにすればいいのに」


 チクショウ! 裏切ったな人類め! 善良な聖女である私が何をしたって言うんだ!


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