第131話 おねだり

 料理系スキル詰め合わせセット……4億トルグの買い物となった。


 おかげで溜めたお金がかなりなくなってしまった。


 それでも後悔はない。


 ミーチャも納得の様子だ。


 さて、早速、熟練度をあげるために帰るとするか。


「ロスティ君。待ってくれ。実は気になるスキルがあるのだ。店主! このスキルはどういうものなのだ?」


「100万だ」


「なに?」


「説明をしてほしかったら、100万だ」


 その言葉に王の視線が鋭くヤピンに向けられた。


「ほお。この店は教会の管轄だな? その店が客に金銭をふっかけるつもりなのか? 場合によっては、衛兵を差し向ける必要がありそうだな」


「ふざけるんじゃねぇ。説明料はしっかりと記載されているだろうが。いいか? スキルの内容は普通は知ることが出来ねぇんだ。これは所持者だって一緒だ。自分のスキルの熟練度が成長するとどうなるかなんて、誰も知らねぇ。だからこそ、情報の価値があるんだ。100万だって安いくらいだ。それを衛兵を差し向ける? バカ言うんじゃねぇよ」


 ヤピンは探られても痛くない腹を探られて、言葉を荒げ始めた。


「それにここは教会直営だが、スキル屋っていう独立した店だ。教会は教会。スキル屋はスキル屋だ。勘違いするんじゃねぇ!」


 教会とは一線を画したいヤピンの情熱を感じる。


 しかし、このやり取りをしている時間が惜しい。


 早く、料理を……。


「ロスティ。やけに焦ってやがるな。まさか、お前も100万が高いとでも思っているんじゃねぇだろうな? クソ! こうなったら、100万の正当性を説明してやるぜ。おっと、これは無料だぜ!」


 無料でも、これほど要らない説明はない。


 だが、ヤピンはとまらない。


 王は……結構楽しそうに聞いている。時々質問も……早く帰りたい。


「それで……何のスキルが気になったんですか?」


「うむ。この……『透視』というものだ。これはやはり、字の通り、透けて視えるということだな?」


 スキル名は大抵はスキルの内容に即したものだ。


 今のところは……


 そう考えると、透けて視えるで間違いないはずだ。


「透けて……視える……うむぅ。これはいいかもしれぬな。あれを透視できたら、さぞかし楽しいだろうな」


 王が何を想像しているのか分からないが、とても楽しそうだ。


 その間、ミーチャは……どこからか入ってきた子猫と遊んでいた。


 ヤピンはニヤニヤしているだけだ。


「あの……ちなみに何を透視するつもりなんですか?」


「ん? 分かっているのではないか? ロスティ君は特に」


 言っている意味がわからない。


 ……しかし、思い当たる節がある。


 王はよく女性を見つめている。


 すごく熱心だ。


 つまりは……男子ならば夢見ることだということだな……


「身分に関わりますから、控えめにしておいたほうがいいですよ」


「ふむ。分かってはいるんだがな……気になるではないか。私はどうしても透視してみたいという衝動にかられてしまうのだ」


 気持ちはよく分かる……。


 これはミーチャがいるから……とか、そう言う問題ではない。


 そうですね? 王……いや、お義父様。


「なぜかな。ロスティ君が初めて、私に心を開いてくれたようだな。非常に嬉しいことだが、このスキルをなんとしても手に入れたいものだな。店主! これを譲ってくれ!」


「話を聞いていると不安に感じてしまうが、まぁ、客が欲しがっているものを拒むのは俺の主義に反する。『透視』スキルだな。1億トルグだ」


 やはり、使えそうなスキルは法外な値段になるんだな。


 一億か……王が見たいものと対価に考えると、ちょっと高い買い物だな。


 いや、一億もあれば、別の方法で王の欲求を満たすことも可能なのではないか・


 そう思ってしまうが、王という立場だと一億など端金に過ぎないか……


「一億だと!? ふむ……ちと、高いな。私のお小遣いを集めても、足りなさそうだな」


 いろいろ驚きの言葉だな。


 王が一億も持っていないということもそうだけど……お小遣い?


