第59話 特別昇級

 ギルドに戻ってきた一行。


 怪我人はすぐにギルドの医務室に収容された。


 事情を知っている者たちだけがギルマスの元に集まった。


 『白狼』のメンバーはもとより、ガルーダ、僕とミーチャまで呼ばれた。


 ルカが現場から持ってきた空き瓶はすでにギルマスの手の中に……


 大きな顔から滲み出す汗……


 空き瓶を眺めながら、ギルマスが唸っていた。


「こんなものが見つかっちまったら、ギルドとしては動かざるを得ないな……。まったく、なんだってこんなことに」


「中身については、アクアが解析をしてくれたけど、案の定って感じね」


 ギルマスとルカは互いに確認をしながら、会話を進めていく。


 ……話についていけていないぞ……


 ガルーダとミーチャは……


 あれ? 結構真剣な顔で頷いてなんかしている。


 分かっていないのは僕だけ?


「ふむ……しかし、これほど分かりやすいことをするか? フォレストドラゴンの体の中だろ? いくら何でも……」


 あの瓶が、あのモンスターの中に……


 そもそも、あの瓶に何が入っていたんだ?


「あの……ちょっと聞いていいですか? その瓶に何か問題でもあるんですか? 話が全くついていけなくて……」


 ガルーダ−とミーチャは、『よく言ってくれた』みたいな顔をしていたけど……まさかね。


「ああ。君には言っていなかったね。実はね、君が倒したフォレストドラゴンがどうやら群れのリーダーだったようなんだよ。それはどうでもいいんだけど、その体内に香り花のエキスが入った瓶が埋め込まれていたんだ」


 それはつまり……


「今回のモンスターの移動が人為的であった証拠さ。そして、問題となっているのは……ギルマス、言ってもいいんですか?」


 もしかして、聞いてはいけない話だった?


「まぁいいだろう。どうせ、遅かれ早かれ分かることだ。この事件の背景には商業ギルドが噛んでいると俺は見ている。ただ、あまりのも露骨なやり方だからな……真偽はもう少し調べなければ分からんがな……」


 いきなり出てきた商業ギルド。


 商業ギルドは商売の全てを司る大きな民間組織。


 その力は、大貴族にも匹敵するほどと言われている。


 ふと思い出すのが、商人になろうとした気持ちを盛大にへし折ってきた……商業ギルド。


「分からないんですが……なぜ、商業ギルドがこのような事をする理由があるんですか?」


 「えっ? なんで知らないの?」って顔を皆からされた。


 あれ? もしかして、この辺りは常識なの?


 ミーチャも首を振って、呆れている様子だ。


「それは誰かにでも聞くがいい。なんにしても、モンスターをダンジョンに引っ込めた功績は実に見事だった。今回は特別なクエストだった故、参加した皆にポイントを付与するつもりだ。『白狼』はもはやポイントは不要だろうから、別の形にしてくれ。俺からは以上だ」


 あとでミーチャにでも聞くか……


 さて、話は終わりかな……


「ちょっと待って下さい!」


 声を上げたのはガルーダ。


 随分と鬼気迫る雰囲気だ。


 まさか、先程の続きになるような新情報が?


「どうしたんだ? ガルーダ」


「忘れては困りますぜ。ギルマス」


「うぅむ……やはり覚えていたか。ガルーダ、皆に伝えろ。今日は俺のおごりだ。好きに飲めと」


「よっしゃぁ!! さすがギルマスだぜ!」


 結構、和やかな雰囲気になり、解散になろうとした。


「ちょっと待ってください」


 再びガルーダ。


 今度は少しトーンは大人しめだ。


「まだ何かあったか?」


「実は……この二人、小僧と嬢ちゃんを特例でランクを上げてやりたいと思っているんです。俺は二人の実力があれば十分にB級でもやっていけると思うです」


 ……忘れていなかったのか……ガルーダ。


 優先順位は、ギルマスのおごりより低いみたいだけど……


「ほお。それほどの働きをしたのか……なるほどな。だがな、ガルーダ。忘れたわけではあるまい? 推薦人はB級以上の冒険者三人が必要であること。パーティーの者は使えぬからな。ゆえに……」


「だったら、私も推薦するわ。フォレストドラゴンを単体で倒せる戦力をF級にしておくのは惜しいわ。ギルドにとっても大きな損害のはずよ。それとも私の推薦では不服?」


 ルカも僕を認めてくれた。


 いや、ミーチャもか。


「うぅむ……しかしな……」


 組織にとっては規則は重要だ。おいそれと変えるわけにはいかない。


「もう一人いれば、儂とて文句は言うつもりはないんだが……」


 無理だろうな。


 あの戦いに参加したB級冒険者はたくさんいたけど、僕の戦闘を見た人間となるとほとんどいない。


 見てもいないのに推薦する人もいないだろうな。


 残念だったな……ミーチャ。


 少しずつランクをあげて、ダンジョンに挑むことにしよう……


「俺が……俺が最後の推薦人だ!」


 急にドアが開いたと思ったら、大声を張り上げた包帯人間がいた。


 声から察すると……


「もしかして……赤き翼の人ですか?」


「くっ……この場でそれを言うか? これでもカッコつけて入ってきているんだぞ!? 台無しではないか!」


 いや、そんなに怒らなくても……


 多分だけど、この場にいる人で分かったのはきっと僕だけだと思うんだけど。


「おお、赤き翼のレオンだったか。誰だったか、分からなかったぞ」


「レオン? 誰だっけ?」


「レオン、大丈夫なのか?」


 誰の言葉かな?


 一人、かなり失礼な人がいた気がしたけど……女の声だったような。


「くっ……ああ、俺はB級冒険者のレオンだ!! そのゴミ……いや、ロスティの推薦人になる!! それでいいんだろ? ギルマス」


「ほお。お前がF級冒険者の推薦人になぁ……面白いことがあるものだな。いや、三人の推薦があれば、儂としては文句はない。ロスティ……そして、ミーチャよ。ギルマスとしてそなたらの特別昇級を許可する。これで晴れてB級を名乗るがいい」


 話がついていけない。


 レオンがどうして?


 あんなに僕を嫌っていたじゃないか。


「これで貸し借りゼロとは言わねぇ。命を助けらたからには、それ相応のことはさせてもらう。何かあれば、俺に頼れ。出来ることなら、何でもさせてもらうぜ。ロスティ!」


「いや、気持ちだけで結構です」


「だから、おめぇは!! もうちょっと空気読めよ! 俺、凄くいいこと言ってるんだぜ? 俺を立てるとか、そういう気遣いはないの?」


 ない……かな?


 初対面から最悪だったし、再会したときも最悪だったし。


 なんだったら、宿の権利を奪おうとまでしてきたからね。


 推薦人になってくれたことは、嬉しいけど……


「やっぱり、気持ちだけで……あっ!! そういえば、ギルマス。この人、仲間を見捨てて、フォレストドラゴンに無謀に戦いを挑んでいましたよ。A級がどうたらとか……」


「ほお。レオン! あとで話を聞かせてもらおうか。内容によっては、降格処分もあるからな。覚悟しておけよ」


「来なきゃ良かったぜぇ……!!」


 レオンの悲痛な叫びが部屋に木霊した。


 ちなみに……フォレストドラゴンを単体で討伐できても、A級は難しかったらしい。


 完全に無駄骨だったようだね……赤き翼のレオン。

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