第104話 ダンジョン最深部へ

 ルーナを再び、加え三人でダンジョンに臨むことにした。


 ダンジョンの内部は勝手も知っているおかげで、攻略は順調に進んでいく。


 ミーチャの結界魔法と幻影魔法。


 ルーナの状態異常回復魔法と水鉄砲。


 そして、僕の剣技と心眼。


 随分と、攻防のバランスの取れたパーティーになったものだ。


 このダンジョンで発見されている階層は20まで。


 それより下は未知の階層ということになる。


 僕達の知っているギガンテスと戦った牢屋の階層は19階層。


 この下からが難しい場所になってくるはずだ。


 緊張した面持ちは皆同じはずだ。


「ねぇ、ロスティ」


 やはりミーチャも怖いのだろうか?


「そろそろ、私達のパーティー名も決めたほうがいいと思うの」


 すごく普通の会話だった。


 パーティー名? え? 今、話すことなの?


「そうじゃないけど、ずっと気になっていたのよ。B級だってパーティー名があるのよ。一応、三人パーティーでそれなりに体裁も出来たじゃない? そろそろ考えるべきよ」


 まぁ、たしかにそうかな。


 二人の時は、パーティー名を付けても、なんか違和感しか無かった感じだからね。


「ちなみにミーチャは何か候補みたいのはあるの?」


「そうね……やっぱり『白狼』みたいな名前がいいかしら?」


 『白狼』か……騒動を起こしているだけに、似たような名前をつけることでトラブルに巻き込まれたりしないだろうか?


「ロスティも心配症ね。そんなこと考えなくても、トラブルに巻き込まれっぱなしじゃない」


 ……たしかに。


 パーティー名をつける前から厄介事が舞い込んできていたか。


 思い返せば……。


「そんなことはどうでもいいわ。ルーナはなにか案はある? ユグーノの民ならではのがあるといいわね」


「そうですねぇ……ちなみに『白狼』ってユグーノの里に伝承で残る神の使いと言われている神獣のことなんですよ。『不死鳥』とかどうです?」


 不死鳥か……たしか、死なない鳥。永遠の命を象徴するものだったな。


 なるほど、冒険者のパーティーとしてはなかなか悪くないな。


 しかし、ミーチャはあまりいい顔をしない。


「どうかしら……意味的にはいいと思うんだけど……響きが好きではないわ」


「そうですか……では、『青蛇』というのは。蛇は魔法の象徴で、青は水の色です。水の魔法、つまり生命を現しています。『生者』の語源とも言われているんですよ」


 へぇ。ルーナは結構物知りなんだな。


 生者と青蛇か……なかなか面白いな。


「蛇ね……悪くないけど、問題があるわ」


 そんなものはないように感じるけど……


「蛇は食べ物よね? なんとなくだけど、食べられる存在が付けられたパーティー名っていうのは嫌だわ」


 そんなことはないと思うぞ。


 まぁ、でもオークを冠するパーティー名は聞いたことがないな。


 『ハンターオーク』……ちょっといい気がするけど。


「食べるような動物以外となると……『一角馬』なんていうのはどうでしょう? これも神獣の一種なんですけど、ユグーノでは馬は平和を現しているんですよ。一角馬は馬の中でも別格で、角はあらゆる毒を浄化すると言われているんです。ちなみに、酒の神の使いとも言われているんですよ」


「決まりね。酒の使いなんて、私達……いいえ、私とルーナにはぴったしじゃない。どうかしら?」


 平和とか、浄化とか、そっちの方が重要なんじゃないのか?


