第103話 戻ってくる理由
男たちを叩きのめしてから、ルーナに向き合う。
「ルーナ……なんで、こうなったんだ?」
ルーナはひたすら苦笑いを浮かべるだけだった。
とりあえず、こいつらを……と言っても連れて行くのは難しそうだな……
そもそも、ここは……。
うん。サンゼロの街がすぐそこに見えるほどの場所だな。
こいつらは縄で縛って、捨てておこう。
あとでギルマスに話を通せば、何かしらの対応はしてくれるはずだ。
「とりあえず、サンゼロの街に帰るか?」
「そう……します」
すごく落ち込んだ様子だ。
というよりも、絶望している?
道中、二人共無言のまま、サンゼロの街に到着した。
ミーチャは当然、驚いている。
「え? ええ? なんで、ルーナがいるの? さっき、ロスティが消えたのはルーナの魔道具が発動したってこと? こんなに早く?」
早口でルーナに詰め寄るミーチャだったが、ルーナの表情は冴えない。
あんなに男どもに囲まれては恐怖を感じるのも無理はないだろう。
「ルーナ。とりあえず、宿でゆっくりと休むといいよ。心の傷は……」
「そう……じゃないんです」
どういうことだ?
ミーチャと顔を見合わせるが、ルーナが何を言い出すのか見当もつかなかった。
「私……気付いてしまったんです。いえ、前々からそうじゃないかなぁって、思っていたんですけど……ロスティさんと行動している間は何もなくて……だから、勘違いだったのかなって」
ダメだ……全く分からないぞ。
少なくとも、男どもに囲まれたことには傷付いていないようだ。
「ルーナ。分からないわ。何が勘違いだったの?」
「私……すごく不幸体質みたいなんです」
初めて聞く言葉だった。
そんな体質が存在するのか?
幸と不幸は交互にやってくるものだと思う。
総じて、不幸ということはあると思うが、それを不幸体質と呼ぶことはない。
運がない、とかツイていないとか言うくらいだ。
「昔からそうなんです。生まれた時からトラブル続きで、生きているのが不思議なくらいと周りからよく言われていました。ユグドラシルのご加護がなければ、今の私はいないでしょう」
それからも長々と不幸話をミーチャと共に聞かされ続けた。
ミーチャは途中で飽きてきたのか、僕の作ったつまみを肴に酒を飲み始めていた。
僕もそろそろ聞いているのが辛くなってきた。
それほどルーナの不幸話は悲惨だったからだ。
でも、話を聞いていると、ふと思うことがある。
ミーチャも同じようだ。
「ねぇ。ルーナ。私達と別れてから、何があったかを教えてくれない?」
「え? ああ、はい」
話の腰を折られたのか、少し拍子抜けした表情がなんとも可愛いかった。
「石で躓くこと35回。休憩中に動物に荷物は奪われる。座った石には当然のごとく、獣のフンが。そして、靴裏にも当然付いています。そんなことを気にする私ではありません。その瞬間に頭上にも浴びせられました。それから……」
男どもに囲まれる話までいきつくまでに、どれくらいの時間がかかるのだろうか?
これなら数時間という時間がありながらも、十分程度歩けば着いてしまう距離にいるわけだ。
「フンまみれの私を見て、男たちが近寄ってきたんです。一人の男が何かを差し出してきたので、攻撃だと思い、咄嗟に『水鉄砲』を。それで男たちが襲い掛かってきたんです」
ん?
何かが可怪しいぞ。
ミーチャと目が合う。
「ちなみにその男が差し出してきたのって何?」
「分かりません。何やら白い……ヒラヒラとしたものだったような……」
なんだろう。もしかして、その白いヒラヒラしたものって……。
「ルーナ。とりあえず、さっきの倒した男たちのところに戻ろうか」
「分かりました!! ギルマスに突き出しに行くんですね」
なんて言ったら良いかな……
「僕の勘違いだったら申し訳ないんだけど……多分、謝りに行くって事かな」
「なんでですかぁ!?」
残念ながら、僕……いや、ミーチャと同じく、予想通りだった。
男たちから話を聞けば、彼らは同じ冒険者。
他の街からサンゼロに向かう途中だったところ、フンまみれの獣人を発見。
手荷物もなく、何か事情があると思い、とりあえる体を拭えるタオルを差し出したところ、攻撃を受けたらしい。
それでも男たちは獣人の少女を怯えさせてしまったのではないかと、心配して近寄ったところで……
僕が登場。
男たちが身構えた姿を僕がルーナに攻撃を加えるものだと判断してしまい、ボコボコにしてしまった。
「勘違いして、本当に申し訳ありませんでした!!」
ルーナと一緒に謝ることにした。
するとその集団のリーダーのような男が一歩前に出てきた。
「あんた……もしかして、ロスティさんか?」
ん? なんで僕の名前を?
「やっぱりそうだ。いやぁ、あんたの名前は冒険者では有名な話になっているんだ。木剣をぶら下げる剣士だってな。なんでもスモールバッドの……」
訳の分からない異名が広まっているようだ。
「とにかく、済まなかった!! 弁償は請求してくれ。それで水に流してほしいというのは虫が良すぎるとは重々承知しているが……」
「いやいや、こっちもそこの獣人の嬢ちゃんを怖がらせてしまった事が原因かも知れないからな。まぁ、お互い様と思って水に流そう。まぁ、ロスティさんと剣を交えたってあっちゃあ、それなりに自慢話にもなるしな。話しても、構わないだろ?」
そんなことでいいのだろうか?
とりあえず、僕の料理を差し出しておこう。
ミーチャのつまみ用に作ったジューシー干し肉を薄切りにしたものだ。
サラダにもサンドイッチにも使えるが、そのままでも十分に美味しい一品だ。食材として重宝している。
「これが噂の……食えるなんて、有り難い」
冒険者は噂に飢えているのか?
僕以上に僕のことを知ってそうだな。
「いい経験をさせてもらった。また、サンゼロの街で会おう。嬢ちゃんもな」
なんと気持ちの良い者たちなんだ。
彼らがいなくなるまで、僕達は頭を下げ続けた。
さて……宿に戻ろうか。
ミーチャはまだ一人で酒宴をしていたようだ。
「戻ったのね。さて、話の続きをしましょうか……ルーナが実はドジっ子なんじゃないかって話よ」
やっぱり、そう思うよね。
ルーナの話を聞いている限り、半分以上が不注意によるものだと思う。
岩にフンがあるのに気づかないのが信じられない。
「そんな訳ないじゃないですか!」
ルーナは抵抗していたが、最後は不貞腐れてしまった。
「話は変わるけど、ルーナはこれからどうするんだ?」
ルーナが少しバツの悪そうな表情を浮かべた。
「なんというか、ちょっと言いにくいんですけど……私の一人旅は危険な気がしてきました。決して、ドジではないですよ! 不運体質のせいですからね! なんだか、カッコイイことを言った手前なんですが……ルカ姉様の捜索はもうちょっと先に伸ばそうと思います」
つまり?
「一緒にいさせてください!!」
ミーチャはニコっと笑い、「おかえり」とルーナを抱きしめた。
僕も便乗したかったが、ミーチャに妨害され、近づくことも出来なかった。
数時間というルーナの一人旅も終わり、再びパーティーに加わることになった。
それから、しばらくしてから再びダンジョン探索が始まった。
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