第116話 王都へ
馬車はひたすら王都に向けて走っていく。
道中はずっとミーチャと王の三人旅だ。
出来れば、王都までの道のりはミーチャと一緒に色々と見物をしながら、旅をしたかったな。
「ロスティ君はかなり顔に出やすい性格のようだな。まぁ、嘘はつけないということか? ミーチャもその分、楽をしているのではないか?」
「あまりそういうことは言わないで下さい!! それがロスティのいいところでもあるんですから」
「それは済まなかったね。そういえば、公国に行ってきたという話はしたかな?」
首を横に振る。
「結構傑作だったな。君の父上をバカにするようだが、あの者はダメだな。先祖の威光しかない男のようだ」
何があったか分からないが、同意だな。
とはいえ、恨みつらみがあるとは言え、自分の実の父を卑下することは出来ない。
じっと黙っていると、王は小さく頷いた。
「うむ。まぁ、独り言として話そう。やはりロスティ君の言う通り、代役を立ててきたよ。一見するだけでは分からないほどだった。だが、正体が分かってしまうと公主の狼狽ぶりは大層なものだった。おかげで、大きな利権を引き出すことに成功した」
利権と言えば、思いつくのは鉱山か。
前に話したように国境近くの場所だろうか。
「ロスティ君の勧め通り、国境付近を指定つもりだったが、向こうから言ってきたよ。あの場所ならば、鉱石の運搬は容易だし、仮に襲われても王国からすぐに兵を向けることが出来るな。もっとも、あの男にそれだけの度胸があるとは思えないが」
国境付近の鉱山は本当に王国にとっては、これ以上ないほどの優良なものだ。
とはいえ、本当に鉱石が算出するかは未知数だ。
一応、鉱夫達の言葉を信じた形になっているが……
「いや、絶対に出るさ」
その根拠は?
と思ってみたが、そんなものは神にしか分からない。
この言葉を言えるのが、王なのだろうな。いや、王だからこそ、この言葉なのか。
「ところで、その代役の人はどうなったんですか?」
「さあね。おそらくだが、私が看破していなければ、すぐに殺されていただろう。しかし、ミーチャとして振る舞うことを続けなければならなくなったからね。生かしておくだろうけど……公主も頭が痛いだろうな」
生かしておくくらい、なんてことはないだろうに。
何が問題なんだ?
「私は本当の姿を見たんだけどね。ミーチャとは似ても似つかない娘だった。だから、あの変身のために相当な費用と魔道具を使っているだろう。そうなると、下手をすれば、それだけで公国は破産するかも知れないな。それに変身の魔道具を秘密裏に作らせて、公国に流すだけで結構な儲けが期待できるんじゃないか?」
そこまでして、偽物を作り上げていたのか。
僕が言うのも何だが、一番公国にとって傷が浅く済むは、正直に王国に話すことだったと思う。
だが、公主にはそれが出来ない理由でもあったのだろう。
それは多分……
「ロスティ君。祖国を思い出すのはいいが、もっと考えなければならないことがあるのではないか?」
王はミーチャに視線を送った。
「王国のミーチャ王女が二人いることになる。どちらも同じ容姿だ。騒ぎになると思わないか?」
それを危惧して、ヘスリオの街で魔道具を揃えようとしたんだ。
もっとも、こんなに早く魔道具が消耗してしまうとは思ってもいなかったけど。
ミーチャも驚いていたくらいだ。
ヘスリオの街にこれから行くという選択肢は出来ない。
ミーチャの姿を晒すわけにはいかない。
だったら、僕一人で行く?
ないな。ミーチャと離れるなんて選択肢はありえない。
「ロスティ。すごく嬉しいことを考えてくれているよね?」
本当に顔に出てしまっているのか?