 国は王の所有物。


 言ってしまえば、国にあるもの全てが王のものとも言える。


 まぁ、そんなこと言ったら大変なことになるけど。


 それはともかく、王はそれだけの力がある。


 そんな王が……。


「なんだよ! やっぱり、冷やかしか。まぁ、一億なんて簡単に出せるわけねぇよな。ここにいるロスティみたいな変態以外は」


 随分な言い様だな。


「ほお。ロスティ君は変態なのか? だったら、どうだ? 『透視』スキルをロスティ君が買ったら良いのではないか? 時々、貸してくれる……いや、ちょっと君の力を貸してくれれば、私は満足なのだ」


 ど、どういうこと?


 僕が透視して見た物を王に伝えるってこと?


 それで王が満足?


 なんだろう。とても嫌だ。


「嫌ですよ。諦めましょう」


「いや、それは出来ない。私は決めたことは、絶対に成し遂げる。これが私の宿命なのだ」


 こんなところで意固地になられてもなぁ……


 王はヤピン相手に値引き交渉を始めたが、ヤピンは応じるつもりはないらしい。


 これは……長引きそうだな。


「分かりました。お金を貸しますから。それで買って下さいよ」


「いいのか? しかし、返せる充てがないな……そうだ。私のスキルをやろう。それで清算というのはどうだ?」


 王のスキル?


 なんだか、凄そうだな。


「話はついたか?」


 王の代わりに一億を支払うことにした。


 これで正真正銘、お金が無くなった。


 『無限収納』には売れそうな貴金属類がそれなりに保管されているから、当分はお金に困ることはないだろう。


「ロスティ君。助かったぞ。まさか、君が一億なんて大金を簡単に出せる男だとは思ってもいなかった。見直したぞ」


 はぁ……これは感謝を伝えたほうが良いのか?


 いや、それよりも王が持つスキルだ。


 すごく気になる。


「よし、帰るか!」


「あの! スキルは?」


「もらったではないか。私は満足だ」


 あれ? スキルをくれるって言ったよね?


 聞き間違い?


「ん? ああ、そうであったな。新たなスキルに興奮をして忘れていた」


 ん、もう。


「じゃあ、そのスキルを念じて下さい。僕のスキルで移動しますから」


「ほお。そんなことも出来るのか。本当に変わった男だな。ロスティ君は」


 王は僕を見つめながら、何かを念じるように目に力を込めた。


 ……ものすごくやりづらい。


 『スキル受領』発動……


「これで終わったと思います。ところで何のスキルなんですか?」


 特に体の変化はない。


 何かをしたいわけでもないし……本当にスキルをもらったのか怪しくなってくる。


 一応、『スキル受領』は反応していたけど……。


「うむ。ロスティ君に渡したのは『軍神』というスキルだ」


 『軍神』?


 聞いただけで、凄そうだ。


 でも、本当にもらってもいいのか?


 王の最高のスキルなのではないのか?


「うむ。『軍神』スキルは将たる者が持つ最高のスキルとも言えるな」


 スキルを持つ将の麾下全てに効力が及ぶ。


 その効力は、全ステータスが上がり、士気が天を突くばかりに向上する。


 そんな説明を受けて、やはり王が持っているべきスキルだと思って、返そうと思った。


 今の僕では絶対に使わないだろうし。


「安心してくれ。私も使わないから」


 ん? どういうことだ?


 王は将たるものの頂点に立つ存在。


 一度、戦争が起きれば、王が陣頭指揮を採る。


 このスキルがあれば、王国軍はかなり強い軍隊になるのではないか?


「実はな、そのスキルが発動するためには千万の軍隊が必要なのだ。王国軍は精々、十万がいいところ。このスキルは一度も使われたことがない、曰く付きなのだ。これから未来永劫使われることがないだろうから、変態であるロスティ君にはぴったりではないか?」


 最後の言葉はなんか、イラッとした。


 本当にゴミみたいなスキルだな。


 千万の軍隊……この世に存在するのだろうか?


 一生、いや、どんな時代になっても使われることはないだろう。


 これが一億の対価と思うと……事前に確認しておけば良かった……。


 これで、一応はスキル屋での用事は全て終わった。


 帰ろうとするとヤピンに呼び止められた。


 珍しいこともあるものだな。


 もしかして、まだ掘り出し物が?


「ヤピン。済まないけど、お金がないんだ」


「いや、そうじゃねぇ。単刀直入に聞くが、教会に鞍替えする気はないか?」


 は? 何を言っているんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る