第141話 謀反
謀反という言葉にその場にいる誰もが動かず、じっと王の動向を見ていた。
「陛下。すぐに作戦会議を開きます。司令部までご足労を願います」
「うむ。ロスティ君、済まないが……いや、ダメだな。ロスティ君も司令部まで来てもらおう」
……一瞬判断に迷った。
将軍の焦り様は、間違いなく大事だ。
謀反は一歩間違えれば、国家が転覆してしまう騒ぎとなる。
また、王が判断を違えれば、民の信頼を失い、謀反が繰り返される結果になるということもある。
そして、王が命令したことを安易に受ければ、僕達の人生に大きな影響を与えかねない。
僕だけならともかく、ミーチャも巻き込むとなると……
「行きましょう。私にとっては、さほど愛着のある国ではないけど、放ってはおけないわ。この国を滅ぼすのは、ロスティが建国した国と決まっているだから」
……なんか、物騒なことを言っているが……
それはともかく、ミーチャの言うとおりかもしれない。
放ってはおけない。
「分かりました。行きます。ただ、ティーサは置いていっても?」
「ダメよ。ティーサはいろいろと残念だけど、何かに使えるかもしれないわ。頭だけはいい子だから」
褒めているのか貶しているのか……
「ミーチャ様。人前で……そんなに褒めないで下さいよ。照れます」
本当に頭が良いのか?
いや、そんなことを思ってはダメだな。
「話はついたか? とにかく急ぐんだ」
司令室は王宮の地下に用意されていた。
いざとなれば、王の隠れ場所となるところだ。
堅牢な壁に覆われていて、どんな攻撃を受けても影響がなさそうなほどだ。
そこには、大臣と思われる爺さんたちと将軍然とした者が数人。
そして、兵士が忙しそうに動いていた。
そんな中で部外者である僕達三人が大きな注目を浴びることになる。
しかも、横には王だ。
一応は無視される形で話が進む。
話は聞いても良いのかな?
席が用意されたから問題はなさそうだ。
「陛下。状況の説明をさせていただきます」
暴動が起きたのが数日前。
各地で同時に起きるように発生した。
街や村を襲撃し始め、武器となる物や食料の略奪を繰り返している。
今のところ、住民への被害は報告されていないらしいが、暴動は拡大の一途を辿っているため、住民に大きな被害が出るのは時間の問題と見ているらしい。
「同時多発的にか……各領主達の動きは?」
「はっ!! 今のところ、動きを見せている領主はおりません。暴動発生より時間が経っていないので、準備に手間取っているのでしょう」
基本的に領主に自治権が認められる。
そのため、暴動が起きた場合、その領主が一次的に対処をしなければならない。
そして対処が難しい場合、国軍の出動を要請するというのが流れだ。
もちろん、国軍の出動は領主の要請がなくても王の判断に行うことが出来る。
「領主で対応できそうか?」
「申し訳ありません!! 情報が未だに錯綜している状態で、判断するだけのものは揃っていないのが現状です」
王宮の人手不足が嫌な方向に動いているようだ。
実は王宮の掃除をした際に、国軍でも大きな変化があった。
当然と言えば、当然の話だ。
国軍は王の直轄軍だ。
基本的に直轄領より集められた兵士によって構成されている。
しかし、各地に分散しているため、直轄領の兵士だけでは十分な軍隊を形成できない。
そのため、大都市を抱える公爵家などの大貴族から兵士を借りている。
その借りている兵士たちが国軍から消えてしまったのだ。
それは領主の王宮からの失脚が原因だ。
商業ギルド・教会派の大貴族達が一掃され、国軍の兵数は大きく減らすことになる。
「ふむ。最悪な状況ということか。各地に展開している国軍はどうなっている」
「はっ!! 只今、暴動に備えるために待機状態とさせております。出動はすぐに可能です」
さすがは王国軍だ。
どんな状況でも取り乱さないようだ。
とはいえ、暴動が各地で起きていることは解せないが……謀反とは?
謀反って、普通は家臣が裏切り、主人に対して刃を向けることを指す。
暴動は民が国や領主に対して不満を爆発させて、行動に移した場合を指す。
「そうか……今は情報収集を徹底させろ。近衛隊はいるか!?」
「ここに」
おお。どこから現れたんだ?
さっきまでいなかったような……いや、いたかな?
存在がほとんど消されていたようだ。
「守備は万端か?」
「もちろんでございます。この部屋にいる者は護衛できます」
この部屋?
僕達も、ってことかな?
「そこの二人は不要だ。S級冒険者だからな。彼らには私の護衛をしてもらう。もう一人は……任せる」
「承知しました」
近衛隊……不思議な組織のようだ。
「皆のもの。どうも、この各地で起きている暴動は今まで経験したことがないものとなりそうだ。後ろで糸を引いているものがいるのは間違いない。これほど用意周到に行われているのだからな。おそらく、王宮の掃除が大きく関わっていると思っている」
つまり、首謀者は商業ギルド・教会派の貴族ということか。
追放された恨みを暴動という形にしたということか。
ふむ……謀反だな。
しかも、大貴族が関わっているかもしれないということになれば、厄介だ。
準備が前々からされており、王国が後手に回っている状態だ。
この状態を覆すことはかなり難しい。
この場合の定石は……とにかく、相手を巨大にしないことだ。
各地で起きている暴動の規模は今のところ不明だ。
小さいかもしれないし、大きいかもしれない。
しかし、火事と一緒で時間が経てば各々は大きく広がっていく。
しかも、隣同士で繋がる可能性もある。
そのため、初期に手を下すのが一番だ。
だが、国軍の人数は限られている。
どこから先に手を出すのか……
「将軍!! 国軍を速やかに王都に参集させろ!!」
「全軍ですか!?」
王の判断は王都守護だった。
「大臣。速やかに全ての貴族に書状を送れ。王家に味方する者は国境を封鎖しろ、と。とにかく、暴動を領地に入れるな、と」
暴動に加担をしている領主は暴動を大きくし、王家の弱体化を目的としているはずだ。
その隙に復権を図りたいと思っているはず。
敵味方が入り交じる王国内では、暴動の行動を制限することが今は良い手かもしれない。
しかも、この書状が届いてからの領主の行動で敵味方がある程度判断することが出来る。
それにしても全軍を王都に集めるとは……
「皆のもの。とにかく王都が無事であれば、なんとかなる。各々の奮闘を期待しているぞ」
とりあえずは司令室での会議は終わった。
大臣達が慌てた様子で部屋を出ていった。
「ロスティ君。どうやら、大変なことになってしまったね」
……なんで、ここで他人事みたいなことを。
「大丈夫なんですか? 各個撃破をしようと思えば、出来たのでは?」
「ほお。その手があったか。さすがはロスティ君だ。だけどね……どうも、戦をする気が起きなくてね。王都守護……それが今は最善だと思うんだよ」
戦は誰だって嫌だ。
しかし、やらねばならない時がある。
それが今のような気もするが……
王の様子は至って冷静だ。
もしかしたら、何か考えがあるのかもしれない。
「ところで、ロスティ君。君に頼みがあるんだけど」
ん?
あれ?
王の後ろに魔道具工房の二人が控えている。
「実はね。君に魔道具作成を依頼したいんだよ。何、そんなに難しくはないと思うんだけど……兵士全員分が欲しいんだよ」
……王からの依頼は錬金術師の僕へだった。
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