……まぁいいか。
そうなると僕達の正体を知っている人から、魔道具を融通してもらうという選択肢しかない。
僕達の正体……魔道具は高級品……誰でも手に入るわけではない。
使っている魔道具は国宝級……
うん。目の前にいる。
「うむ。結論が出たようだな」
「魔道具を譲ってもらえませんか?」
「実に素晴らしい!! では、差し上げよう」
そういって、対となる指輪を手渡してきた。
「これは?」
そういってしまうほど、準備が良すぎる。
まるで魔道具が壊れることを知っていたかのようだ。
「実は、君たちに謝罪をしなければならない。黙っていてもバレない自信はある……が、ミーチャに嘘はつきたいくないのだ。魔道具が壊れたのは、私が原因だ。その理由は……教えられないが」
もし、それが本当ならば、なんらかのスキルが発動したからなのだろう。
しかし、魔道具が壊れるスキルか……なんとも凄そうだな。
「だから、必ず困ると思ってな。用意をしていたのだ。間に合ってよかった」
「全然、間に合ってないわよ!! 私達、冒険者から襲われたのよ!? どうしてくれるのよ!!」
ミーチャの凄い剣幕にさすがの王もたじろいでいるが、いい気味だと思ってしまった。
もっと言ってやれと思っていたら、王に睨まれてしまった。
また、顔に出ていたか?
「まぁ、とにかく、これを使ってくれ。ただ、前に使っていたものの劣化版と思ってくれ。効果もそこまで長持ちはしないはずだから、それまでに新しいものを作らねばならない」
劣化版とは言え、使えれば振り出しに戻ったようなものだ。
ヘスリオの街に行って……
「それは無理だぞ。ロスティ君。当初の目的を思い出してくれ。君はユグーノの民の娘を救うために、王都に待機していなければならないんだ。ヘスリオは王都からかなりの距離だ。すぐに対応が出来ない」
そうはいっても魔道具を求めるのなら、ヘスリオしかないのでは?
たしか、王がそう言っていたはず。
「ヘスリオほどではないが、王都にもそれなりに錬金術師と金細工師がいる。王宮抱えの者もいるから、その者に作らせてみせよう。腕はヘスリオの職人には劣るだろうが……それなりのものを作ってくれるはずだ」
王宮抱えといえば、本来は王国随一の職人と相場は決まっているはずだが、随分と評価が低いんだな。
「ヘスリオは特別な土地でな。本来であれば、そこの者たちを招聘したいのだが……残念ながらそれが出来ない理由があるのだ。ロスティ君も直に見れば、すぐに分かることだ。まぁ、なかなか難儀な者たちの集まりなのだよ。ヘスリオは」
そう聞いてしまうと、ものすごく興味が湧いてくるな。
ヘスリオ。一体、どんな土地なんだろうか。
ミーチャと旅がしたいな。
「私もよ。ロスティ」
声に出ていたのかな?
まぁいいか。
「分かりました。ルーナ救出までは王都で魔道具を探してみようと思います。ちなみに僕達は王都のどこに滞在するのでしょうか?」
まさか、王宮で寝泊まりするということはないだろう。
連絡が出来るようにしておかなければならない。
王宮の人間が出入りしても、あまり驚かない場所が望ましい。
「決まっているではないか。王宮だ」
そんな……バカな。
僕もミーチャも今は庶民だ。
王宮に庶民を入れるなんて、狂気の沙汰だ。
「変かい? 実は私の身辺は物騒になってきているからね。君たちに護衛を頼むのが一番だと思ってね。なにせ、S級冒険者。それにミーチャは勝手を知っている。これ以上の護衛はいないだろ?」
なんだか、言いくるめられている気もするが。
いや待て。ミーチャは王宮にはいたくないはず。
「私は大丈夫よ。ロスティが一緒だから。むしろ、ロスティと一緒なら王宮も楽しいと思うの」
どうなっているんだ?
これでは断れないじゃないか。
「ロスティ君。どうやら決まりのようだな。まぁ、王宮にいれば便宜を図ってやることも容易い。悪いようにはしないから」
……どうやら、王宮で寝泊まりすることが決定してしまいました。
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