第66話 ギルド秘蔵の武器?

 ギルドの前がにわかに賑やかになった。


 理由は簡単。


 教会支部とやらが来たからだ。


 ギルドの片隅で、というわけにではない。


 はっきり言って、ギルドより立派な建物がすごい勢いで建てられている。


 当然、冒険者にも資材運搬のクエストがギルドに依頼されていた。


 ただ、意外とケチ? なのかEかF級にしか仕事が割り振られない。


 それでも薬草採取やドブ攫いよりはマシだということで、低級冒険者のいいお小遣い稼ぎの場となっている。


 僕は不参加かな。


 そんなことをするんだったら、ドブ攫いのほうが何倍もやっていて楽しい。


 偶々、一人になる時間があったので、久々にドブ攫いのクエストを受けようとボードに向かった。


 しかし、クエストがないのだ。


 ドブ攫いのクエストが……山のようにあったのが、嘘のように薬草採取で埋め尽くされている。


 これは由々しき問題だ。


 極めたドブ攫い道が……いや、スコップが泣いている。


「ダメですよ」


 受付で事情を聞こうとしたが、開口一番がこれだった。


「どういう意味ですか?」


「そのまんまですよ。ロスティさんにドブ攫いは頼めません」


 どういうことだ……まさか、何か失態を……


 思い当たる節があるとすれば……


 隣の排水口までキレイにしてしまったくらいか。


 流れが良すぎて、苦情でも来たのかも知れないな。


「違いますよ。そもそもドブ攫いはF級に用意したクエストなんですよ? それをやりたがるB級なんて聞いたことがないですよ!」


 そんなことを言われてもなぁ。


 そもそも、ドブ攫いを好きにさせたのは、クエストのせいだが?


「まさか!! 僕にクエストを受けさせないために……ドブ攫いの依頼を断っているんですか!?」


「なんで、そうなるんですか。違いますよ。ドブ攫いはおかげさまで大人気クエストになってしまったので、今はないだけですよ」


 ふっ……冗談にしては面白くないな。


 そんな訳が……


「あるんですよ。ロスティさんのせい……というか、おかげで」


 意味が分からない。


 つまり、ドブ攫いの道を極めし者がこのギルドには溢れかえっていると?


 ほうほう。なるほど。


 面白くなってきたな。


「違いますよ」


 なっ……どういうことだ?


「全然、分かっていないんですね。私が言うのも何ですが……ロスティさんはかなり注目の的なんですよ。F級からB級に一気に昇級したことなんて、私が受付になってから一度もないんですから」


 お姉さんが受付になった時から?


 まぁ、いつからかは聞かないでおこう。


 注目の的は……まぁちょっと嬉しいかな。


 それはともかく、ドブ攫いと何も関係がないような気もするけど。


「私もクエストを受ける人には言っているんですけど……皆さん、ドブ攫いに一気に昇級する秘密があると思っているみたいなんですよ」


 なるほど……


 その冒険者たちはなかなかいい感覚を持っていそうだな……


 僕は断言できる。


 ドブ攫いを極めた先には……


「何もないと思いますよ。臭くなるだけです」


 何も分かっていないな。


 それにしても残念だな。


 しばらくはドブ攫いは出来ないのか……


 いや、待て……


「仕事って個別に受けてはダメなんですか?」


「ダメですよ。ただ指名というのは可能ですよ。依頼者から指名があれば、一応はその人にまずは打診をします。もちろん、冒険者には拒むことも出来ますから、指名をしたからと言って絶対にその冒険者が来るとは限らないですが……」


 いい話が聞けた。


 今度、ローズさんのところに頼みでも行くか。


「そういえば、武器をメンテナンスしたいんですけど……まだ、武器屋は来ないんですか?」


「皆様も武器をかなり心配していますよね。近々、ギルマスから発表があると思うので、それを待ってもらえれば……」


 近々か……武器が折れないといいんだけど……


「もし、急を要するようでしたら、武器を斡旋することも出来ますけど……どうします?」


 ん?


「また、錆びた武器の事ですか? あれはちょっと使えないと言うか……」


「違いますよ。あのときはF級冒険者への対応です。B級ともなると、緊急クエストも受理しなければならないので、武器を斡旋するようにしているんですよ。もちろん、錆びた武器ではないですよ。ちゃんとした新品同様の物ばかりですよ」


 そんなの全然知らなかったよ!


 いやいやいや、教えてよ!!


「申し訳ありません!! 飛び昇級という実例が少なかったもので、連絡が遅れてしまったようです。あの、今からでも武器を見ることが出来ますが……どうしますか?」


 もちろん見させてもらおう。


 ミーチャがいればと思ったけど、今日は仕方がないな。


 とりあえず、僕だけでも見に行くか。


 別の担当者が出てきて、小さな部屋に案内された。


 部屋一面に武器が吊るされていたり、立てかけられている。


 隣の部屋には防具があるようだ。


 武器にはそれぞれ、値札のようなものがついている。


「こちらのものは全て、ギルド付きの鍛冶師が作った品となります。やや癖があると言われているので、よく吟味することをオススメします」


 へぇ。


 見る限り、物は良さそうだな。


 値段は……『買い物』スキルがあれば、どうなのか分かるんだろうけど……全然分からない。


 安い物でも、100万トルグ……


 高い物で、じゅ……十億トルグ……


 この中から選ぶとしても……なかなか難しいな。


 理想は短剣と剣の間くらいの長さがある剣だ。


 そうなると数は一気に絞れてくる。


「おや? これは……」


 武器が乱雑に積まれている一角。


 その奥の方に埃をかぶっているものがあった。


 それは鞘が実にキレイな物だった。


 黒光りする鞘……長さからすると、理想とする長さ。


 これならば……


「なんだ、これ?」


 柄を握り、抜いてみたが刀身がない。


 柄だけのへんてこな物だ。


「それに目をつけるとは、流石ですね。それは百年前にいた伝説の鍛冶師が拵えたたと言われる一品ですよ。それは刀身がないのではなく、持ち手が刀身を作るとされるものなのです」


 言っている意味が分からない。


 持ち主が刀身を用意して、これに嵌めるってこと?


 それってどうなの?


「違いますよ。それは魔法剣と言われるもので、魔力を刀身に変えるというものです。魔法師専用の武器で、魔道具と武器の両方の性質を持っていると考えれば、分かりやすいかと」


 魔力を消耗する武器か。


 ……いまいち良さが分からない。


「魔法の剣ということなので、形状も強度も調整が可能です。また、メンテナンスも不要となります。ただ、その武器の重要な部分が柄となりますから、そこが壊れると修復不能となります」


 すごいじゃん!


 メンテナンス不要はありがたい。


 でも、そんなに凄い武器なのに、埃をかぶっているのが不思議だ。


「魔力消費量が凄いんですよ。並の魔法師ではすぐに魔力切れを起こしてしまいますからね。ですから、人気がないんですよ。物はいいものなんですけど……」


 『戦士』スキル持ちの僕が触っても、何も反応がない。


 魔法師ではないからか。


 ミーチャなら使いこなせるかな?


 二人しかいないパーティーで、攻撃ができる人がひとり増えるのは大きな戦力向上だ。


 雑魚でも数が異常に多いときなんかは、有効なんだよな。


 値札を見ると……100万トルグ。


「これください」


 勢いで買ってしまった……。

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