第102話 ルーナとの別れ?
祝宴はかなりの盛り上がりを見せた。
僕もルーナの優しい気持ちに触れ、なんとなく気分を晴らすことが出来た。
なんで、こんなにルカがいなくなったことにショックを受けていたのか、今頃になって不思議に感じていた。
こんなことをミーチャに相談したら、肘鉄を受けることは間違いないだろうから、黙っていることにしよう。
しかし、意外にもミーチャが一番に気丈に振る舞っていたのかも知れない。
「実はね。私、ルカさんがすごく好きだったの。私のことを普通に接してくれて……話していても、居心地が良かったの。もしかしたら、ルカさんの近くに私の居場所が……いえ、私達の居場所があるのかもって本気で思っていたの」
そうだったのか……。
ミーチャは外見のせいで、王宮にも公国にも居場所はなかった。
いつも一人きりになれる場所を探して、誰の目にもつかないところで暮らしていた。
そんな彼女にとって、この世界はとても住みづらい場所だ。
そんな中で居場所があるかも知れないというのは、儚い希望だったようだ。
「だったら、僕達もルーナと一緒にルカ達を探したほうが良いんじゃないのか?」
「それはダメよ」
なぜだ?
ルーナと探すのであれば、離れないで済むではないか。
「ルカさんに私達を助ける理由がないから。逆もそうだわ。一緒に探して、見つけることが出来ても、私達を受け入れるとはとても思えないの。獣人でもない私達を……」
追われる身となったルカ達にとって、側におけるのは本当に信頼の出来る者たちだろう。
ミーチャはその中に僕達が入る資格がないと言いたいのだろう。
確かに実力はA級冒険者と認められるほどだが、ルカ達はS級だ。戦力という意味では、かなりの数を相手に戦えるほどで、僕達の力など当てにする必要もない。
「私達はとにかく目の前のダンジョンを攻略して、S級になる必要があるわ。まずは力をつけること。それこそ、ルカさん達を守れるくらいの……もしかしたら、国を相手にするかも知れないから」
国を相手に……ミーチャはそれほどの覚悟を……
たしかに今回の騒動は冒険者ギルド、商業ギルド、そして教会が大きく関わりを見せてきている。
どの勢力も王国ではずばぬけて巨大な組織だ。
そして、ルカ達は少なくとも冒険者ギルドと教会に目をつけられている。
どこで商業ギルドも関わってくるか分からない。
そして、大きな利権が絡めば、当然王国が乗り出してくる可能性も否定できない。
そこまで考えての、国を相手に、という言葉に繋がるのだろう。
「ミーチャの言う通りだ。元からの目標であるダンジョン攻略を優先した方がいいようだな。考えもなしに言って、ごめん」
「いいの。ロスティは優しいから。ルーナを一人で行かせたくなかったんでしょ? 私も同じよ。でも、ルーナと私達とでは同じ生き方をすることは出来ないわ。私達は私達の生き方で、ルカさんやルーナと接するべきだと思うの。きっと、その先に私達の居場所があると思うわ」
ミーチャの言うことは少し考えさせられる。
僕も自分の居場所を……。
「でもね、ひとつだけ……決まった居場所があるの」
ほお。それは是非、聞きたいな。
「ロスティの横よ。そこだけは絶対に変わらないわ」
「僕もそれは変わらないかな。僕もミーチャの横に」
とても幸せだった……。
「あの……私って、やっぱりお邪魔虫でした? なんというか……体よく追い出されたみたいになっていると思うようになってきたんですけど……」
ルーナがいたのか。
話を聞かれていたか。結構、恥ずかしいものだな。
「私もミーチャさんの意見に賛成です。ユグーノの民は虐げられし者たちです。どんな理由があるにせよ、我々が人間と交わることはありません。それはルカ姉様も同じです。でも、それはどこかで終わらせなければならないとも思えるんです。それを成してくれるのは、ロスティさんとミーチャさんのような気がするんです」
随分と期待されているようだが、僕達にそんな力は今、ないと思うけど。
「だから、ミーチャさんの言うように力を蓄えてほしいんです。ユグーノの民……いいえ、世界全体を変えるほどの力を……」
まだ、昨日の酒が残っているのか?
そんな話をしたら、きっと笑われてしまうぞ。
「ルーナ。そんなことを本気で思っているのか? 僕達には……」
「本気です!! いいえ、私には分かります。それこそがユグドラシルのお導きだと思います!」
こうなるとルーナは絶対に考えを曲げない。
世界を変える力……それがどれほど凄いことなのかも想像することが出来ない。
「分かった。ルーナの期待に答えられるか分からないけど、やれるだけのことはやってみる」
「はい!」
これがルーナとの別れとなった。
ルーナには必要以上のものをもたせた。
食料やお金。ポーション……。
最初は固辞されたが、絶対に必要なものだからと、無理やり持たせた。
「これは絶対にお返ししますから!」
断ろうとしたが、断るのを止めた。
「そうだな。また会おう」
「はい!」
見送ろうとしたが、ミーチャが一歩出て、ルーナの手を握った。
「絶対にまた会いましょう。その時は成長した姿を見せ合いましょう。いいわね?」
「はい! ところで……これは?」
ミーチャがなにやらルーナに手渡していた。
こそこそと二人で話して、ルーナは嬉しそうな顔をして、手を振ってサンゼロの街を離れていった。
ずっと見送っていた。姿が見えなくなるまで。
考えてみれば、本当に短い時間だった。
だけど、その間にルーナに助けられた命があった。
この借りは、絶対に返さなければならない。
ルーナの安全をずっと祈っていた。
「ミーチャ。ルーナに何を渡したの?」
「ロスティのパンツよ」
は? いやいやいや……何を言っているんだ?
「冗談よ。魔道具を一つね。双転の指輪っていうものよ。聞いたことある?」
全く聞いたことがない。
どうやら、対になっている指輪となっていて、片方の所持者に命の危険が迫るともう片方の所持者が助けに入る道具のようだ。
ルーナに命に危険が迫ると助けに行けるという物だ。
「本当は命の危険が迫ると、その場から脱出する魔道具が良かったんだけどね……それで、対の方をロスティ、貴方が持って」
指輪を受け取った。
「助けるのはロスティの仕事だと思うの。あの子、ずっとロスティを憧れの王子だと思っていたのよ。襲撃の時に助けに行った時もすごく嬉しかったって……だから、また助けてあげて。私にとっても、ルーナは大切な仲間だから……」
ミーチャの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
この別れはミーチャにとっても辛いことだったんだ。
「分かった」
受け取った指輪をすぐに指に嵌めた。
出来ることなら、これが発動しないで欲しい。
けど……発動すれば、ルーナに会えると思うと……なんとも複雑な気分になる。
数時間後……
なんで、僕の目の前にルーナがいるんだ?
そして、周りを取り囲む男たちは誰なんだ?
訳も分からずに戦闘に突入した。
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