第105話 攻略?
ギガンテスのいたボス部屋の最奥にあった小部屋に三人が集まった。
「どう? 何か変わったところはあった?」
ミーチャが宝箱の前に陣取りながら、質問してくる。
小部屋は面白い紋様が描かれている以外は何もない。
本当に宝箱があるだけの部屋だ。
「やっぱり、この階層がダンジョンの最奥かも知れないわね」
ということは、この目の前にある宝箱が……。
「ダンジョン攻略者のみが手にすることが出来るダンジョンの秘宝って言うことね」
とうとう、ここまでやってきたのか……。
そういえば、ニーダの剣を未だに持っていたな。
一応、突き刺しておくか?
いや、待て。あの時はニーダは命を落としたと思っていたが、今はギルド内で……。
考えるのは止そう。
突き刺して帰ったら、ニーダは怒るだろうか?
まぁ、持っていても仕方がないから、やっぱり刺していこう。
宝箱の近くにとりあえず突き刺すと、ダンジョンが異物だと思ったのか、ゆっくりと剣を飲み込んでいった。
「ロスティ、何しているの?」
説明をすると、ちょっと感心をしてくれた。
「あんな酷いことをしたニーダの気持ちを酌むなんて、本当にお人好しね。まぁ、そこがいいところなんだけど……」
「ミーチャ……」
「あの、ここでそういう雰囲気を出さないで下さい。私が居た堪れなくなってしまうので。それにしても、ロスティさんはニーダの友達だったんですか? ユグーノでは、友のために剣を刺すって言葉があるんですよ」
なにやら面白そうな話だが、今は聞かないでおこう。
いや、その前に訂正をしておいたほうがいいな。
「ニーダは友ではないかな。まぁ、根っからの悪人という感じではないから、こんなことがなければ友になれたかも知れないけど……」
「そうですか……ユグーノの言葉とは違うんですね」
すごくショックを受けているけど、どうしたものか……
「ロスティ。宝箱を開けてみましょうよ」
「あ……ああ。そうだね」
ミーチャに促されるように、宝箱に手を掛けゆっくりと開けた。
「これは何かしら?」
「なんだろう」
「なんでしょうねぇ。水晶? ですかね」
誰も分からないものが入っていた。
水晶に見えなくもないけど、なんでそんなものが?
握りこぶしよりやや大きい濁った玉。
よく見ると中心部が七色に輝いているようにも見える。
「なんだか、ダンジョンの最奥にある宝物だから期待していたけど、拍子抜けしてしまったな」
「そうね。剣とか宝石とかなら分かりやすかったんだけどね」
「でも、その水晶もずっと見ているとなんだか癒やされますよ」
ルーナはいい子だな。
でも、癒やされる玉がダンジョン攻略の報酬となるとなぁ……
なんか、微妙。
そんなことを考えていると、背後のボス部屋の方から大きな音が聞こえてきた。
もしかしたら、更にダンジョンの深部に至る道が開けたのかも知れない。
宝物が宝物だっただけに、その期待を持ってしまったが、大きく裏切られる結果となった。
「上に昇る階段ね」
「そうだね」
「まっすぐ上に向かっていますね」
ダンジョンを攻略すると最深部から地上に向かう階段が出現するらしい。
おそらく、これがそうなんだろう。
ここから地上に出ると、最深部には一から向かわなければならない。
「思い残すことはない?」
「ないわね。宝物が微妙だった点を除けば」
「凄いですよ。この水晶、角度を変えると七色の模様が動くんですよ!」
ルーナだけが興奮している。
「じゃあ、帰ろうか……」
「そうね」
「キレイです」
23階層分の階段だから、長いだろうと思ったが一瞬だった。
一分ほど階段を昇ると、すぐに地上部に出ることができた。
外縁の端っこ。
サンゼロの街の中心地がすぐの場所だ。
出てきた場所はルーナが最後で、すぐに消えてしまった。
「本当に攻略したことになるのかしら?」