 ミーチャの酒好きは相当なものなんだな……


「ミーチャさんも好きですね。でも、私も一角馬はすごく好きな神獣なんですよ。別名に『ユニコーン』って言い方があるんですよ。そっちの方が……」


「いいえ。『一角馬』にしましょう。『ユニコーン』のミーチャより、『一角馬』のミーチャの方がいいと思うわ。ルーナも『一角馬』のルーナ。素敵じゃない?」


 ルーナもだんだんとその気になり、「最高です!」というところまで来ていた。


「ロスティ、決まったわ。『一角馬』よ」


 どうやら、僕に決定権はないようだ。いや、相談にすら加われなかった。


 静かに頷くだけだった。


 とりあえず、パーティー名が決まったところでダンジョン探索の再開だ。


 なんとも緊張感のない感じが拭えないが、気を取り直していこう。


 しかし、緊張感と言うか、僕達にとって強敵と呼べるモンスターはほとんど出現しなかった。


 とうとうボス部屋とも呼べるような場所にたどり着いた。


 階層にして23階。


 広い空間に松明だけはやたらと置かれている不思議な空間だった。


 三人で警戒しながら、部屋の中央に向かっていくと何かが鎮座しているのが見え始めてきた。


 近づくと、そのモンスターはゆっくりと腰を上げ、立ち上がった。


 ギガンテスだった。


 ボス部屋にいるモンスターが牢屋の階層に出現したのか?


 あそこも実はボス部屋だった?


 いや、だとしても同じボスが続くってことは今まで無かった。


 だとすると……


「ロスティ。考えるのはあとにして、倒しちゃいなさい」


 その通りだ。


「ミーチャ。幻影魔法は使われているか?」


「いいえ。今回は何もないはずよ。そこにいるモンスターは、そこにいるわ」


 牢屋の階層にいたギガンテスが特殊能力持ちだったのか?


 いや、考えるのはやめよう。


「ルーナ。『水鉄砲』で牽制を。ミーチャは幻影魔法を頼む」


 二人は返事をして、すぐに魔法の詠唱に入る。


 木聖剣を構え、一気に駆け出していった。


 今回は心眼を使う必要はないようだな。


 ギガンテスまであと一歩というところで、背後からルーナの『水鉄砲』が通過していった。


「すごい勢いだな。これなら牽制どころか、十分にダメージを与える……」


 どころではなかった。


 ルーナの『水鉄砲』を食らったギガンテスは、その一撃で倒れ、ドロップ品になってしまった。


 心眼どころか、僕の出番すら無かった。


 この結果に一番驚いているのは当の本人であるルーナだった。


「私が本当に倒したんですか?」


「それ以外、ないと思うけど。それにしても……」


 『水鉄砲』があれほどの威力を持つ魔法に進化しているとは、まだまだショックを感じざるを得ない。


 ミーチャの満足した表情を見るのも、ちょっとつらいものがある。


「とにかく、ドロップ品を回収してきたらどうだ? あの品はルーナのものにしていいからな」


「本当ですか? じゃあ、売ったお金は今までの借金の返済に……」


 なんだろう。小さな女の子がそんな言葉を口にすることに罪悪感を感じてしまう。


「ルーナ。とりあえず、借金という言葉はやめようか? 別にお金を貸しているってわけではないんだし、なんというか……ルーナがパーティーとして貢献してくれていれば、僕達にお金を渡す必要はないから。だから……」


「でも……私、色々なものを買ってもらっていますし、一人旅をする時もたくさん持たせてもらいました。全部、取られちゃいましたけど……少しでも返さないと、と思って」


 なかなか難しいな。


 しかし、ルーナが返したいという気持ちがあるならば、それに応じたほうがいいのかも知れないな。


「じゃあ……」


「ダメよ。いい? お金はもっと大切にしなさい。そして、私達はお金を仲間からもらって嬉しがるように見える? それよりもルーナからなにか奢ってもらうほうがとても嬉しいわ」


「それはミーチャだけじゃないだろうか?」


 と思っても口にするわけにはいかない。


「分かりました!! じゃあ、食堂で一番いいお酒を買っちゃいましょう!」


「ふふっ。いい子ね」


 ルーナがミーチャに毒されているようにしか見えない。


 大丈夫なのか? ルーナ。


 お酒話で盛り上がっている二人をよそ目に次の階層に向かう階段を探していると、階段ではなく部屋のようなものを発見することが出来た。


 そこは重々しい扉があり、ゆっくりとその扉を開けると……


 中には宝箱が一つあるだけだった。

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