第123話 晩餐
王宮内のゲストハウスにて……
最初の晩餐はテッドの参加で面白いことになりそうだ。
『錬金術』スキルを持つテッド。
夢は料理人という変わった思いを持っている。
しかし、この世界ではスキルが全て。
所詮は夢。
それを思い知らせるために、ミーチャがテッドに料理を作らせることにした……と思う。
「それでは、これが最初の一品目です」
テッドはそれなりの仕草をして、料理をテーブルに並べていく。
ミーチャも言った手前、酒ばかり飲んでいるわけにはいかない。
ティーサは料理が不味いと言われたせいで落ち込みながらも、座って料理を待つ姿勢だ。
料理は……。
「オーク肉を使用しています。じっくりと煮込むことが出来なかったので、あっさりと焼き色を付ける程度にとどめ……」
かなりのこだわりを感じるな。
これは期待できそうだ。
皆がそれぞれフォークで料理を口に運ぶ。
「……」
沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは……ティーサだった。
「美味しいですね。硬さが特徴のオーク肉をこれほど柔らかく仕上げてくるとは……料理法は是非とも詳しく知りたいですね」
柔らかい?
筋が残り、いつまでも口に残る不快感があると思うが……。
それに火の通りが足りない気がするな。
これでは臭みを十分に抜くことが出来ないだろうに。
「まぁまぁね。料理系のスキルがなくて、これほどの料理を作ってくるためには相当研究をしたでしょうね。でも、やっぱり限界はあるような気がするわ。ちなみに、貴方はこの料理はかなりの自信作よね?」
「もちろんです! 今までの全てをこの料理に注ぎ込みました。もう一品、あるので。それを食べてから判断を」
感想を言う間もなく、次の料理となった。
次は……ほお……スープのようだな。
「ラーラー草をふんだんに使いました。そして、味付けに……」
再び長い講釈が始まった。
ティーサはかなり聞き入っている様子だ。
これは聞かなければならないのか?
正直、暇つぶしの酒があるミーチャを羨ましく感じる。
どれ……実食だ。
「美味しいです! まさかラーラー草にこんな使い方があったなんて! 私の料理が不味いと言われるのは仕方のないことなのかもしれません。もし、よろしければ料理を教えてくれないでしょうか?」
ティーサはかなりの高評価だが……。
ラーラー草は煮ても、炒めても、と万能の食材だ。
一般的な野菜とも言えるので、これで料理の差別化をするのはかなり難しいと言われている。
テッドがあえて、それに挑戦したのは自信の顕れだろうか?
なるほど……確かにラーラー草の特徴を捉えた料理だと思うが……
ミーチャはどうだろうか?
顔色はあまり明るくないようだ。
「やっぱり、そうよね。ハッキリ言うけど、この程度では料理の世界に入ることは出来ないと思うわ」
「ミーチャ様。お言葉ですが、それはあまりにも……。この料理たちはかなりの完成度ですよ。王宮の料理とは違いますが、王都で店を出せば……」
「繁盛すると思う? いい? 今から本物の料理を見せてあげるわ。それを食べてみてから自分の料理を素直に評価するといいわ」
テッドは生唾を飲むように、ミーチャの仕草に注目をする。
「さあ、ロスティ。出番よ!」
「ミーチャさん。それはあんまりですよ! 聞けば、ロスティさんはS級冒険者。しかも、戦闘系みたいじゃないですか。そんな人が本物の料理を作れるっていうんですか!?」
尤も過ぎる指摘だ。
それに便乗するのがティーサだ。
ちょっと言い方が違ったが。
「貴方! ミーチャ様の言葉が信じられないんですか? といっても私もロスティさんが料理をするとは、とても……」
信じているのか、信じていないのか……はっきりしてくれ。
「作ってもいいけど……適当でいいかな?」
「そうね……オーク肉とラーラー草を使った料理がいいわね」
ふむ……。
とりあえず、厨房に立つ。
そういえば、下拵えしたオーク肉があったな。
