第56話 巨大モンスターとの攻防

 フォレストドラゴンの戦いは、厄介なことだらけだ。


 僕に取りうる攻撃は、木聖剣による物理攻撃だけ。


 しかし、その攻撃もフォレストドラゴンの固い鱗の前では太刀打ちできない。


 誤算と言えば、木聖剣が折れないで耐えてくれていることだけだ。


 フォレストドラゴンの攻撃は噛みつき、爪によるものがほとんどだ。


 『戦士』スキルによって上げられた耐久力でなんとか凌げてはいるが、厄介なのは尻尾による攻撃だ。


 近接しか出来ないが、距離を詰めると尻尾攻撃をしてくる。


 こればかりは当たると、ダメージがかなり大きい。


 一進一退……いや、僕がフォレストドラゴンの攻撃を避けているだけの一方的なものだった。


「まだ、撤退は出来ないのか……」


 攻撃を受けている間、レオンが逃げた方角を見ていたが、何をしているのか、まごついているようだ。


 ガルーダとミーチャは?


「……くそっ。なんでもう一匹いるんだ!」


 同じ大きさのフォレストドラゴンが二人を襲おうとしているのが見えた。


「ミーチャ!!」


 早く助けに行かなければ……


 厄介な尻尾攻撃を躱しながら、なんとか攻撃を加えようとするが接近を許してくれない。


 どうすれば……


 少しの距離を取ると、フォレストドラゴンはすかさず、俊足を活かした噛みつきをしてくる……。


 さっきから、でかい口ばかり見せてきやがって……


 口……そうか!!


 噛みつき攻撃を躱し、フォレストドラゴンの背後を駆け抜けた。


 ミーチャ達を助けに行くわけではない。


 こんな化物を二匹も相手に出来るわけがない。


 ここで確実に仕留める。


 さっきまで赤き翼隊が戦っていた戦場。


 当然、落ちているものがある。


 剣と槍……武器だ。


 必要なのは、剣だな。


 適当な剣を拾い上げた。


 右手に剣、左手に木聖剣。


「二刀流なんて出来るのか?」


 いや、やらなければ……こいつは倒せない。


 すぐに迫りくるフォレストドラゴン。


 大口を開けての噛みつき攻撃。


「今だ」


 突進をして、相手との間合いを一気に詰める。


 今まで逃げていた相手が突進してきたせいで、フォレストドラゴンは僕との距離を見誤り、一瞬だけ動きが止まった。


 右手で持つ剣で大口に滑り込ませ、上顎を一気に突き刺した。


「浅い……」


 しかし、どんな攻撃でも痛がらなかったフォレストドラゴンが初めて怯んだかのような声を上げた。


 剣は上顎に突き刺さっている。


 そんなのはお構いなしのようだ。


 さらに大口を開けての噛みつき攻撃を加えてきた。


 これで決める!!


 木聖剣を右手に持ち直し、縦になるように構える。


「木聖剣……耐えてくれ」


 フォレストドラゴンの大口に木聖剣を縦に押し込めた。


 上手くいった。


 木聖剣がつっかえ棒のような役割をして、フォレストドラゴンの口が閉じるのを押さえ込んでいる。


 すかさず、上顎に突き刺さっている剣を引き抜き、開いている大口に剣を突きさす。


 尻尾攻撃が迫りくる……。


「いけぇーーー!!」


 剣はフォレストドラゴンの口の中を深々と突き刺し、頭を突き破った。


 その瞬間、フォレストドラゴンからは力が抜け、巨大な体は地面に倒れ込んだ……。


「はぁはぁはぁ……勝った……」


 そんな高揚感が襲ってきたと思ったら、遠くから悲鳴が。


「ミーチャ!!」


 すぐに木聖剣を取り出し、剣を抜こうとしたが、深々と刺さっているせいで抜ける気配がない。


 使えない。


 すぐに諦めて、次の剣を探し、二刀流の構えで悲鳴のする方向に向かった。


 そこでは、ガルーダが障壁を展開している。


 しかし、フォレストドラゴンにしてみれば、紙のようなものらしい。


 尻尾で簡単に粉砕していく。


 ただの足止めにしかなっていない。


 ミーチャは魔法を使っているみたいだが……効いている様子がない?


「ミーチャ!! 無事か!?」


「ロスティ……ロスティ。怖かったよ」


「もう大丈夫だ。こいつは僕が足止めする。ミーチャは引き下がっていろ!」


「いや!! ロスティと離れたくない!」


 こんなときに……


「ガルーダ! あいつが大口を開けた時に、大岩を口に入れられるか?」


「お? おお。やってやる。だが……」


「囮は僕がやる。あいつが噛みつき攻撃をした時に合わせるんだ」


「ああ!!」


「ミーチャ!! 僕の分身を作れるか?」


「へ? うん。出来ると思う」


「頼む!」


 敵に幻覚を見せることが出来るなら、それくらい分身を作るくらいわけないはずだ。


 今はフォレストドラゴンから一撃でも受けないことが重要だ。


 僕の体は、もうボロボロだ……。


 フォレストドラゴンに突進した。


 とにかく、アイツの意識を僕に集めるんだ。


 フォレストドラゴンはすぐに虚空に噛みつき攻撃を始めた。


 僕の分身に攻撃しているんだ。


 全部で四体。


 攻撃を受けると、分身はすぐに消えていく。


「ガルーダ。今だ!!」


 時間稼ぎは十分……。


 魔法詠唱の時間も十分だ……。


 しかし、誤算があった。


「むう……」


 くそっ!!


 『むう……』の時間を考慮していなかった。


 フォレストドラゴンの噛みつきを受けざるを得ない。


 この口の開きでは木聖剣は入らない……。


 背後に転がり、体勢を崩している間に、連続の噛みつき攻撃が襲ってきた。


「避けられ……」


 すると目の前で大岩が作り出された。


 フォレストドラゴンからすれば障害物だ。


 すぐに噛み付くが、なかなか壊れない。


「今しかない!!」


 拾った剣をすかさず、岩の間から口に深々と突き刺した。

 

 大岩が邪魔で上手く刺さらない。


「こうなれば……」


 木聖剣を持ち直し、剣の柄めがけて思いっきり突いた。


 剣はさらに深く突き刺さり、頭上に剣先が飛び出すほどだった。


 さっきと同じ光景が広がった。


 ……勝った。


「ミーチャ……ガルーダ、さん……」


 何か言おうと思ったが、力が一気に抜けてしまった。


 今にも倒れ込もうとした時に、ふわっといい香りが包み込んできた。


「ロスティ。頑張ったわね……」


 ああ。頑張ったよ……


 匂いに包まれて幸せな気分だった。


 でも、それがすぐに壊されるなんて想像できるか?


 いや、想像もしたくない。


「そ、そんな……」


「マジかよ……」


 ミーチャとガルーダの悲壮な感じの声が耳に入ってきた。


 ふと、目を開くと……視線の先には……フォレストドラゴンの群れがいた。


 二十……三十……?


 僕達は終わりを覚悟した……。


 そんな時に、目の前に誰かが立ちはだかった。


「よく頑張ったね。これからは私達、『白狼』に任せてもらおうか」


 王国に五つのパーティしかいない、S級パーティーだった。

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