たしかに盛り上がりに欠けるダンジョン攻略となってしまった。
とはいえ、23階層から下に繋がる階段はないし、地上に出る階段が出現したから間違いはないと思うんだけど。
ルーナはずっと水晶を眺めているので、話には加わってこない。
「とりあえず、ギルマスのところに向かおう」
「そうね」
徒労感を感じながらも、ギルドに向かった。
ギルマスと面会し、ダンジョン攻略の報告をするとギルド内は大騒ぎとなった。
ギルマスも含めて冒険者全員が、僕達を残してダンジョンに向かってしまった。
「どうしてこうなったんだ?」
「分からないわ」
ギルマスが戻ってきたのは、それから数日後のことだった。
その間はギルドの営業がすべて止まっていた。
幸い、食堂だけは営業してくれたおかげでルーナの奢りで舌鼓をうつことが出来た。
ガラガラの食堂というのも初体験で、いい経験をさせてもらった。
「いやぁ。済まなかったな。急を要するもので、話も聞かずに出ていってしまった」
ギルマスはかなり汚れた姿をしていた。
まるでドブ攫いをしてきたような姿だ。
「実はな、ダンジョンが攻略されると一定の期間、モンスターの姿が消えるんだ」
ダンジョンから採取されるのはモンスターのドロップだけではない。
自然に生息している植物や鉱物なんかも採ることが出来る。
ダンジョンだけでしか採れないものもあるらしい。
通常はモンスターがいるため、B級しか入ることが出来ないが、モンスターがいないとなれば話は別。
全員の冒険者はお小遣い稼ぎをするためにダンジョンの資源を採り尽くすことが出来るのだ。
「おかげでかなりの資源を取ることが出来た。そういえば、お前たちはいなかったが……良かったのか? いや、愚問だったな。攻略できるようなパーティーだ。モンスターがいようといまいと関係はないか。ガッハッハ!」
ギルマスはかなり上機嫌だが、あまり近寄りたくない臭いを放っている。
早めに用件を済ませておこう。
「ギルマスに見てほしいものが」
最奥で発見した水晶のような玉を見てもらうことにした。
ルーナの宝物みたいになっていたので、貸してもらうのに苦労した。
「ほお。これがサンゼロのダンジョンの秘宝ってやつか……珍しいものだ」
ギルマスはすぐに分かったようだ。
さすがだ。
「これはスキル玉だな。しかも、相当なスキルが入っているはずだぞ。過去の英雄が持っていたようなものかもしれんな。実に楽しみだ」
玉を返してもらうと、ルーナが取り返して、何度も袖で玉を磨いていた。
……。
「そのスキルはどうやってわかるんです?」
「ふむ。まぁ教会に行けば、取得は出来ると思うが……どんなスキルかは分からないかも知れんな。知ってからのほうがいいだろう? スキル鑑定持ちに見てもらってからのほうがいいだろうな。特に秘密を守れるやつに頼んだほうがいいだろう」
暗に教会は信用できないってことだろうか?
まぁ、色々と問題を抱えているようだからな。
「実は王都のギルドにスキル鑑定持ちがいるんだが……どうだ? 行ってみるか? 推薦状を書いてやる。どうせ、お前たちもここを離れるつもりなのだろ?」
ダンジョンが攻略されると冒険者は別のダンジョンを目指して散ってしまう。
「ここも寂しくなるだろうな。お前たちのようなA級冒険者もいなくなってしまう……ん? しまった!! すっかり忘れていた! お前たちをS級冒険者として登録をし直さなくては!」
ダンジョン攻略者は須らくS級となるらしい。
つい、先日A急になったばかりだと言うのに……。
「それとダンジョン攻略者には王と謁見する権利が与えられるぞ。王宮に士官することも可能だ。色々と選択肢を与えられるから、ゆっくりと考えるといい」
ギルマスの言葉にキョトンとする僕達だった。
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