「ロスティ。それも使っちゃダメ。テッドと同じ条件でやってあげて」
正直に言えば、この料理はあまり気乗りがしない。
まるでテッドの料理を否定するために作るみたいだ。
テッドの料理はたしかに技術が足りない気がしたが……とても温もりを感じるものだった。
ティーサの言った通り、美味しい料理と言ってもいいと思う。
わざわざ、僕の料理を作る必要は……
「ロスティさん。是非、作って下さい。私はどんな料理でも食べてみたい。知ってみたいのです」
そうか……テッドも料理人なんだな。
ならば、全力で作ろう。
オーク肉は固い。誰もが知っている。
そこで下拵えをすることで柔らかく出来るのだが、その時間はない。
だとすれば……叩き、筋切り……ここまでは誰もが出来ることだ。
さらに薄切りだ。しかも、極限まで薄切りをする。
これで否応なく、柔らかさは得られる。
しかし、問題は旨味が逃げやすいということだ。
そこで……
なにやらテッドが話しかけてくるが、料理中だ。
「少し、黙っていてくれないか?」
そして、酒で煮込む。
ミーチャが飲むような酒ではない。安酒でいい。
そして、そろそろいい頃合いだな。
ラーラー草をオーブンで焼いていたのだ。
焼き色がつき、すこし焦げ付いているくらいがちょうどいい。
それをさきほどのオーク肉の酒煮に入れる。
しかし、それも一瞬だ。
これで十分な味がついたはず。
最後に調味料で味を整えていく。
薄切りをしたオーク肉をくるくると巻いたものをスープに浸してから、食べるおつまみのようなものだ。
「食べてくれ!」
最初に口に入れたのはミーチャだった。
「うんうん。やっぱり、これよ。これが完成された料理っていうものよね。私はちょっと向こうで飲んでくるわね」
この一言で、慌てだしたのがティーサだった。
「私も行きます! ちょっと待ってください。この料理をすぐに片付けて……な、なんですか!? この料理は。美味しいとか……そんな次元じゃないですよ。こんな料理、王宮でもお目にかかれませんよ」
「ティーサもいい舌を持っていたみたいね。じゃあ、二人で飲みましょうか? 折角、再会したのに、ゆっくりと話もしていないものね」
「はい!!」
残されたのはテッドのみ。
さっきから匂いを嗅いだりしているだけで、料理に手を付けようとしない。
「どうしたんだ? 食べないのか?」
「いいえ……なんと言ったらいいか分かりませんが……これを食べたら、私は自分を否定しなければならないような気がするんです。その勇気が今の私にはないのです」
何を言っているんだ?
様々な料理を探求することがテッドの料理道ではないのか?
「どうするんだ? 冷めた料理を食べてもらうのは本意ではないんだ。食べないなら、すぐに下げるが」
「いえ! 食べます。この料理を食べなければ、一生後悔する気もするので……ああ、やっぱり……」
テッドは瞬く間に平らげてから、ゆっくりとフォークを置いた。
「ご馳走様でした。一つ聞いてもいいですか?」
「ああ、聞きたいことはなんとなく分かる。こんな料理をなんで作れるかってことだろ? 実は『料理』スキルを持っているからなんだ」
「やはり、そうですか……しかし、これほどの料理を『料理』スキルで作れるのでしょうか? でも、嘘はついている様子はないし……そうなると、考えられないほどの熟練度が……」
なにやらテッドがブツブツと言っている。
まぁいいか。
さて、晩餐は終わりだ。
後片付けをしよう……。
「ロスティさん! お願いがあるんです!」
「いいわよ」
願いというものが何なのか、分からないがそれを勝手に答えるミーチャ。
どうなっているんだ?
「お願いが……」
「いいわよって言っているじゃない!」
テッドの願いは……『料理』スキルを譲って欲しいということだった。
そして、テッドは自分のスキル『錬金術』を渡すというものだった。
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