第130話 王都のスキル屋
「君はなぜ、私に嘘をつくのかということだ」
王がじっと僕を睨みつける。
なぜ、バレた……ではない。
『錬成師』を隠すのは、トラブルを避けるためだ。
だから、そのための嘘は決して誰かを傷つけるためのものではない。
嘘をつくことに罪悪感はまったくない。
しかし、面と向かって言われると、なぜか悪い気持ちになる。
それは……王を信頼できる人だと思っているからなのかもしれない。
「いや、済まなかった。ロスティ君を困らせるために言ったのではない。ふと、思っただけに過ぎない。まぁ、いずれ話してくれることを信じて待とう。それよりも……スキル屋というのはどういう場所なのだ?」
顔に出ていたのだろうか?
王は本当に何を考えているのかわからない人だ。
こちらの真実をまるで知っているかのように振る舞うのも、王として癖みたいなものなのだろうか?
気を取り直そう。
「スキル屋は言葉の通り、スキルを取り扱っている店ですよ。僕も通っているうちに知ったのですが、いわゆるゴミスキルと言われているものを主に取り扱っているんです」
「ほお。ゴミスキルとな。言葉としては知っているが……なるほど。しかし、分からないな」
なんで、ゴミスキルを取り扱っているかなんて知らないぞ。
「そうではない。ロスティ君が足を運ぶ理由だ。ゴミスキルと呼ばれている物を買うつもりなのか? こう言っては何だが、君は優れたスキルを持っていると思う。だとすれば、ゴミスキルなど不要ではないのか?」
『戦士』と『錬金術』
この2つがあれば、人生は安泰と思われるほど優れたスキルだ。
「確かに言う通りなのですが、スキル屋にも時々、掘り出し物と言うか……『料理』スキルもそこで手に入れたんですよ」
その言葉に王が顎に手を当て、考える素振りをする。
「ふむ。あれほどの料理が出来るスキルがな……しかし、そうなると相当の値がつくのではないのか? 王宮料理長の味を簡単に凌駕するものだ。いくらでも欲しがるものもいるだろう」
……要らないことを言ってしまった。
話の流れでつい言ってしまったが……。
「まぁ、スキル屋は時々覗くと面白い発見が出来るので、顔はよく出しているんですよ」
「ふむ。ロスティ君は不思議な生き方をしているようだな。それがミーチャを惹かせるのかもしれないな……どうなんだ?」
「ロスティが不思議? 違うわ。なんというか……自然なのよ。それが私には居心地がいいだけ。お父様から見たら不思議かもしれないけど」
自然?
考えたこともなかったな……。
「ほお。面白いことを言うな。なるほどな。自然か……まさにそうかもしれぬな。自然か……私には出来ない芸当だな」
「そうでしょうね。そんなことをしたら、国が大変なことになってしまうもの。皆が平等で……なんて世界はすごく美しいと思うけど、国はそれでは回らないものね」
「ままならぬものだな。願わくば、ロスティ君のような者が王となり、全ての者を導ける存在であればな」
変な話になってきた気がする。
ミーチャも言っていた気がするけど、僕は王になる気などまったくない。
この生活にすごく満足している。
「僕は王には興味ないですよ」
「ん? 聞こえないな。おや? あれがスキル屋というやつだな?」
「そうよ。そうよ」
ミーチャが白々しく相槌を打つ。
全く……。
そういえば、ヤピンには別れも告げずにサンゼロを去ってしまったな。
そんなことを思いながら、扉を開けた。
……ヤピンがいた。
「なんで……ヤピンがここに!?」
「あん? それはこっちのセリフだ。本当にいやがったんだな」
何を言っているんだ?
それよりも……
「サンゼロでは別れを言えずに申し訳なかった。ヤピンには色々世話になっていたのに」
「いやなに。気にするな。こうやって会えたんだしな。お? ミーチャも一緒か。それと……見ねぇ顔だな。まさか、新しい仲間か?」
王のことだよな?
一緒に来たものの、なんて言えば良いんだ?
