王都編

第112話 ちょっとした休暇

 ギルド食堂での宴会は終わり、翌日、ふらつくルーナをつれてギルマスの部屋に向かった。


「そうか……行ってしまうか。この街も一気に寂しくなるな。やはり王に従って王宮に士官するつもりなのか?」


「士官の話は断りました。今は冒険者のままでいるつもりです」


 その言葉にギルマスは意外そうな顔をしていたが、「そうか」と一言だけ呟いた。


「まずはヘスリオの街に向かうつもりです」


「ヘスリオか……錬金術と金細工の街か。冒険者としての仕事はあそこにはないぞ。何か用でもあるのか?」


 変装の魔道具の効果が無くなりそうだから、その代えを探しに行くつもりです。とは言えないな。


「観光ですかね? 魔道具に少し興味があって……」


「ほお。なるほど。たしかに魔道具を使いこなせば、冒険者としては格が上がるやも知れない。お前たちほどであれば、魔道具を消耗品扱いしても十分に元は取れるだろうしな。そうか……良いところに目をつけているかも知れないな」


 妙に感心されてしまった。


 なんだか、嘘をついているみたいですごく心苦しい。


 ギルマスは思い出したかのように、一つのプレートを手渡してきた。


 それは小さなプレートでギルドのカードのようだった。


「それはギルドのカードだ。S級になったことでカードの種類が変わるのだ。これを提示すれば……」


 いわゆるギルドの信用状。


 冒険者ギルドのお墨付きがあるため、身分を証明する必要が無くなる。


 王宮などの出入りもかなり融通が利くようになる。


 お金を借りるのも簡単だ。それに各種割引も……。


 とても便利なカードだ。


「一応言っておくが、それは本物の金を使っているからな。再発行はそれなりに掛かることを覚えておいてくれ。ヘスリオだったな。そこには冒険者ギルド直営の店がある。相談があるならば、そのカードを提示してくれれば、それなりに便宜を図ってくれるだろう」


 それは有り難い。


 知らない土地で頼りになる人がいると言うだけで、行動が大きく変わってくる。


「ありがとうございます。そういえば、パーティー名の登録をお願いできますか」


 ギルマスが物凄い迷惑そうな表情を浮かべた。


「そういうのは早く言って欲しかった。まぁ、登録は出来るが、カードに刻んでおきたいであろう? 少し時間を貰うことになるぞ。なに、一週間程度だ。それまでは準備でもしていると良い」


 すこし予定が狂ってしまったが、まぁいいか。


 急ぐ旅でもないんだ。


 ギルマスの部屋を出てから、これからのことを考える。


「ミーチャは何かやりたいことはある?」


「特にないわね。ゆっくりするのも悪くないんじゃない?」


 確かにそうだな。


 ゆっくりと二人で……


「私がいるのを忘れていましたよね? まぁ、別に良いですけど。最近はガロンとトロンと遊んでいますから」


 ガロンとトロン?


 ミーチャも首を傾げている。


「忘れちゃったんですか? ドワーフの二人ですよ。鍛冶って見ていてすごく面白いんですよ。今度、泊まりに来てもいいって。行ってもいいですよね?」


「まぁ、それは構わないけど……大丈夫なのか? 一週間もしたら、この街を離れることになるんだぞ。あんまり、親しくなると別れが辛くならないか?」


 ルーナは首を傾げている。


「別れとは死を意味する言葉です。会おうと思えば、会えるのに寂しいというのが分かりません」


 でも、ルカと別れた時は寂しって思ったんじゃなかったっけ?


「てへへ」


 あれ? 誤魔化された? まぁいいか。


「せっかく時間が出来たのだから、ドワーフに仕事を頼むか。考えてみたら、僕もミーチャも随分と装備がくたびれてきているからな。そろそろ新調してもいいと思うんだ」


「私は別に要らないわよ? 前の街で買ってくれた服はまだまだ使えるし……」


 ミーチャがチラチラとこちらを見てくる。


「分かっているよ。靴を贈らせてくれると嬉しいかな」


「うん!」


 ルーナが僕の袖を引っ張ってくる。


「あの……」


 別に忘れていたわけではないぞ。


 だから、そんなに寂しそうな顔をしないでくれ。


「そのガロンとトロンにお願いできないか? 僕の防具一式と……」


「だったら、今すぐに行きましょう。きっとロスティさんが来てくれたら、二人は喜んでくれると思いますよ!!」


 そういうものなのかな?


 でも自分の防具だもんな。やっぱり任せっぱなしよりいいか。


 ミーチャもついてきてくれるみたいだ。


 鍛冶工房はギルドから少し離れたところに作られていた。


 店構えはかなり立派なもので、『武器屋』『雑貨屋』と言う看板が掛けられていた。


 あれ? 防具は売っていないのか?


 と心配になったが、問題はないみたいだ。


 店内に入ってみると、かなりの広さがある店舗になっている。


 展示物を置く場所がたくさんあるが、残念ながら商品はほとんど置かれていなかった。


 まぁ、店が開いてから時間が経っていないのだ。無理はない。


「いらっしゃいませ。ガロントロンのお店にようこそ! 何をお探しでしょうか?」

 

 店員と思われる人から声を掛けられて、ビックリしてしまった。


「あの……」


 防具を探していると言おうとしたが、ルーナが店員に駆け寄っていって、ガロンとトロンを出せと言い始めた。


「すみません。職人は誰にも会いたがらないので……。申し訳ありません」


 それでもルーナが喚いていると、奥からドワーフの二人が姿を現した。


 ルーナはいつもこうやって、二人に会っているのだろうか?


 ちょっと心配になるな。


「声がした」


「ルーナだ」


 相変わらずだな。


 僕の姿を見るとドワーフがてこてこと近寄ってきた。


 店員はそれだけでも驚きなのか、目を点にしていた。


「巫女ぉ」


「始祖様ぁ」


 本当に相変わらずだな。


「二人共、久しぶりだな。元気にしていたか?」


「元気ぃ」


「もりもり」


 何がもりもりなんだ?


「二人に頼みがあるんだが。僕とルーナの装備品を作ってもらえないか。それとミーチャの靴も」


「余裕ぅ」


「任せろぉ」


 どうやら受けてくれるようだ。


「だが、大丈夫か? 実は僕達は一週間後にここを離れることになっているんだ。それまで間に合えばいいが」


「余裕ぅ」


「大丈夫ぅ」


 それは良かった。だが、本当に大丈夫なのか?


「あの、予約が重なっていて……とても一週間では……」


 店員がなんとかドワーフの二人を説得しようとしているが、ドワーフの二人は店員の方を見向きもしない。


 店員が困っていて、こちらに助けを求めるように見てくるが、こっちも困ったぞ。


 ん? 待てよ。こういう時は……


「S級様でしたか!! それなら、問題はありません。お騒がして申し訳ありませんでした」


 カードの効力はすごいものだな。


 それから細かく注文をしてから、店を離れることにした。


 ルーナは残るようだ。


「邪魔だけはしないようにな。夕飯までに戻ってくるんだぞ」


「はぁい!!」


 ミーチャと店を離れることにした。


「ロスティって、いいパパになりそうね」


 それだけは言わないで欲しかった。


 せめて、兄と呼んで欲しい。


 なんとなく、久しく会っていない弟が懐かしくなった。


 どうしているかな?


 ルーナが一人旅から戻ってきてから、なんとなく僕達との距離が近づいたと言うか……親しくなったような感じがする。


 パーティーってこういう感じをいうのかな?


  

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