第113話 告白・・・

 一週間という時間はあっという間に過ぎ去っていった。


 ルーナはほとんどドワーフの店に通い詰めで夕飯のときしか姿を見せることはなかった。


 一応、お昼ご飯用にサンドイッチを持たせていたが、その度にミーチャがニヤニヤした顔で見てくるのが、なんとなく嫌だった。


 サンゼロの街はしばらく訪れることはないだろうから、ミーチャとよく散歩をした。


 ドブ攫いの話は勝手に盛り上がったしまって、ミーチャから顰蹙ひんしゅくを買ったのは言うまでもない。


 少しの時間しか滞在していないのに、随分と思い出が出来てしまったな。


「ミーチャ。次の街に着いたら、少し落ち着いてみないか?」


「どうしたのよ、急に」


 別に急というわけではないんだ。


 ずっと考えていた。


 これからのミーチャとの人生を。


 それに先日、ミーチャの父親……王様だけど……に出会って、決心がついたんだ。


「ミーチャとの人生を一緒に考えたいんだ」


「分からないわ」


 ん? 何が?


「ロスティは相変わらずなんだから。もう少し、言い方を変えて!!」


 言い方?


 気恥ずかしくて言えなかった……そうだよな。


「僕はミーチャとこれからもずっと一緒に居たいんだ。僕と結婚してくれないか?」


「うん!」


 気恥ずかしさはあったし、ミーチャなら応えてくれると思っていた。


 でも、どこかで不安があった。


 ミーチャはちょっと気まぐれだし、この国の王族でもある。


 だから、どこかに行ってしまうんじゃないかって。


 でも、ミーチャは僕を抱きしめてくれた。


「ありがとう。ミーチャ。一緒に幸せになる方法を考えよう」


「ううん。要らないわ。だって、私、すごく幸せだもの。ロスティは幸せじゃないの?」


 その質問は卑怯だ。


 でも……


「とても幸せだよ」


 こんな時間が長く続けばいいと思った。


「でも、いいの?」


 ん? 何が?


「ルーナのことよ。私達が結婚したら、あの子はどうするつもりなの?」


 言っている意味が分からなかった。


「ルーナは仲間じゃないか。僕達の関係で何かが変わるの?」


「そう……まぁいいわ。ルーナには私から言っておくから」


 ……まさかと思うが……


「ミーチャはルーナが僕に恋愛感情があると思っているの?」


「当たり前じゃない! きっとルーナは傷つくと思うわ。でも、私の口から言ったほうがいいと思うの」


 ミーチャはすごく怒っているように感じるが、ここは冷静になってもらわなければ。


「ミーチャ。多分、ルーナにその感情はないと思うよ。いや、絶対にないと思う」


「随分と自信がありそうね。話を聞こうじゃない」


 どう言ったものかな……。


 実はルーナには僕から断ったことがあったんだ。


 ミーチャがいるから、ルーナの気持ちには応えられないって。


 その時のことを思い出すだけで、すごく恥ずかしいんだけど、ここで言わなけれならない。


「ルーナは僕にそんな感情はないって」


「ルーナが言ったの?」


 僕は頷いた。


「その後は、ミーチャの話ばかりをしていたよ。きっと、ミーチャのことがすごく好きなんじゃないかな? それにミーチャを巫女様って呼んでいるよね。ユグーノの民にとって、おそらく巫女って特別な存在なんだと思う」


「つまり、ルーナは私に恋愛感情があるってことかしら?」


 なぜ、恋愛感情から離れないんだ?


 といってもルーナがミーチャにどういう感情を持っているかは分からない。


 尊敬という言葉が近いような気がするけど……それは本人しか分からないことだ。


「なんにしても、ミーチャが考えるような感情はルーナにはないってことだよ。だから、僕達が結婚してもルーナとの関係に何の変化もないんだよ」


「そうだったのね。まさかロスティから言われるとは思ってもいなかったわ。あんなに鈍感だと思っていたのに……成長したのね」


 なんとも酷い言われようだけど……多少は自覚があるだけに何の文句も言えない。


「分かったわ。なら、気兼ねなくルーナに会うことが出来るわ。今日なんでしょ?」


 ミーチャが言っているのは防具受取のことだ。

 

