第60話 side タラス⑥
「クソがっ!」
俺はなんで逃げてんだ?
ボリの街から逃げようと決めた矢先に捕まった。
訳の分かれねぇ連中が俺をボコボコにしていきやがった。
くそ……忌み子に関わってから碌なことがねぇ。
金もねぇ、女も抱けねぇ、服もねぇ。
『剣士』スキル持ちの優秀な俺様だったんじゃねぇのか?
王国に来てからいい事がねぇ。
「タラス様。ご無事ですか?」
「てめぇ、真っ先にずらかるとはどういうことだ?」
「す、すいません。持っている金を奪われるわけにはいかねぇと思って。それにあれくらいの連中なんてタラス様ならと思って……」
ちっ!
「当たりめぇだ。あんなやつらのパンチなんて大したことなかったぜ。殴られ損はしちまったけど、これで追われることもねぇだろうよ」
「流石です。わざと殴らせてとは……なかなか出来ることではありませんね」
へっ! おだてやがって……こいつがバカで助かったぜ。
実は手も足も出なかった、なんて、口が裂けても言えねぇな。
ドランの用意した粗末な服に袖を通した。
公国の後継者が、なんでボロ布を着ねぇといけねぇんだ。
「とりあえず、こんな街とはおさらば。すぐに行くぞ」
……まだ追われている。
「あいつら、しつけぇな! くそっ」
「タラス様。とにかく町の外までの辛抱です」
ドランの言う通り、町の外に出ると追ってくるやつがいなくなった。
「足がいてぇ」
裸足で走ったものだから、足が血だらけだ。
ドランがすぐに布を足に巻いてくれた。
「お? おお。すまねぇな」
「タラス様が『すまねぇ』だなんて。俺は嬉しいですよ。その言葉を聞けただけでも……」
なんだかんだ、ドランはよくやってくれている。
公国に戻ったら、こいつにはそれなりの地位をくれてやろう。
その代わり、今はこき使ってやる。これが王たる努めだからな。
……
「ほお。これがサンゼロの街か。きったねぇ、街だな、おい」
「タラス様。あんまり大声は上げねぇで下さい。今は冒険者が多いって話ですから、あんまり争いをしたくないんですよ」
「あんだと? 俺がいつ争いを起こしたっていうんだ?」
「どこでも起こしているじゃないですかぁ!」
あん? そうだったか?
でも、俺が悪いことは一度もねぇ。
いつだって、周りが悪いんだ。
そうだよ。俺は公国の後継者。
他のやつとは身分ってやつが違うんだからよ。
「これがギルドか。きったねぇな。本当に大丈夫なのか? 金稼ぎなんて、こんな場所で出来るのかよ」
「任せて下さいよ。こう見えても、俺はC級冒険者の資格を持っているんですから。ダンジョンの外縁になら入れるんで、簡単に路銀くらいは稼げますよ」
「ほお。じゃあ、任せた。俺は……そうだな……おっ。あそこに酒場があるな。そこで待っているからな。何日だ? 明日か? 明後日か?」
こんな汚ねぇところは、さっさとおさらばしてぇところだ。
簡単に稼げるなら、今日中でもいいくらいか?
「冗談言わねぇで下さいよ。最低でも一週間は……」
つかえねぇな。
「宿だ。まずはそれを用意しろ」
「畏まりました……」
数分後……
「どうやら、どこの宿もいっぱいみたいで。雑魚寝なら出来る場所が……」
ふざけるな! と叫ぼうとしたが、なんだかさっきから注目を浴びている気がするな。
ちっ!
「ドランは宿を見つけてこい。それが終わったら、俺の飯の用意だ。金稼ぎはそれからだな」
「はい……飯はそこに食堂があるみたいなんで、そこで適当に食べていて下さい」
食堂か……酒場と思っていたが違うみたいだな。
でも一緒みたいなもんだろ。
どれ、久しぶりにたらふく食うかな。
……どこもかしこも汚ねぇ場所だな。
食堂? ゴミ溜めの間違いじゃねぇのか?
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
おっ? ゴミ溜めにいるにしては、いい女じゃねぇか。
そういやぁ、しばらく女を抱いていなかったな。
「おい、女。とりあえず、伽をしろ。本来であれば、お前ごときが俺の体に触れることは許されないのだが……」
「気持ち悪っ!」
なんだ、あの女は……俺に対して無礼なことをいいやがって。
まぁいい。見てみると、女はたくさんいる。
誰かぐらいは……
くそっ! 誰も伽をしたがらねぇ。
どうなってやがる?
この高貴な俺を……待てよ。
この服か!!
ドランが用意した服に問題があんだな。
だったら仕方がねぇな。
「お待たせしました。あれ? まだ食事をしていなかったんですか? 一応、宿もとれたので、すぐにお休みになれますよ」
「おい。女を用意しろ。あと、服だ。ここの女ども、俺の服を見て、嫌そうにしやがるんだ」
「勘弁して下さいよ。今は一トルグも無駄には出来ないんですから。もうちょっと余裕が出来てからにして下さいよ」
ちっ!!
くそっ! 全然、上手くいかねぇじゃねぇか。
「忌み子さえ見つかれば!! 俺はこんなところで油を売っているような立場じゃねぇんだぞ。ドラン。その辺の情報はねぇのか」
「たしか……関所で怪しい二人がいたった話ですよね。もし、片割れがミーチャだったら、もう一人は誰なんですかね?」
こいつ、バカか?
「決まってんだろ。無能者のロスティだろうがよ! あの忌々しい無能者が。俺の邪魔ばかりしやがって」
「しっ!! 声が大きいですぜ。誰かに聞かれたら……」
「おい、お前たち……」
誰だ、こいつ。
やけに体の大きなやつだな。
「お前は……ドランではないか。久しいな。どうだ? 仲間もいるんだ。今晩でも……」
「ガルーダさん。お久しぶりです」
なんだ? こいつらは知り合いか?
そういやぁ、ドランは冒険者だったって言ってたな。
その繋がりか……
「そういえば、ロスティとミーチャという名が出ていたが? 二人に用なのか?」
どう言う意味だ?
「ガルーダさん。二人を知っているんですか?」
「当たり前だろ。サンゼロの街の冒険者で二人を知らない奴はいないぜ」
来た!
ついに来たぞ!!
俺にも運が巡ってきたぜ。
「おい、お前。すぐに案内しろ」
「なんだ、おまえは? ……それにしても、もう少し痩せたらどうだ? そんなんでは男も女も寄ってこないだろう」
大きなお世話だ。
俺には公国の後継者という何人にも代えられない魅力があるんだ。
「ガルーダさん。お願いしますよ。二人に会わせてもらえないでしょうか?」
「それは構わねぇが……言っておくが、二人はB級冒険者だからな。言葉遣いには気をつけろよ」
「B級……!? わ、分かりました」
B級がなんだか分からねぇが、無能者と使えねぇ闇魔法使いだ。
俺の『剣士』スキルの前では手も足も出ねぇだろうよ。
久しぶりにボコボコに出来るな。
それに久しぶりに女の肌も味わえそうだな。
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