「この人は……」
「私はロスティ君とは古くからの友人だ。まぁ、今日は見学だけだから、気にしないでくれ給え」
割り込まれてしまったが、王がそういう設定でいいというのであれば、いいか。
「給え? 随分と偉そうな見学が来たものだな。いいか? ここはスキル屋だ。冷やかしで来ていい場所じゃねぇ。買う気がないなら、帰ってくれ」
王に対して、なんて口の利き方を……
ここはフォローをしておこう。
ヤピンに小声で話しかける。
「この人の正体は言えないけど、金持ちなんだ。客として扱っても損はないはずだ……だから、口の利き方だけは本当に気をつけてくれよ」
ヤピンの命がいくつあっても足りないから……
この言葉を付け加えたかったが、言えるわけがない。
だが、ヤピンには真意を見抜く力はなかったようだ。
「バカ言うな。ここはスキル屋だ。誰が相手だろうが、口の利き方をとやかく言われる筋合いはねぇぞ。それはな、お前であってもだ。だから……そこの新顔。さっきも言ったが、冷やかしなら帰ってくれ!」
「ほお……」
王の目が怪しく光る。
これ、絶対に機嫌を損ねているよね?
ヤピン、今からでも遅くない。
すぐに謝るんだ!
「なるほど。スキル屋とは面白いところだな。こんな口の利き方をされたのは初めてかもしれない。ヤピンとか言ったな、まぁ、名前を覚えておこう。ところで、冷やかしと言ったな。なるほど、買いもしないで店を訪ねるのは失礼かもしれないな。では、商品を見せてもらおう。気に入れば、買わせて貰う。これでいいかな?」
「あ? ああ。客なら文句はねぇ。商品を知りてぇなら、そこの台帳を見な。全てが載っているぜ」
終わった……ヤピン。
短い出会いだったが、老い先短い人生を楽しんでくれ。
「おいおい。なんて顔をしてやがるんだ。まるで、俺の人生が終わったかのような顔をしやがって」
よく、そこまで見抜けたな。
いや、そこまで見抜けるなら、フォローした真意を気付いて欲しかった!
もう手遅れだけど。
王は楽しそうに台帳を眺めている。
「ところでロスティ。オメェ、なんだって、サンゼロから消えるようにいなくなったんだ?」
「元々、サンゼロから出るつもりだったんだ。だけど、仲間が行方不明になって王都まで探しに来たってわけだ」
嘘は言っていないはずだ。
魔道具からの話はする必要はないだろう。
「仲間って……あの獣人の子供か? てっきり、いないから売り飛ばしたりしたのかと……おいおい、そんな怖い顔するなよ。獣人の扱いなんてそんなものだろ? まぁ、獣人を探すなんて、ロスティらしい気もするがな」
やけに今日は僕の話になる気がする。
「それで? 今日は何を探しているんだ?」
「実は『料理』スキルを探しているんだ」
ヤピンは首を傾げていた。
「持っていなかったか? 2つも持ったって意味がねぇぞ」
「まぁ……」
「まぁ、売れれば問題ねぇがな。だが、残念だが『料理』スキルはないな。あんなスキルは滅多にあるものじゃねぇからな。数十年に一度出るかどうか……諦めたほうがいいな」
やはり『料理』スキルを手放したのは早計だったか?
「だがよ。『料理』スキルとまではいかねぇが……料理系スキルはそれなりにあるぜ」
料理系スキルという言葉はテッドとの会話で時々出てきていたな。
具体的にはよく分からないけど。
「まぁ、説明するのは構わねぇが、詳細は別料金だからな。料理系は料理に関すること全てだな。包丁から焼く、煮る、蒸す……とにかく細かい。『料理』スキルはその全てをまとめたものだから、かなり価値が高いんだ」
なるほど。
『焼く』だけでも、肉と魚に別れてしまうのか。
肉もモンスター肉や鳥、豚……とにかく細かい。
「それらもゴミスキルって言われるのか?」
「まぁ、そうだな」
細かいからあれだけど、『鶏肉を焼く』が上手いだけでも料理ではかなり重宝するだろうに。
「考えても見ろよ。そればかり出てきたら、どう思うよ。誰もが嫌がると思わねぇか? それで仲違いになる家族は山ほどいるらしいぞ。嫌気がさして、手放すやつが後を絶たねぇんだ」
……そういう見方もあるか。
「そんなスキルを売ってたって、買うやつはいねぇ。そこで考えたのが……パッケージだ。料理系スキルを寄せ集めて一つのセットで売る。どうだ?」
「ちなみにスキルはどれくらいの数になるんだ?」
「把握しているだけで108だな。料理系は本当にいくつあるか分からねぇ。それで終わりかもしれねぇし、もっとあるかもしれねぇ」
……分散しているスキルはスキルの伸びが遅い。
『料理』スキルは料理系全ての熟練度が一斉に上がるから、その差は歴然だ。
でも……また、料理が出来るんだ。
「買おう!」
「へへっ。毎度あり」
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