 ドワーフに注文を入れてから、一週間。今日が受け取りの日だ。


「行きましょうか」


 ドワーフの店に向かうと、店先に人だかりのようなものができていた。


 十数人程度の人が店先に集まっているようだ。


「ギルド直轄の店だけあって、繁盛しているみたいだな」


「そうみたいね。大丈夫かしら? 防具が完成していなかったりして」


 だったら、もう少しミーチャとの時間を過ごすだけだ。


 ダンジョン攻略したおかげで、それなりのお金もある。


 そんなことを考えていたら、ミーチャも同じことを考えていたのか、そっと手を握ってきた。


 しかし、状況が違うことがすぐに分かった。


 店先に人ができていた理由は、人が倒れていたからだ。


 しかも、かなりの怪我を負っている。


 誰かに襲われた? 怪我は明らかに武器によるもの。それも斬撃されている様子から、剣だろう。


「……ルーナ!!」


 ルーナは店の中にいるはず。


 また、商業ギルドの妨害だとしたら、ドワーフ達が危ない。そして、その近くにいる……


 中に勢い良く入り、店内を探すが人の気配がない。


 奥の工房か?


 奥に入り込むと……ドワーフの二人がいた。


 ホッとした気持ちになり、力が一気に抜ける。


「二人とも無事だったか!」


「ロスティ!」


「大変!」


 そうだろうな。表で刃傷沙汰があれば、大事だ。


 そういえば、ルーナの姿がないな。どこかに出掛けているのか?


「ルーナはいないのか?」


「ルーナぁ」


「いないぃ」


 見れば分かるというのに。質問が悪かったのかな?


「宿に戻ったのか?」


「ルーナぁ」


「いないぃ」


 どういうことだ?


 どうも様子が変だ。


「ロスティ!! 大変よ。表で襲われたらしいわよ」


 それは見れば。


「違うのよ。襲われたのは少女だったって。斬られた人はその子を庇って」


 少女? まさか……


「ミーチャ。もしかして……」


 ミーチャは首を横に振った。


「分からないわ。少女を目撃したのは斬られた人だけみたいだし。連れ去られていく少女は目撃されているけど、頭巾をかぶらされていたみたいなの。だから、顔までは……」


 そこまで分かっていて、連れ去られたのはルーナかどうか分からないなんて……


 いや、ここにいる。


 ドワーフに向き直した。


「もう一度、聞くぞ。ルーナはどこに行った?」


「ルーナ」


「消えたぁ」


 もう間違いないだろう。


 攫われたのはルーナだ。


 だとしたら、誰が?


 いや、ここで考えていても仕方がない。


「ミーチャ。ギルドに行こう。ギルマスに会って、話をしよう」


「それがいいわね」


 店を出ようとするとドワーフ二人が大袋を渡してきた。


「頼まれた物ぉ」


「出来たぁ」


 どうやら注文したものらしいが、今はそれを見ている余裕はない。


 『無限収納』に納め、ドワーフに感謝を告げてから、足早にギルドに向かった。


 それにしても、さっきから視線を感じる。


 一体何なんだ?


 ギルドの受付に駆けつけた。


 いつもと違う受付の人だ。


「ギルマスを呼んでくれ」


 受付は少し怒気を含んだ表情をしていた。


「申し訳ありませんが、約束もなしでギルマスには会えません。お引き取りを」


 こんな一刻も争うような時に……


 すかさずギルドカードを差し出した。


 カードを見たら、流石に受付の人が驚いていた。


 これでギルマスを呼んでくれるはずだ。


「これは?」


 どういうつもりだ?


「僕はロスティだ! とにかくギルマスに会わせてくれ!」


 すると受付がダンと机を叩いた。


「冒険者ギルドを愚弄しているのですか!! ギルドカードで詐称するとは」


 どういうことだ? 意味が分からない。


 すると周りの冒険者が集まってきた。


 どうも僕とミーチャを捕まえようとしている。


 その中にガルーダの姿が。


 助かった。


「ガルーダ。僕達を受付に説明してくれないか!!」


 だが、ガルーダから出てきた言葉は信じられないものだった。


「誰だ? おまえら?」

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