第57話 S級冒険者

 信じられない光景が広がっていた。


 フォレストドラゴンが四人の冒険者によって、一瞬で屠られていく。


 あんなに苦戦していたっていうのに……


「これでいいですか?」


 目の前にいる人も突如として現れたパーティーの一員みたいだ。


 目の前で膝を折り、僕に手をかざしている。


 温かい……


 そう、目の前にいる人は回復魔法を使える人。


 そして、僕は回復魔法を使ってもらっている。


「ありがとうございます。すっかり良くなりました」


 さっきまで体がバラバラになるほどの激痛が嘘のようだ。


 ミーチャも回復魔法は使えるけど……レベルが違うようだ。


「あの……さっきから、後ろの彼女さん? がこっちを睨んでくるんですけど……」


 後ろ?


 当然、ミーチャのことだ。


「彼女ではないです! ロスティの妻ですけど!!」


 ミーチャは何を言っているんだ?


「なんか、すみません。助けてもらっておいて。ミーチャもお礼を言ってくれ」


「くっ……ロスティを治療してくれて、ありがとうございます……」


「いえ、気にしないで下さい。あっ……間もなく戦闘が終わるようですね」


 始まって十分も経っていないぞ。


 あの数を……?


 実際に見てみると、起き上がっているフォレストドラゴンはあと三体。


 信じられない。


 もう一度言う。


 あんなに苦戦したのに!?


「あの……貴方方は?」


「俺が説明しよう」


 あっ、ガルーダいたんだ。


 完全に空気になっていたよ。


 「その前に……俺の目に狂いはなかったようだ。まさか、フォレストドラゴンを単騎で屠れるやつがいたとはな……驚きを通り越して、なにやら恐怖を感じる。いや、それよりも……本当に助かった。ありがとう、小僧……いや、ロスティ」


 ガルーダはF級の僕に頭を下げてきた。


 「小僧……じゃねぇ、ロスティ……」


 正直、今まで小僧って言われていたから、なんとなく名前で言われるのにくすぐったさを感じる。


 「ガルーダさん。小僧でいいですよ。そっちの方が、なんだかしっくりするので」


 「おお? そうか? だったら、俺のことをガルーダと。さっき、呼び捨てにされた時はなんというか、心が熱くなったぞ」


 えっ!? あれ? なんだろう……多分、褒めてる? でも、全然嬉しくないぞ。


 「おっと、話を戻そう。小僧がいなければ、俺達は全滅していた。このことは必ずギルマスに……」


 「僕がいなくても、この人達でなんとかなったんじゃないですか?」


 「それは違いますよ。私達もギルマスに言われて、飛んできましたけど……あなたが時間を稼いでくれていなければ、本当に冒険者さん達は危機的状況に陥っていたと思いますよ。ですから……もう少し、誇ってもいいことだと思いますよ」


 そうかな? なんだか嬉しいな。


 評価されるってこんなに嬉しいことだったけかな?


 公国にいた頃は、みんな、僕を褒めてくれた。評価もしてくれた。


 けれど、どこかで公主の息子だからじゃないかって疑っていた。


 だからあまり嬉しくなかったんだ。


 でも、この人達は違う。


 本当に……純粋な評価なんだ……


「ありがとう……ございます」


 なんだか、ふと涙が出てきてしまった。


 安心したせいか?


 評価されたから?


 分からないけど……いい涙だと思う。


「お、おう。どうしたんだ、急に?」


 涙を拭って、話の続きを聞こう……


「この方達は『白狼はくろう』というS級パーティーだ。王国に五つしかないパーティーの一つだ」


 S級!? この人達が……。


 といっても目の前には一人しかいないけど。


 これがS級の実力か……


 遠目で見ても、参考にならないほど強い。


 だって、一撃だ。


 あのフォレストドラゴンが……


 しかも、固い鱗をいとも簡単に両断している。


 うわっ……あの巨体を殴って、吹き飛ばしているよ。


 あれは……雷撃? 黒焦げだ。


 あの人は……何かを投げた? 瓶?


 一瞬で息絶えたように見えたけど……なにあれ?


「あの、さっきギルマスに頼まれたって言っていましたけど……たしか、ダンジョンに潜っていたんですよね?」


「え? ええ。その通りですよ。攻略中だったんですけど、違和感があるってルカちゃんが……それで地上に。そしたら、ギルマスから事情を聞いて、飛んできたんですよ」


 ルカちゃん? ……今はいいか。


「違和感っていうのは?」


「私には分からなかったんですけど……モンスターが地上に向かって進んでいたんです。私としてはモンスターに遭遇する可能性が減るから喜んだんですけど……あっ、これ内緒でお願いしますね」


 この人は本音を言ってしまう人なんだろうか?


 まぁいいか。


 やっぱり、ここにいるモンスターはダンジョンから飛び出してきたって可能性が高いわけか。


 しかし、ダンジョンが拡張している様子もない……


 そうなると……


「誰かがモンスターを操っているってことですか?」


 誰に言うわけでもないけど、言ってみた。


 やっぱり反応してくれるのはガルーダか。


「その可能性はかなり高いな。しかし、操るって言ってもこれだけの数となると、ちと考えにくいな」


 じゃあ、なんだろう?


「小僧は匂い花って知っているか?」


 匂い花って、たしか強烈なニオイを放って、虫や昆虫をおびき寄せる花のことだよね?


「そうだな。モンスターにも効くやつがあるという話を聞いたことがあるんだ。そういうもので、モンスターをおびき寄せているじゃねぇか、と俺は思ってんだ」


 なるほど……それならば、匂い花みたいなのを設置しておけばいいってことか。


「でも、そんなのあったかな? モンスターをおびき寄せるっていうんだから、相当な匂いなんじゃないの?」


「分からねぇ。ただ、モンスターは匂いに敏感なやつは多い。俺達でも気づかないって可能性も捨てきれねぇだろうな」


 今のところは怪しいものはなかった。


 悠長にそんな話をしていると、不意に声を掛けられた。


「終わった終わった! さあ、皆で帰ろうか」


 上を見上げると……血まみれのマントとフードをかぶった人が立っていた。


 フードを取り払うと……


 美しい女性がいた。


 金髪に碧眼……どこかの王侯貴族でも見かけないほどキレイな顔だった。


 そして、耳があった……いや、誰にでも耳はあるよ。


 そうじゃなくて、大きな……獣の耳があったんだ。

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