第65話 何かの兆候?

 ギルドは結構な賑わいを見せていた。


 また大掃除か!?


 という勘違いはもうするつもりはない。


 ギルマスの横には十人の男女が立っていた。


 彼らがガルーダの言っていたS級パーティーの人たちだろうか?


 結構な大所帯なんだな。


 すでに話は結構進んでいるみたいで、後は紹介だけを残すのみとなっていた。


「紹介しよう。まずはA級冒険者『オルフェン』だ」


 どよめきが起こる。


 A級はS級には及ばないものの、実力は相当なものだ。


 S級予備軍と言われるような存在で、ダンジョン攻略が出来れば、すぐにS級に昇格できる凄腕の集団だ。


 紹介された『オルフェン』の面々が一歩前に出る。


 どの人も結構派手派手しい。


 鎧には金や銀が施されている人が多く、武器も目立つものばかりだ。


「オレはニーダ。『オルフェン』のリーダーをやっている。オレたちの目的はもちろん、ダンジョン攻略にある。といっても、ギルドの仕事もきっちりとこなすつもりだ」


 派手派手しさがあるが、やり手の雰囲気を感じさせる。


 赤髪という王国でもあまり見ない髪色が印象的だった。


「うむ。よろしく頼むぞ。次が本命だ。S級冒険者『ハングドルグ』だ。このギルドに二組のS級冒険者が集まるとは実に快挙だ。逆に言えば、それだけこの街のダンジョンの攻略が難しいことを意味している。さて……」


 ギルマスがいい終るや否や、ガタイのいい男がギルマスを押して前に出てきた。


「お前ら!! 冒険者は金だ。金で女を買い、旨い酒を飲む!! 以上だ。そうそう、オレ達はダンジョン攻略以外は興味がねぇ。ギルドのクエストもな。あと……俺たちの邪魔だけはするなよ」


 最後の言葉はかなり迫力があった。


 これがS級か……『白狼』とは全く違う印象だな。


 S級押しのミーチャはどう見たかな?


「すごい殺気だったわ。私は好きになれそうにないわね」


 だそうです。


 まぁ、僕も同じような感じかな。


 A級の……『オルフェン』はともかく、S級の『ハングドルグ』はとても共闘するという感じはなかった。


 まぁ、あまり接することもないんだし……どうでもいいか。


 それからしばらくの間、ダンジョンの外縁でミーチャと修行の日々を送った。


 時々出てくる、フォレストドラゴンもあっさりと倒すことが出来るようになった。


 フォレストドラゴンはA級ソロで辛うじて倒せるラインだというので、僕達の実力はその程度にはあるみたいだ。


「早く、武器屋が来てほしいものね」


 その通りだ。


 短剣もそろそろ悲鳴を上げ始めている。


 ポッキリと折れる前にメンテナンスか、新調をしたいものだけど……


 そんな時、偶然、ガルーダと出くわした。


「おう、小僧と嬢ちゃん。精が出るな。もうそろそろ、ダンジョン攻略に乗り出すつもりか?」


 最近、ガルーダはこの辺りでクエストを消化している感じだ。


 ガルーダこそ、攻略をしないのだろうか?


「武器屋が来てからかな。武器と防具、それに回復薬なんかも手に入れてから出ないと……ガルーダは?」


「ああ。そのことだがな、ギルマスから聞いているか?」


 まったく。


 というか、最近ギルマスと会っていない気がするな。


「ダンジョン攻略組が帰ってこねぇって話だ。これは一応、秘密になっているが、知らねぇやつはそんなに多くねぇ」


 その多くない方に僕はいるのね。


 もうちょっと情報集めをしたほうがいいな……


「どういうことなの?」


「分からねぇ。なにせ、ダンジョンの奥の方の話だからな。確かめに行こうにも、簡単に行ける場所じゃねぇからな。おそらく、未確認のモンスターかトラップらへんが可能性としては濃厚だって話だ」


 なるほど……やはり、ダンジョン攻略をするためには準備が大切になってくるな。


 あれ? そうなると、ガルーダがこの辺にうろついている理由は……


「オレももうちょっと情報を集めてから動くつもりだ。この件については『白狼』が動いているらしいからな。情報もそのうち入るだろうよ」


 結構、堅実なんだな。


「それとよ、こんなタイミングに朗報だぞ」


 ガルーダはなんで、こんなに情報を持っているんだ?


 これが普通?


「教会支部が到着するらしいぞ」


 ん? 教会支部?


 ああ、なんかギルマスがそんな話をしていたような……


 でも、よく分からないな。


 教会支部が来ると何かあるのかな?


 お祈りが出来るとか?


「バカ言っちゃいけねぇよ。ダンジョンに教会支部は付き物だろうが」


 というと?


「教会はな、王国中から孤児を集めているんだ」


 へぇ。それはすごいな。


 公国でも孤児は出る。


 それを保護する活動は公国でも行っているけど、莫大な費用がかかるんだ。


 教会がねぇ……


 でも話が見えないな。


 ダンジョン周りに孤児が出やすいなんてことがあるのかな?


「そうじゃねぇ。孤児を売り物にしてんだよ。寄付と称してな。小僧なんか買うにはちょうどいいんじゃねぇか?」


 孤児を?


 こう言っては何だけど、孤児を抱える余裕なんて、今はとてもないぞ。


「ねぇ。それって女?」


 まさか、ミーチャは買う気なのか?


「そんなことはないぞ。男も女もだ」


「ふぅーん」


 なんだ、今の会話は。


「ちょうどいいってどういうこと?」


「普通の孤児と思っているな? 実はな、回復魔法が使える孤児なんだ。ダンジョンは回復手段が限定される場所だ。補給だって難しい。その点、回復魔法となれば話は違う。魔力なんざ、寝れば戻るしな。いいだろ?」


 回復魔法……そういえば、『白狼』の一人に回復魔法を使える人がいたな。


「イタタタ」


 ミーチャに頬を思いっきりつねられた。


「何を思い出しているのよ!?」

 

 いえ、なにも……


 ……つまり、回復魔法を使える人を買えるってことか……


 回復魔法が使える人がいるのは、かなり有り難いんだけど……買うとなるとなぁ


「借りるっていうのは?」


「ああ、もちろん出来るぜ。だけど、買う金があるんなら、あまりオススメはしねぇな」


 理由は、裏切る可能性があるからだそうだ。


 孤児が積極的にダンジョンに行きたいと思っているわけがない。


 依頼主が死ねば、ダンジョンに行かなくても済む。


「結構、命の危険に晒されるやつは多いんだぜ」


 教会はそれについては何も口を出そうとはしない。


 冒険者が死のうが生きようが、あまり興味がないのだろう。


 ゆっくりとミーチャと相談したほうがいいな。


 回復魔法は重要になってくるはずだから……。

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